心亜が戻ってきたのは朝方早朝。どこかからラジオ体操の音楽が聞こえてくるのを耳にしながら心亜はトイレへと足を運んだ。
一番奥の扉を見ると鍵は開いたまま。中から何も音がしない為扉を開いて見ると、力無く体を縛られたままの吏人がそこにいた。
水をかけられた後も何人か客が来たらしく、殆ど変わらない状態にまで汚されてしまっている。顔色悪く目を閉じ眠っているが余りろくには寝ていないであろう。心亜はそんな衰弱しきった吏人を無表情に見下ろすと、一度用具入れに向かいそこにあった、蛇口に取り付けられたままのホースを引っ張り出す。蛇口を捻ってばしゃばしゃと水を出すと、そのまま吏人がいる個室まで持っていき、ホースの口をすぼめ吏人に水をかけ始めた。

「ひぁ!わッ!」
「おっはよーリヒトー」

そう言って吏人の頭にも水をかける。冷たさに体を震わせくしゃみをする吏人を鼻で笑うと、丹念に体中に水をかけ床を適当に掃除する。数分かけてそれを終わらせると水を止め、持って来たらしいタオルで吏人の体を丁寧に拭き始めた。
虚ろな目を空中に漂わせていた吏人だったが、目の前にいる人物が心亜だと理解すると少しずつ目に光が戻ってくる。カチャリと後ろで何か音がしたと思ったら、心亜が手錠を外した音だったらしくやっと腕が解放された。ロープもあれだけ硬くて外れなかったのが嘘かの様に簡単に外していき、体が痛い体勢から普通に座れる状態になれた。

「ほらーリヒト立ってよ」
「…え?」
「いつまで蓋の上に座ってる気?」

誰が乗せたんだ。と言いたかったが吏人もこんな不安定な場所にいつまでも座っていたくなかったのだろう。心亜に手を貸してもらいながら立ち上がると、蓋を開いて「はい座ってー」と便座の上に座らされる。
濡れて役立たずになった靴下を引っ張り脱がせると、心亜はそこも丁寧にタオルで拭っていく。こんな所に連れて来られて恨んでいた筈なのに、今心亜にこうやって介抱されている。そんな吏人の混乱を余所に心亜は新しいタオルを吏人の頭に乗せ、「指突っ込むから」と言いだす。
指?と吏人が首を捻っているとすぐに言った事が分かった。緩んだ吏人の菊門に昨日散々味わった異物感が与えられる。

「ッ!シ、ア…!」
「大人しくしてろよ。…中に入ったままだと後が辛いよ?」

ね?と言うが、それでも気持ちが悪いのは変わらない。
心亜にしがみつき荒く息を吐き出し堪えると、心亜は二本の指で器用に中に出された精液を掻き出していく。ぼたぼたと落ちたものはそのまま便器の中へ落ちていく。額に汗を滲ませ歯を食いしばる吏人の様子を見て、「感じなかったんだ」と小さく呟いた。

「…な、にが?」
「リヒト君には才能が無いって事ォー」
「…………?」

見ると吏人の陰茎も萎えたままだ。結局一度も吐き出す事も大きくなる事もなかった吏人自身は、心亜に掻き出されている時もだらりと垂れ下がったままだった。
ある程度掻き出したのか、心亜が指を引き抜きタオルで臀部を拭うと。ぶら下げていたビニール袋を掴み中を確認する。

「結構来たんだねぇ。でも水性で書いたせいで金額わかんなくなっちゃったみたい」

ビニール袋に入れられた売上に手を入れると、10円硬貨を取り出して吏人に見せ付ける。
どうやら体に書かれていた値段はいつの間にか消えてしまっていたらしい。水をかけられた時だろうか。どっちにしろ文字が見えなかった吏人に正しい金額が分かる筈がなかった。

