【同テーマで吏心&心吏】

「最底辺」の一哉さんとやらせて頂きました。
一哉さんが吏心。私、赤城が心吏となっています。

【テーマ】

2011年10月31日(ハロウィン)

【入れなくてはならない要素】

・お菓子 ・イタズラ ・秋 ・パンツ ・吏人さんからのお誘い ・あすなろ抱き

【セリフ縛り】

「お菓子をくれなきゃイタズラしちゃうぞ」「好きにしていいよ」「苦い」
※語尾・口調は改変可








 
ここ最近分かった事だが、ヴェリタスの人間と言うのは甘味が好きな奴が多いらしい。
健太がよく名前を出す来栖とか言う奴は毎日何かしらの菓子を持っているらしいし、その健太もそこまでとは言わないがレモンの砂糖漬けとか苺牛乳とか甘いフルーツ系統の物をよく好んでいる。
そして用も無いのに来て、人に散々ちょっかいを出してくるシアンも同じだ。

『ねェリヒト。お菓子ちょーだい』
『は?』
『トリックオアトリート。お菓子くれないとイタズラしちゃうぞー』
『…勝手にしろよ』

去年、高円宮杯が終わって暫くしたある日。シアンがそんな訳の分からない事を言ってきたのだ。
何でも外国ではそんなイベントだかがあるらしく、菓子を渡さないとどのようなイタズラをされても文句をつけれないと言う何の意味があるのか分からないものらしい。
そのイベントのおかげで去年は散々な目にあい、巻き込まれる形で佐治さんが心を折られそうになった。倉橋さんから貰っていたガムを渡したらシアンは治まったが、去年みたいな目には決してあいたくない。

そして今年10月最後の日曜。俺は近場の駄菓子屋の中で一人唸っていた。

「…………」

流石にシアンの為だけに、そこらで売っている高い菓子を買うのは気が引ける。
必要だからとスパイクや新しいボール等サッカーに回す出費が多いため、普段自由に使える小遣いはほんの少しのものだ。
次の小遣いを貰える日は目と鼻の先だが、貯めておいて損は無い。大体それにしてもシアンに出費をする。と言うのが何故か嫌だ。
そんな理由から一個10円程度の駄菓子を買う事に決めたが、余りに溢れかえる種類の量にどれを選べばいいのか分からない。
甘い物が好きなのだ。甘い物を選べばいいだろうと単純に考えていたがその考えこそ甘かった。
菓子など余り買わないからなのかも知れないが、目の前にある殆どの種類がどう食べるものなのか分からない。味すら想像が出来ない。
とりあえずガムや飴など無難な物を手に取ってみるが、どれもこれも見たことが無いメーカーのもので本当に美味いのかと疑ってしまう。ガムの一枚で大人しくなるシアンだが、味がお気にめさなければ収まらなくなりそうだ。
店員に不審な目で見られる程長時間そこに留まって悩んでいたが一向に決まらない。こうなったら一か八か何種類かを適当に選んで買って行こうか。そう思った所で、棚の端にぶら下げられている見覚えのある物を見つけた。

金色の小袋に一つ一つ入ったチョコレート。ひらべったいそれの真ん中には穴が空いていて、表面に彫られた稲穂の模様はある硬貨とそっくりのものだった。懐かしいなと小袋が連なったそれを手に取る。小さい頃に親に買ってもらって以来だが、甘くて美味かった記憶はまだ残っている。

「これでいいか」

硬貨の形をしたキャラクターのパッケージを見ながら、俺は呟いた。
チョコレートだし、甘いし。
ガム一枚で大人しくなるシアンだ。このチョコ一枚でも大人しくなるだろう。そう思い選んでいた菓子を全て戻し、それ一つだけを掴んで会計に向かった。



「おはようございます」
「おはようございますっ」
「おー二人ともおはようー」

及川と一緒に部室に入ると、既に授業が終わって来ていた先輩達が挨拶を返す。見覚えのあるメンバーがいる中猪狩さんだけが見つからず、「猪狩さんは?」と聞くと「補習」と奥さんが答えた。

「アイツ進学だろ?成績がやばいんだと」
「相変わらずですね…」

ため息を吐いて、まあ部活には来るだろうと判断してさっさと準備を済ませてしまう。ブレザーに入れたままのチョコはどうしようかと悩んだが、流石に持って練習は出来ないのでそのままロッカーに制服と一緒にしまい込む。来た時に部室に戻って渡せばいいだろう。
そういえばアイツも三年だが、今日は本当に来るのだろうか。
一年前と違いシアンが市立帝条に足を運ぶ回数は目に見えて減り、別に気にしてはいなかったのだが。進学、そうか進学か。

ヴェリタスユースに所属しているのだからそのままヴェリタスに引き抜かれると思っていたが、本人にその意志がなければサッカーは高校止まりと言う事もある。
かつて『お前がまだサッカーやってるからだよ』とまで言ってきた位なのだから、俺がサッカーを続けている限りそこにはいそうなものだが、どうなのだろう。
シアンが言った事も無ければ、シアンに尋ねた事も無い。
一緒にいるときはシアンが俺についてまわるだけ。シアンが飽きたらじゃあばいばいまた今度ね。と手を振られて終了。
お気に入りの玩具で好き勝手遊んで、飽きたら放り投げる様に。
その割に、シアンは俺の事を知っている。

