夢の中にいる時に「ああこれは夢だ」と確信する夢がある。
例えどんな奇想天外な夢だろうが起きるまで夢だと気が付かない様に、現実と変わらぬ程リアルなのに夢と分かってしまう。
だからと言って見えない脚本に逆らえる訳ではないのだが、頭で強く念じれば夢自体を一時停止できたり夢から目を覚ます事はできる。俺も今まで、とんでもない夢を見た時に「これ以上はショック死する」と思い何度か抜け出す事に成功している。
そう、強く念じれば目を覚ます事はできる。
だから自分が見たい所まで楽しめばいいのだ。
しかし、

「………?」

今、雪哉を目の前にして、ベッドに押し倒して、俺は一体何を楽しもうとしているのだ。



(いやいや待て待て待てッ!)

落ち着け来栖。落ち着いて整数を数えるのだ。
そう、俺は寝る前に確かに雪哉と一緒にいた。一緒にいたと言うか雪哉の家にお前春休みだろ来いこっちはやること無くて暇で死にそうなんだよ。と強制的にお家デートに誘われ、久々に会ったせいか受験のプレッシャーから解放されたせいかやけに積極的な雪哉に過剰なセックスアピールをされ、まんまと乗ってしまった俺は真昼間から大いに思春期を満喫した訳なのだが。自分で思い出しても頭が痛い。
その我が儘過ぎて暴君に近い恋人と目の前の雪哉は違う。先ず髪が見た事が無いくらい短いし顔つきも俺より幼い。一般的な男子より高めな身長も俺と同じ位だし、大体俺にベッドに押し倒された日には顔を真っ赤にして照れ隠しと言う名の暴言を突き刺さしてくるはずである。それなのに雪哉は何故俺にこんな事をされているのか、これからどうなってしまうのか分からないと言う様に首を傾げるばかりだ。
これは、かわいい。じゃない。そんな事を考えて馬鹿か俺は。

(おい止めろ!止めろ!)

頭の中でそう強く念じるが全く夢は止まらず、それどころか俺の両手は雪哉の着ているシャツを捲り上げる始末だ。
まずい。十中八九エロい事のせいでこんな夢を見てしまったのだろうが。だからといってなんでいつもの雪哉ではないのか。確かに今日卒業アルバムを見て、昔の雪哉ってこんなんだったんだな。とか話したりしたがだからと言って夢に出るか。
はっきり言って俺はロリコンでもショタコンでもないし今の雪哉に不満があるわけでもない。寧ろ大満足である。だからこんな夢を見る理由なんてないのだ。無いのに何故目の前の夢は消えてくれない。

「ちょっ、くすぐってェよ!」

眼前に曝された肌をいやらしく触っていくが、雪哉はけらけらと笑うだけで全く警戒なんてものをしていない。
純粋なのかそれともサッカー以外の事は頭に無いのか。自分から誘った時すら恥ずかしそうにするいつもの雪哉とは大違いだ。いっそそうして「止めろ」と拒否をしてくれればこっちも夢から抜け出せたかもしれないのに。
その内に俺の手は雪哉のジーパンのジッパーを下ろし、驚く暇もなく下着越しに萎えたままのそれを掴んだ。途端にびくりと雪哉の体が跳ね、慌てて俺の手を引きはがそうとするが逆にその手を纏めて掴み押さえ付けてしまう。

「っ…ちょっ、あんた何して…」

ゆるゆると上下に扱きながら雪哉の弱い所を刺激すると熱い息をはぁ。と零す。そういう行為に慣れていないのか、抵抗していた腕は一気に力を無くし、逃げ場が無い快楽に支配されかけた瞳を潤ませる。

「ふ…本当に…やめ…」
「…気持ちいいのかよ」
「へ…変態っ」

変態。
ドスリとその台詞が頭のつむじ辺りに突き刺さる。薄々気にしていた事を指摘され、更にそれを恋人に言われたという付属効果で心が折れかける。
が、それはあくまで頭の中の俺だけであって夢の俺は違うようだ。寧ろそんな事を言われたのに関わらず、悪意に満ちた笑顔を浮かべ雪哉を怯えさせるくらいだ。

「ちょっと待てっ。あんた何か変…」
「変じゃねぇよ」
「変だ!や、め、」

唇を噛み締め必死に声を堪える姿は辛そうで、おい何してんだ俺本当に止めろと自分に訴えかける。そんな事を言っても止まる筈が無く形が浮いてきたそれを下着の中から出すと、いつも雪哉に行っているのと同じように、いやそれよりも乱暴に愛撫を与える。
骨張った間接を使って裏筋に押し付ける様に扱き、先走りが溢れてきた尿道を親指の腹で執拗に責める。くぐもった甘い声と荒くなっていく息遣いに気をよくしたのか、雪哉が大きく体を震わせるとその部分ばかりを虐め始めた。
強すぎる快感に辛そうに眉を歪ませ、きつく閉じられた瞼から涙が零れる。実際の雪哉もこんな責め方は気持ちが追いつかないし苦手だと言っていて、だからこそいつも俺は雪哉のペースに合わせるのだが。これは、今の俺のこれは。

「ゃ。や、だ…ひっ!」
「声出せよ。ゆき」

ぶんぶんと首を横に振るが、耐え切れない声は荒い息と共に漏れて、それでもまだ羞恥心が頭の中で勝っているのか、唇に血が滲む程歯を食いしばる。
俺は大きくため息を吐くと、腕を拘束していた手を離し扱く動きは休ませずに雪哉のものを口に含んだ。

