いつもと同じような日曜日
学校もなければ、部活も今日に限ってないという一番退屈な日

一人しかいない家に居るよりかはマシだと、商店街へと足を運ぶ



商店街の活気は週末だからか
いつも以上に賑わっていた

退屈な時にそれを見ていくのは意外と面白い。

重荷を背負った体に
この雑音は心地良いのだ



「……っ…?」



目を瞑り、聴覚を
辺りを見渡し、視覚を

その繰り返しで進んでいた足は
ふと、ピタリと止まった

自分が視線を向けた雑貨店に
女性と一緒にいるアイツの、
流氷の姿があったからだ。



「(来てたのか……)」



何を緊張してたのか
少し強張っていた肩を落とし、一息吐く。
その間にも目線は流氷を見つめる

相手は高校生だろうか、
スレンダーというに相応しく
そして無邪気に笑う女

それに応えるように
流氷も、俺が見たことない笑顔で…

瞬間、大きなショックが身体中に走る



「………っ」



一度も見たことない流氷の笑顔と共に、女もまた楽しそうに綻んでて

流氷から突き放された様な
目の前の現実を見せ付けられている様な

急激な疎外感と虚無感が
一気に俺を押し寄せる




…な…んで、だよ…

俺は…、叶わないことに
必死になっていた……?

俺は…、お前に夢中でいたのに…
お前はもう、俺を見ていなかった?


……くそっ…
くそっ、くそっ、くそっ…!!!



妬み、憎悪、悔しさ、寂しさ、
色々、色々と頭の中が混ざって

その場を去りたい筈が
体に信号に行き届かなくて
ただ、視線をそのまま足は動かない

見たくないのに
逃げたいのに

どうして動いてくれない?





「剣城……?」





ぐぐっと拳を握り
ぐるぐる回る思考に葛藤をしていた瞬間

遠慮がちに俺を呼んだ声と
肩に柔らかい感触

我に返り、反射的に振り向けば
一番、恋しくて
一番、憎らしい人



「よう…」

「散歩…か?」

「まあな………」



俺の気も知らずに
いつもみたいに口数少なくも開く口
温かい雰囲気を纏った流氷

けど、そんな流氷も
今は見たくはなかった。


優しい眼差しで俺を射抜いて
流氷は不思議に首を傾げる



「どうか…した…?」

「は?」

「機嫌、悪い…みたいだから」



少し遠慮がちにそう言って
俺の横を並ぶのだから尚更、バツが悪い。

誰のせいだと思っているんだ
……いや、誰のせいでもない

ただ、俺が勝手に恋心を抱いて
それが実らないことに悟っただけ

けど平然と傷を隠せるほど
俺はまだ強くない

まだ余裕がなくて
行き場のない感情を抑えるので精一杯なんだ



「…あ、そうだ
剣城に…渡したいものがあるんだ、」

「俺に?」



ぐぐっ、ぐぐっと
必死に感情に置き石を乗せて
なんとか最小限に抑えれば

流氷の言葉に何故か
嬉しくて振り向いてしまう



「良かったら、家に来ないか…?」



この言葉があの光景を見てなければ
なんて嬉しいことだっただろう

けどからっきし嫌でもなく、
気が付けば流氷と一緒に足を進める自分、また…感情が少し盛り上がった






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