佐治がおかしい。

ヴェリタスもオフで市立帝条の部活も休み。加えて今日は一日中佐治の両親が帰ってこないとのこと。
午後から雨が降るから、二人でゲームでもしてだらだらしよう。と言った佐治に賛成して、二人で居間で遊んでいたのはよかった。
よかったのだが。

「…………」

ちらりと右隣を横目で見ればふて腐れた様な佐治の表情。
テレビ画面には青色のスライムが三匹、ムカつく顔でこちらを見ている。
もう連打をしていても倒せるそれに大して意識を向けず、俺は何度も何度も佐治の様子を伺う。
ゲームもあらかたやり尽くして、レベル上げが面倒臭いと佐治が放り出していたゲームを何故か俺がやりはじめてから数十分。最初こそ色々話していた佐治だったがどんどんと口数が減っていき、ついには無言でただテレビ画面を見つめるだけになってしまった。

明らかに雰囲気は最悪。
しかし、何故こんな事になったのか。どうすれば状況が回復できるのか全然分からない。
大体佐治は何に怒っているのだろうか。レベルが中々上がらない事か、それともこの青色のザコの顔がムカつくのか。それとも、俺に何か原因があるのか。

「…………佐治」

勇気を振り絞って名前を呼んでみる。
けれども佐治はぴくりとも反応せず、先程と同じ表情のままテレビ画面を凝視し続けている。俺はもう一度名前を呼ぶと、今度は億劫そうに首を回して俺の方を見てくれた。
俺も佐治の方を見る。佐治の表情はテレビ画面を見ている時よりかは少しマシになっているが、それでも少しむくれた頬と眉間に寄った眉は変わらない。

「何だよ」

じっと顔を見つめる俺に堪らなくなったのか、数十分ぶりに佐治が口を開く。
しかし、特に話題も無いままに話し掛けてしまったので、何だよ。と言われても言葉が出てこない。
口の中でむぐむぐ空気を噛み締め続けていると、佐治の眼光が鋭くなっていく。俺も結構キツイ目つきだと言われるが、佐治は見た目も相まって同性の俺でも少し怖く見える。

腕をテレビの方へ伸ばした佐治は、そのままテレビの前に置いていたカセット式のゲーム機の電源を落とす。
バチン。と言う音と共に画面が消える。起動してから、一度もセーブしていなかったのだが。そう目で訴えると「またやりゃいいだろ」とぶっきらぼうに答えられた。
ほんの少し空けていた隙間は、佐治が体を寄せるとあっという間に無くなってしまう。コントローラーを握っていた左手を右手で掴まれ、佐治から引いていた上半身も引き寄せられてしまった。

「そ、の、」

最早殆ど密着してしまい、佐治の顔が至近距離で俺を見つめる。

「来栖。お前さ」
「…な、に」
「何で今日、家に呼んだのか分かってんのかよ」

それは、一緒にいれるから。
そう答える前に頭を引き寄せられ、唇が重ねられる。
思わず目を瞑ると、うっすら開いていた唇の間に舌が侵入してくる。ぬるりとした感触にびくり、と体を震わせてしまい、抵抗も出来ずにただただ頭の中が混乱していった。
初めてではない。初めてではないのだが、不意打ちを喰らったから。そう自分に言い訳している内に、本当に食われるんじゃないかというくらい口内を蹂躙される。
散々堪能された後やっと口を離され、は。と小さい息を漏らす。飲みこみきれず口の端から垂れた唾液を、佐治が舌で掬い取る。
ちゅっ。と音を立てて軽く口づけされた所で、漸く俺は瞼を開いた。
目の前の佐治の顔は少し紅潮し同性の俺が言うのもあれだが、なんだか凄く色気が漂っている。少し伏せられた瞼に生える睫毛をじっと見て、やっぱりこの色は自毛なのだなと呑気に再確認した。

「俺達、付き合ってからどれくらいだ?」
「へ?」

確か、と考える。
正式に付き合い始めたのは高円宮杯終了直後だったから。既に一ヶ月位にはなる。
それがなんだ。と思っていると、空いている左手で腰に手を回し、そのまま背中から畳の上にゆっくりと押し倒される。
畳に腕を立てて俺を潰さないようにしながら、佐治は続けた。

「そろそろ、そういう事してもいいんじゃねェか?」
「…そういう事って」

佐治の言葉と今の状況に言いたい事が分かり、一気に体が熱くなる。流石にそこまで言われて何も察せない程子供ではない。しかし、

「ま、まだ早くないかっ?」
「んな事ねェだろ」
「だって。まだ、一月しか経ってねぇし」
「でもキスとかはその前からだったろ」

そうだけど。
何か言おうと口を開いた瞬間、再び唇で塞がれる。首を振って逃れようとしてみたが、頬を両手で覆われ、されるがままに舌でねぶられる。
ぞくぞく、と痺れる様な感覚が背骨に沿うように走った。

「したい」

口を離され、甘える様な声で囁かれると、くらりと目眩がした。こいつ、本当は自分の器量分かってるんじゃないのか。と思っていると、そのまま耳の軟骨を甘噛みされる。
軽く齒んで、舌で舐める。音を立てながら何度も何度も繰り返され、焦らされる様な刺激と佐治の熱い吐息、ぴちゃぴちゃと鳴らす音が酷く劣情を煽る。