「いっ!ひぅ…!」

湿り気の混じる熱い感触に、びくびくと震え絶頂が近い事を訴えるが、俺は雪哉の根本をきつく指で押さえ付け、達せない様にしながら先程より執拗な愛撫を続ける。

「あ…あ…!や、きつ…」

足を閉じようと雪哉は両腿で俺の顔を挟みこむが、足の間に体がある状態では意味が無い。解放された両手で何とか引きはがそうとするが、耐え切れない快感のせいか夢だから都合がいいのか、力が入らず俺の髪を乱すだけだ。
舌先をすぼめ、尿道に侵入しようとするようにぐりぐり押し付けながら零れる先走りをじゅっと吸い込む。達した時の様に雪哉の体がびくりと跳ねるが、押さえ付けられているせいでそこから白濁の液は出てこない。代わりに辛そうな、熱に浮された雪哉の声が断続的に耳へ届いてきた。
達したのに欲をどこにも逃がせず、頭が逆上せてきているのだろう。抑えていた声が開いた口から漏れ、何度も雪哉を責める度に甘く辛そうな声が耳に届く。もう言葉にすらならなくなった声は上擦り、快感を体から逃がす為だけの役割になってしまっている。
顔を真っ赤にして泣き叫ぶ雪哉の表情は辛そうなのが明白で、それなのに俺は楽しそうに責め続け、再び来る快感すらきつくせき止める。
止めろ。俺はそんなの楽しくねェ。

(止めろ!止めろ!頼むから止めてくれってッ!)

叫ぶ様に念じても夢は止まらず、それどころか俺の指は雪哉のジーパンと下着を膝まで下ろすと、目の前に晒されたまだ経験が無いであろう固く閉じられた蕾へと伸びていく。
無理矢理指を押し込めば「うっ」と苦しそうな呻き声が雪哉の喉から上がる。指が中でうごめく度に体中から冷や汗を流し浅く呼吸を繰り返す。その合間にやだ。痛い。とぱくぱく口を動かし、声にならない声を上げる。
見ていられないような光景なのに、目を逸らす事すらできない。

(止めろ!止めろ止めろ止めろ、止めろォーーーッ!!)

今までの中で一番強く念じた直後いきなり背中と頭に鈍痛が走ったかと思えば、世界が真っ白に弾けた。



「…うるせェ」

不機嫌そうに聞こえてきた言葉に、俺はぱちりと瞼を開く。
見えたのはもはや見慣れた雪哉の家の天井で、聞こえたのはくぐもっていたが雪哉の声だ。
どうやらベットから落ちたらしい。ぶつけた後頭部と背中が痛くよろよろと起き上がれば、布団に半分程頭を埋めて寝ている雪哉の姿が見えた。その髪は見慣れた長さだった。

「目…覚めたか…」

フー…っと安堵の息を吐き直後にぶるりと寒さに体が震える。
日が出ているとは言えまだ三月なのだ。冷えた空気から逃げる様に布団に再び入れば、直後に雪哉の足に蹴り出され再びベットから落ちる。

「寒ィ」

そう呟いた雪哉の言葉に、お前かベットから落とした原因はと唸る。しかし、あんな悪夢から抜け出せたのはある意味叩き起こされたからかもしれないし。怒ればいいのか感謝すればいいのかわからなくなる。
とりあえずもう一度布団へ潜り込み、足が飛んでくる前に雪哉を抱きしめ押さえ付ける。暫くばたばたと暴れていたが、薄く開けた目で俺をちゃんと確認するともそもそと腕を背中に回してくる。冷えた体が雪哉の体温で暖められ、そういや夢の中では体温とか分からなかったな。と思い出した。

「…何の夢見たんだよ」
「へ?」
「すげーうなされてたぞ」

そのうなされている奴を蹴り出したのかお前は。
そう思いつつ「うん…」と小さく頷き、雪哉から顔を逸らして夢の内容を続けた。
雪哉は最初こそ真剣に聞いていたが、最後には「なんだそりゃ」と小さく笑い出した。

「わ、笑うなよっ」
「だって奇想天外過ぎだろ…それ」
「ほ、本当に怖かったんだからな」

雪哉が見たのならともかく、自分が見て怖いとはどういうことなのか。
しかし、あの夢で、雪哉に酷い事をしていた自分が、あんなに苦しそうな顔をしている雪哉を見て笑っていた自分が。
本当に怖くて。
「ごめんな」と小さく呟くと、じわりと涙が目の中に溜まった。それを聞いた雪哉は今度は笑わずに、俺を抱きしめる力を強くする。

「夢だろそんなの」
「…だってさ」
「お前は俺に酷い事なんかした事ねェだろ」

だからそんなものはただの夢だ。だから泣くな馬鹿男らしくねェ。
そう言って俺の頭に顔を埋めた雪哉が愛しくて、乱暴な口調なのに優しくて。また滲んできた涙を隠すように雪哉の胸に顔を埋めると、「誰が馬鹿だ」と悪態をついてごまかした。

ありがとう。大好きだ。
一生、大事にするから。

そんな言葉すら言えずに喉の奥に押し込んでしまって、かわりに「おやすみ」と小さく呟いて俺は再び瞼を閉じた。
「おやすみ、来栖」と頭の上から声が聞こえて、とくりとくりと耳に響く雪哉の心臓の音を感じながら、次こそは悪夢を見ないようにと俺はゆっくり意識を落としていった。



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