「酷いねー、まあ黒くなっちまったケツの穴も綺麗になったし、不幸中の幸いってやつ?」

けらけら笑う心亜に怒る気力も無いのか、吏人はぐったりとうなだれるだけで反応が無い。詰まらなさそうに心亜はため息を吐くと、水に濡れ床に転がる硬貨を拾い集めていく。
「リヒトも拾ってよ」と言われるが、衰弱した体は言う事を聞いてくれず吏人は動こうとしない。再びため息をついて作業に戻る。全て拾い集め終わったのか、んー。と大きく伸びをする。吏人が再びぶるりと体を震わせくしゃみをすると「あ、忘れてた」と心亜がショルダーバッグからビニール袋を取り出した。

「はい服」

「それくらい自分で着てよ」と渡された袋の中身を見ると、昨日着ていた服がそのまま全て入っていた。落とさない様に注意しながら下着だけを取り出すと、座ったままで不安定だったが何とか穿いて他の服も同じように着る。時間をかけてなんとか全てを着ると、心亜は同じ様に持ち帰っていた吏人の靴を渡す。裸足のままスポーツシューズを履けば、心亜は濡れて汚れた靴下をビニール袋に入れた。

「それじゃあさ。行こうか」
「ど、こに…?」
「ご飯。昨日食べて無いんでしょ?」

確かにそうだが。体の怠さで空腹感も感じていない吏人にとっては食事よりも睡眠を優先させたかった。そう訴えるが、心亜は自分の腹の虫を鳴らして拒否する。

「これ位あればさ。あれ食べられるよ」
「あれ?」
「お好み焼き」

そう言って心亜は無理矢理吏人を立たせると、小銭が擦れる音がするビニール袋を持ったままトイレから出ていく。腕を引っ張られたままの吏人はふらつきながらも心亜についていく形になる。
結局近くの店はまだ早朝でやっていなかった為一度吏人の自宅に戻り仮眠を取る事になったが、やはり昼過ぎに心亜にたたき起こされ服を着替えてお好み焼き屋へ向かう羽目になった。
風呂に入り体を洗い柔らかいベッドに横になっただけでも体力は回復していた。眠気が少し解消されると心亜の言う通り空腹感が吏人を襲い、店に入る前から漂う香ばしい匂いに大きく腹の虫が鳴いた。

「我慢しろよもうすぐで食えるんだし」

心亜は呆れたようにそう言うが、腹の虫が制御できる訳もない。畳の席に座り呆とテーブルに置かれたお冷やを見つめていると、吏人の前にどん、と丼に入った豚玉が運ばれた。
「適当に頼んだから」と言いながら混ぜる心亜の丼の中にはもんじゃの液体が入っており、嫌がらせかのように吏人の目の前でもんじゃを焼き始める。
吏人が体を張り稼いだ金で、しかも昨晩の事を思い出しそうな物を作る心亜にくつくつと怒りが沸いてくる。大体目の前にいる奴は自分を嵌めた奴なのだ。何故そんな奴と一緒に飯を食いに来なければならない。
すっかり失せた食欲だが折角来た物を食べないのは勿体なく、吏人も豚玉を混ぜ鉄板の脇で焼き始める。暫く無言が続き、お好み焼きが出来上がると吏人は心亜に渡さないと言うように皿に自分が焼いたそれをまるごと乗せた。
必要な調味料をかけ、「いただきます」と呟くと箸で小さく分けたお好み焼きを口に入れる。夜と朝食べていないせいなのか、味は体に染み込んでくるように美味く、食欲がどこかに行っていた筈の吏人の箸はどんどん進んでいく。
よく噛み締め飲み下す。ゆっくりと食べようとしてもまるで掻き込むように口の中に運んでいき、子供のように頬を膨らませて食い続ける。
半分まで食べ終わると、急に吏人の瞳から涙が溢れてきた。
泣きたい訳ではない。ない筈なのに。「おいしい」と小さく呟くと、更に吏人の瞳からぼろぼろと涙が流れ落ちた。泣きながらも、食べた。食べ続けた。

心亜は吏人のその様子を無表情で見続けると、出来上がった自分のもんじゃ焼きに小手を突き刺した。

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