「吏人くん?」

ふいに及川の声が聞こえて我にかえる。制服を脱いでから暫く呆としていたらしい。寒さでぶるりと体が震えた。

「どうしたの?ボーッとしてたけど」
「…なんでもねェ」
「パンツ一丁だと風邪引くぞ吏人ー」

及川に心配され先輩達にからかわれながら、洗い立ての練習用ユニフォームを掴んで素早く袖を通す。
シアンの事は一度頭の中から追い出す。とにかく今は練習に集中しようと大きく深呼吸をした。



「悪い吏人ー!遅くなった!」
「待ってなかったからいいッスよ」

「酷ェ!」と言いながらそのまま着替えに部室に向かう猪狩さんを見送りながら俺は校舎に取り付けられた時計を確認する。
時刻は部活動時間の半分を過ぎた所。今の所シアンのしの字も見ていない。辺りを見回してみても、あの目立つ髪の色はどこにもない。
鬼の居ぬ間にと、そろそろ別の練習に切り替えるか。と思った所で、背中に思いっきり何かがぶつかってきた。
完全に不意打ちを喰らったがなんとか踏み留まり、肩から腕を回してきた相手にのしかかられるのだけは阻止する。
やけにいきなりべたべたと密着するその行動に、一番それをやりそうな奴の顔が浮かんだ。

「…ッシアン!」

そう叫びながら後ろを振り返ると、目に飛び込んできたのは金色の瞳。ではなく栗色の髪だった。

「い、かりさん?」
「吏人ー菓子くれよー」

ぎくり。としたが「勉強し過ぎで疲れた…」と続けた猪狩さんにほっと安堵の息を吐く。

「なーくれよ!今日はハロウィンだぜー!菓子が無いなら悪戯してやる!」
「無いものは無いですよ。…いいからさっさと離れて練習して下さい」
「冷てー!いいのかよ、悪戯されんだぞ!」
「好きにして下さい」

そっけなく答えると「ノリ悪ィー」と言いながらも素直に猪狩さんは離れる。

「あ、そういや去年はシアンが来てそんな事言ってたよな」
「…そうでしたっけ」
「だってあの時は酷い目にあったからなー佐治さんが」

そう。佐治さんが。
ちゃっかりと覚えていた猪狩さんに内心ヒヤヒヤしながら練習しろと再度言う。
そこまで広げたい訳でもなかったらしい猪狩さんはあっさり「わかったわかった」と言いながら練習に参加し始めた。

シアン。とつい名前が出てきたのを言われなくてよかった。長く息を吐いて安心する。


『ねェリヒト。お菓子ちょーだい』

去年シアンは来て早々にそう言い出して、菓子をやらなかったら散々に部活を荒らし回り、止めろと言っても『リヒトがくれないのが悪い』と言って聞く耳を持たなかった。春になるまで、シアンはよく俺がいる所に来ては色々と引っ掻き回して帰るという事を繰り返してきた。
「練習に行け」と言っても知らんぷりを通し、今年もそんな風に邪魔をしにくるのだと思っていた。

「…全員集合ー」

シアンの姿はどこにもなくて。練習は順調に進んでいる。試合に向けて、トランセンドサッカーも強化できている。
それでもどこか、それを不満に思う自分がいて。これはおかしいだろう。

「…吏人くん?」

全員集合したのに何も言い出さない俺に、及川が心配そうに尋ねてくる。及川の声に我に返った俺は、慌てて「悪い」と言いつつ集合した全員に指示を飛ばす。一年生は特に気にしてはいなかったが、及川含む二年生や三年生達は俺に怪訝の目を向けている。しまった。考え込みすぎた。

「吏人よー具合でも悪いのか?」
「いえ、そういう訳じゃ」
「吏人くん、今日本当におかしいよ」

猪狩さんに続き、柚絵さんにまで言われて「う」と言葉が詰まってしまう。
様子がおかしいなんて、自分でも分かりきってはいるがいざ他人に言われるとそこまでなのかと思ってしまう。
珍しいものを見るかのように様子を見る先輩達を「いいから練習して下さい」と追い返すが、及川だけは去っていく波に乗らずに俺の側にいた。

「本当に大丈夫なの?吏人くん」
「…大丈夫に決まってんだろ」

大丈夫。大丈夫だけど。そう言っている自分すら既に不自然に思えて。
自分らしくない。とふと気が付いた。いつもならユーシが教えてくれた言葉通り2秒で切り返すのに、今の俺は全くと言っていい程それが出来ていない。
シアンの事は切り返して部活。切り返してサッカー。
シアンなんて俺にとってたった50円ぐらいの価値でしかないのに。

「…………」
「吏人くんッ」
「偵察」
「え?」
「偵察!行ってくるッ!」

頭が動くより先に口はそう叫んでいて、それを合図に足を走らせて部室に飛び込む。ジャージの上着を羽織り、定期入れと制服のポケットに入れていたチョコを掴むと再び部室から出る。及川が何か言っているのを無視して、そのまま駅へひたすら走る。後で怒られるのだろうな。と思いながらも脚は止まらず、やっと思考が追いついた頭も体を止める気はまったくなかった。


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