「おいクルクル…テメェに…これをやる」

そう言って雪哉につき出されたのは白い小さな小包だった。なんだこれと言う前にそれだけだ。と言い捨てて走り去ってしまい、何なんだと思いつつ小包を開いてみると、小さな水色の巾着型のお守りが入っていた。
何のご利益があるのかは書いていない。しかし真ん中に刺繍されたブチ猫と白猫の絵を見ると、招き猫と同じご利益なんだろうかと思った。
別に招く必要がある悩みは抱えていないのだが、一体なんなのだろうか。ヴェリタスの練習前にわざわざ会いに来てくれたのは嬉しいが、こんなのを渡されるだけなら何か話をしたかった。
なんだか邪魔をされたみたいでそのお守りを睨み付けていると、ヴェリタスの送迎バスがやってきて慌てて乗り込む。
とりあえずスポーツバッグにくくりつけて一番後ろの席に向かい、別の場所で乗り込んだ今泉と挨拶を交わした。
席に座り外れないだろうなとくくりつけたそれを確認していると、「何ですかそれ」と今泉が聞いてきた。

「もらった。変わってるだろ」
「ブチと白の招き猫ですか」
「全く、アイツも何でこんなの渡してきたんだか…」

そう言うと、なぜか今泉は驚いた様な顔をする。なんだよと聞いてみると、今泉は暫く言い淀んだ後何故か少しだけ頬を赤く染め「自分で調べて下さい」と顔を反らした。
いつもなら知識は渋らない今泉が珍しいと思いながら、俺は言われた通り携帯電話を開く事にした、が。

「げ」

電池がもう残り少なくなっており、調べるには些か不安な状態だった。別に調べてもいいのだが万が一の事があった時、家族に連絡ができなくなってしまうのは辛い。何より、雪哉からのメールが直ぐ見れなくなってしまう要素はできるだけなくしたい。
仕方なく試合が終わって家に帰ってからにしようと思ったが、一度気になってしまうとどうも気になりすぎて仕方がない。頭の中から追い出そうと頭を振っても興味は全然逸れてくれず、寧ろ更に気になってしまってきていた。
次々に他の場所から乗り込む友人達にもお守りを見せて聞いてみたが、皆首を傾げるだけだ。携帯電話で調べてくれよと言ってみても皆からかい目的なのか全然教えてくれようとしない。唯一知っているような今泉も回りに硬く口止めを受けて「すみません」と黙りこんでしまった。裏切り者め。

「あああもう!なんなんだよ!教えてくれたっていいだろ!」
「いいじゃんかよ家に帰ってからでも」
「今気になるんだよ!くっそォオオ佐治雪哉アァアアア!!」

終いにはくれた張本人である雪哉に怒りが向き、バスの中で俺は怒りに任せて叫んでしまった。
当然運転手の注意がぶつけられたのは言うまでもなく、今泉がはあと呆れた様に溜め息を吐くのが目の端に見えた。


*


「あれ?佐治さんこれ…」
「ア?」

及川の視線の先を見れば、そこにあるのは鞄にぶら下げた黄色の巾着型のお守りだった。小さな巾着の真ん中に寄り添うブチ猫と白猫が刺繍されたそれを見て「これってたしか」と続ける及川の口を慌てて塞いだ。

「おい及川…」
「え、え?」
「知ってんのか」
「は、はい…」

クラスの女子が持っててと言われ、誰だ今時お守りなんかぶら下げる古風な女子はと血の気が引いた。
せっかく誰も知らないであろうと思い買ってきたというのに、ここで及川が知ってるなどと言って周りに教えてしまっては全てが台無しだ。せっかく買ってきたお守りをすぐさま引きちぎりゴミ箱にぶちこまなければいけない羽目になる。
部活帰りのボーリングを楽しんでいる部活メンバーにトイレ行ってくると言い捨て、俺は及川を連れてトイレに向かう。誰も居ない事を確認してから、状況についていけていない及川をギロリと睨み付けた。

「絶対に言うなよ。誰にもだ」
「は、はい…あの、佐治さん」

冷や汗をかきながら頷いた及川だが、言い淀む様に言葉を続ける。こう言う意外と口が動く所は最初の頃から変わらない。

「す、好きな人が居るんですか…?」
「…………」
「すみませんっでも気になって」
「いる」
「えっ」

と言うより付き合っている。ただ、揃いの物とかを渡したかったのだがアクセサリーとかは常に付けれないだろうし。何より恥ずかしいからさっきのお守りの色違いを相手に渡した。
縁結びなんて結ばれた今では必要ないのかもしれないが、寄り添う猫の姿を見て、こんな風にずっと一緒にいられたらなと思ったのだ。
そんな事をまあ半分程はしょり及川に伝えた頃には、顔が茹でられたのではないかと言うくらい熱くなってしまっていた。

「だ、だから絶対に言うなよ!倉橋なんかに聞かれたらからかうに決まってんだアイツ…」

そう言い捨てると及川は数秒呆然とした後、小さく吹き出し「分かりました」と込み上げる笑いを押さえながら答えた。
何笑ってんだと及川の眉間をぐりぐりと指で押し付けたが、ばれたのが及川で本当によかったと思った。
意外と言うことは言う性格だが、秘密はちゃんと守ってくれる。そう言う性格だから周りに言えない相談も及川には素直に言えるのだ。さすがにあの来栖と付き合っていることは話していないのだが。

白い小包を渡されて間抜けな顔をしていたアイツを思い出す。きっとアイツは何も知らないだろう。俺がどんな思いであれを渡したのかなんて。
ちょっと携帯でも弄れば分かることだから、次に会った時に何か口にするのかもしれない。その時はクルクルのくせに生意気だと怒りながら渡した意味を伝えよう。
色違いのお揃いのお守り。
結ばれた縁が、もっと硬くほどけなくなる位に結ばれたい。そんな縁さえあれば、男同士とか会えない長い時間とか、不安になりそうなもの何もかもを気にしないでいられると思う。まあ、気にしているのは俺だけなのかもしれないが。

「佐治さんの恋人は幸せな人ですね」
「…ア?」

幸せ。そうなのだろうか。
男同士で、周りには話せないような関係で、会えない時間も多いし会っても喧嘩ばかりして、愛の囁きなんて俺からは一度もしたことがなくて。
それでも、アイツは幸せだと言ってくれるのだろうか。

「…だといいな」

及川の頭を乱暴に撫で、戻るぞ。と先にトイレから出ていく。
及川の声が後ろから聞こえてきたが振り向かず、俺は頭の中に浮かんだアイツの顔に小さく笑顔を溢した。



なんてことない。

想像の中のアイツは、意外にも馬鹿みたいに幸せそうに笑っていた。


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