「や…さ、じ」
「やら」

やだ。と言いたかったのだろう。佐治は口に含ませながらそう言うと、片手でシャツのボタンを器用に外していく。上から順番に二、三個外していくとそのままシャツの下に手を滑り込ませ、胸の辺りを慎重に撫でていく。
男の胸をまさぐっても女と違って柔らかいものは存在しない。だが、女でも男でもついている胸の飾りはそこにあって、佐治の指先はそれを探りあてると指の腹でゆっくりと撫でた。

「なんか感じるか?」
「んっ、いや。よく分からねェけど…」

そう答えると瞼、頬と軽くキスを落とされる。ねだる様に佐治の頭を引き寄せ自分からキスして、やり返す様に佐治の口の中に舌を入れる。
探る様に歯列をなぞり、誘いに乗ってきた佐治の舌を絡ませ、音が漏れる位に甘すぎるキスを堪能する。
キスの間中も胸は触られ続けていたが、違和感を感じない位に俺はそっちに夢中になっていた。ふわふわと夢の中にいる様な感覚に、やらしくても佐治とのキスが一番好きだな。と臭い事を考えていた。

と、いきなり胸を強めに潰され痛みに体を反らす。他の反応とは違っていると気付いたのかすぐに手は離されたが、ヒリヒリと火傷したかの様な痛みはまだ残っている。

「それ、痛いって」
「う、ん。悪い」

少し焦ったかの様な声が聞こえる。佐治は口を離すとそのまま顎、首筋、鎖骨と舌を這わせて、更に開いたシャツを完全に広げる。
「赤くなってんな」と言われ見てみれば、たしかに触られ続けた方は何もされてない方に比べ少し赤く腫れてしまっている。佐治がそこに舌の先で軽く触れると、先程の痛みとは違った感覚が走り思わず背が反った。
ざらついた舌がゆっくり全体を舐め、ちゅっ。と音を立てながら吸い付く。嫌ではない違和感を感じながら、子猫がミルクを飲んでるみたいだななんてぼんやりとした頭で考える。と、胸よりもっと下、まだ触られてもいなかった下肢に手が伸ばされた。

「さ、佐治!」
「んぅ?」
「そ、そこは、ちょっと…」
「ここ触らなかったらどこ触れって言うんだよ」

カチャカチャとベルトが外され、ジッパーも下ろされてしまう。佐治は口を離すと、自分の体をずりずり下に移動させ俺の股間をまじまじと見つめる。
下着ごと一気に引き下ろされると、既に硬くなりかけていた俺のそこが佐治の目の前に曝される。
佐治は一瞬だけ目を丸くし、びくりと体を震わせたが、ゆっくりとそれに指を這わせて上下に扱く。
直接的な快感が体中に走り、熱い息が漏れる。少しずつ芯を持ちはじめるそれを、至近距離でじっと見ていた佐治だったが、赤くなった顔で意を決した様に軽く頷くと、口を開きそれに顔を近付けた。
まさか。
慌てて体を起こし制止しようとしたが間に合わなかった。
ぱくりと、佐治の口の中に俺のそれが入ってしまった。

「待っ、佐治!」
「ん」
「そこ、汚いか…ら…!」
「…苦い」

むしろ甘かったら大変だ。
「駄目だ」と言い顔を引きはがそうと佐治の頭に手を伸ばすが、そんな事はお構い無しに佐治は根元までくわえ込もうとする。
ぬるりと湿った口内の感触は、今まで受けた事のない快感をもたらす。先端に喉の奥が絡み付き、裏筋を沿うように舌がいやらしく這う。引きはがそうとした手は、そのまま縋る様に佐治の頭を掴む。
堪らず佐治の顔を見れば、苦しそうに眉を歪ませて、それでも俺が見ているのに気が付かないくらい懸命に愛撫を続けている。けほっ。と一度口から引き抜くと、今度は先端の窪みを舌先で押しながら唇で吸い付く。
気が強く、プライドが高そうな雰囲気を醸すいつもの佐治からは、とても想像ができない姿だった。
耳まで赤くした佐治のそんな顔を見て、思わずごくり。と喉を鳴らした。その瞬間、じゅっ。と強く吸われてびくりと快感に大きく背中を反らす。
体中に寒気に似た感覚が走り、頭の中がちかちかと白く光る。堪えていた声を漏らしながら、俺は呆気なく達してしまった。

「…あ、」

強すぎて辛い感覚にぜぇぜぇと肩で呼吸をするが、暫くしてからとんでもない事に気が付き、天井をさ迷っていた視線を慌てて佐治に戻す。

「あ、」

驚いたままの表情で俺を見上げる佐治の口元が、真っ白に汚されてしまっていた。
眉をしかめ、涙目になった佐治は畳に零れないように両手でそれを必死に拭う。俺も慌ててティッシュを探すが、何かを押下した様に喉を動かした佐治を見て、一気に血の気が引いてしまった。

「の、飲む奴があるかァッ!」
「ん、ぐ…まっず」
「当たり前だ!」

漸くテーブルの下にあった箱ティッシュを見つける。
ギリギリ手が届かないのを体を動かしてなんとか取るが、その間に佐治は拭った手の平についたものを、明らか美味そうでない表情で舐めとっていた。

「舐めるな!」
「だって畳汚れるだろ」
「ティッシュ使え!」

まだ舌を這わせている佐治の手を掴んで、ティッシュで残りを拭く。佐治はされるがままにしていたが、その表情はどんどん最初の不機嫌なものに変わっていく。

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