結局あの後、二人にからかわれて
「心配ならご飯運んであげなよ」っと
半ば無理やりメニューを押し付けられて今、塑琉奈の部屋前に俺はいる



「………」



正直いっちまえば
俺は塑琉奈のこと
気にしてんだろうな

あいつがいない今日の食事が
凄く不味く感じたくらいだ


俺はかなり塑琉奈を
稼働源に動いてんだっと
理解したのは結構前に…だけどな



「おい、塑琉奈」



自分に似合わず
三回、ドアのノックして
あいつの名前を呼ぶ



「………」



だがあいつの返事はない
俺はまたノックを繰り返す



「飯持ってきてやったから
さっさと開けろ」



また、返事はない

ノックと俺の声だけが廊下に響き
シンッと静まり返り

俺は仕方なく、ドアノブを回し
ゆっくりとドアを開けた



「おい…?」



部屋を覗いて見れば
ライトの明かりはなく、
窓に差さる月明かりのみ

そっとドアを閉めて、音を立てずに
ライトのスイッチを入れれば

ベッドの上で
だらしなく寝ている塑琉奈の姿



「…こいつ……」



はぁっとため息をついて
ゆっくり歩み寄り、机に献立の乗ったトレイを置いてから
俺は気に食わなくて、少し眉を潜めた



「お菓子なんて…どこにもねぇじゃねぇか」



そう、先ほどの来夢たちから聞いた伝言とは違い、机の上はノートと筆箱だけ

他に物は置いていなく

それは、塑琉奈が嘘を付いた…
ということになる



「…、おい起きろ」

「いぎゃ……っ!!?」



気に食わなくて、寝ている塑琉奈に
げしっと一蹴り入れてやる

すると奇声を上げて塑琉奈は
最悪の目覚め方をすることになり



「痛い…」

「うるせぇ、さっさと飯食え」

「…えっ!?あっ…!!?」



塑琉奈がやっと不動を認識した瞬間
なぜかガチっと体を固まらせた



「てめぇ、なんで飯食いに来なかった?」

「おっ…お菓子あるから」

「どこに?」

「………」



硬直した塑琉奈に
睨みを効かせ、問うてみれば

直ぐ不動は塑琉奈の様子が
おかしいことに気付く





なんだこいつ……

なんで緊張してやがる





「ふっ…不動、ご飯ありがと
だからもう戻っても大丈夫だよ」




くっそ…ずっと考えてたら

変にあき…不動のこと意識してるなこりゃ…

あの約束もあるし…
あまり関わっちゃいけねぇ





「…………」

「…………」



喉から掠れる様に聞こえた塑琉奈の声

不動は未だに表情は曇ったまま
塑琉奈を見据える



「……食い終わったら、てめぇで片付けろ」

「はっ、はーい」



少しの沈黙の中、
やっと不動がドアに歩み寄り、出ていくのを見て、塑琉奈はぎこちなく笑ってその背を見送った





「……ぬあー!!!!」



それを確認して塑琉奈はぶはっと声上げ、勢い良くベッドに顔を埋める





ダメだー、あまりにも露骨過ぎるー!!!

大体、今まで仲良く?
いや仲良くしてたのか
不動はわかんねーけど

いきなりそれに
一線掛けるのは難しいぞ!!!





「あんな制限がこんなに辛いとは…」





仲良く…か

こうも好きな相手に
素っ気ない態度をするってのは

辛すぎる


うん?好きな相手?





「……まっさかー!!!!」











不動は部屋を出てからというもの
塑琉奈の不自然な態度に身覚えがなく、苛つきを募らせた



「なんなんだよ」





今さら、苗字呼びとは
他人行儀じゃねぇか

はじめっからあだ名で
呼んできてたくせに勝手過ぎるぜ





「気持ち悪い顔しやがってよ」



先ほどの塑琉奈を思いだし

今までの破天荒で自由気ままなものは全くなく、塑琉奈には似ても似つかない粘り付いたジメジメとした感情を本人から感じ取り

不動は一人、舌打ちを落とした





俺はなにもしてねぇし
やっちゃいねぇ

やりてぇ気持ちは幾度かあったが
そこまで猛獣ではない

それにあいつの笑顔があってこそ
俺は俺という存在が感じれてた

気楽に、楽しく、笑って
土足で俺の中に入って、掻き回して

そうしていつの間にか
塑琉奈が、俺にとって不可欠な存在となっていたのに



「また…か」



俺は、利用されちまったのか…な…






back
×