「ん」と目の前にポッキーを差し出せば、向かい合う様に座る倉橋がチョコの先端をくわえる。手を離せばそのまま咀嚼しながら唇の動きだけで器用にポッキーを口の中にしまい込んでいく。そんな風景ももう慣れたもので、カチカチと携帯ゲーム機のキーを叩きながら「あー死んだ」と呟いた。

「倉橋に餌付けしてるからだろー」
「うるっせェな。ちゃんとカバーしとけよ月村」

テーブルの上に買ってきた様々な菓子を散乱させ、男四人で俺の家に篭ってゲームを続ける。
端から見たら随分不健康に見える風景だが、普段は体が馬鹿になりそうな程運動しているのだ。たまにはこういう一日があってもいいだろう。二年下のキャプテンにこんな姿を見られたら呆れてため息でも吐きそうなものだが。
微妙に長いロード時間の間に飴を掴み、倉橋に再び「ん」と促す。画面を見ていた倉橋が顔を上げたのを確認すると「あ」と口を開けと一言で命令する。条件反射の様にかぱ。と口を開ける倉橋の口に飴を近付けると、ぽん。と音を立てて小袋から飴玉を飛ばした。ピンク色のそれは寸分違わず倉橋の口の中に入り、満足そうに口を閉じて味を堪能し始めた。

「佐治ー」
「ん?」
「口ん中が甘ったるい」
「そうか」

来てからずっと菓子食ってるもんなお前。
ロードが終わったゲームを操作し始める。そろそろ喉が渇いてきたな。と思い、最初に持ってきたグラスを掴んだが、スポーツドリンクが入っていた筈のそれは既に空になっていた。

「月村、ジュース取ってこい」
言うが月村は唸るだけで動こうとしない。

「取ってこいよ。俺、喉渇いた」
「自分で取りにいけよー」
「俺は討伐で忙しい」
「じゃあ月村俺の分も」
「月村俺もー」
「えーっ!あ、死んだ」
「よし行け。取りに行け」

全員に促され渋々と月村は立ち上がる。それをきっかけにゲームを一度中断して、ふーっと男三人が息を吐いた。
と、ふと目に留まった、森川が買ってきて全然減っていないストロベリーチョコを取り、フィルムを剥がし始める。

「倉橋」

「んー?」とまだ飴を転がしている倉橋にチョコを突き出す。かぱ、と開いた口に投げ入れると「あ」と倉橋が気の抜けた声を上げた。

「まだ飴ある」
「口開けただろ」
「いや条件反射で…うえ、変な味…」

苦々しい顔で、それでも口からは出そうとしない。コイツ本当に何でも食うな。とその顔をぼんやりと見ていると、森川がこちらに視線を向けているのに気がついた。

「何だよ森川」
「…いやー佐治さー」
「ん?」
「…やっぱ何でもない。あのさ」

何でもないと言いながら森川が身を乗り出し、耳を貸せとジェスチャーをしてくる。訳が分からなかったが言う通りに耳を寄せると、更に眉が寄るような事を耳打ちしてきた。
「はぁ?」と森川の耳打ちにそう言うが「いいからいいから」と流される。飴ごとチョコを噛んで飲み下したらしい倉橋は全く話を聞いていない為、訳が分からず首を傾げている。俺も倉橋を見て、森川に首を傾げるばかりだ。
そんな事をしている間に月村が四人分のスポーツドリンクを盆に乗せて帰ってきた。なるべくおかわりの回数を減らす為か並々と注がれたグラスは各々に配られる。溢れそうになっているグラスに慎重に口をつけ、喉を潤すとたまらず息を吐いてしまう。
「佐治ジジくせー」とからかう月村を「うるせー」と一蹴すると、再びゲーム機を掴む。
「今日中にクエストクリアすんぞ」と言うと、それを合図に全員が再びゲームを再開した。



そのまま会話でもない会話をしながらゲームを続けて数十分。
グラスの中身も半分までなくなり、倉橋への餌付けも3、4回程済ませてからふと、森川に言われた事を思い出した。
ちらりと森川を見てみればいつからこちらを見ていたのか、様子見をしていた視線がばっちりと合い、慌てて森川の視線がゲーム画面に戻された。
真面目にゲームしろよと思ったが、そもそもゲームを真面目にとはどういう事なのかと頭な中で突っ込む。
何故か何かを期待されているみたいだが、何があるというのか。訳が分からなかったが、とりあえず森川に耳打ちされた通りに「ん」と言いながら何も持っていない指を倉橋に差し出した。

ぱく。

「…………」
「…………」

まず俺が固まった。
その数秒後に、倉橋が固まった。
目の端で森川が吹き出しそうになるのを堪えていた。
月村はそれらに気が付かずにゲームを続けていた。
何も持っていない俺の指をくわえた倉橋は、そのまま何も言わずに指をくわえ続けていたが、ぬるりとした感触が指先に触れ、体中にぶわっと鳥肌が立った。

「舐めんなああああああ!!」

指を引き抜きそのまま拳を作ると倉橋の額を思い切り殴る。
左右横にいる森川はとうとう堪え切れずに盛大に吹き出し、月村は小さく悲鳴を上げてびくりと驚く。
そして叫ぶ原因を作った張本人はそのまま殴られた勢いのまま、どさりと仰向けに倒れ込んだ。続けて「痛ッてェー!」とばたばた転がり暴れだす。
一部始終を見ていなかった月村は状況についていけずただただ混乱するばかりである。

「痛い…酷ェよ佐治…」
「お前が人の指舐めるから…!」
「いやだって。本当に指だと思わなくて」

しくしくと泣いているそぶりをする倉橋は置いといて、未だに体を震わせて笑う森川を睨みつける。
「何も持たずに指だけ出してみろよ」と耳打ちしたのは誰でもない森川で、テメェこうなるの分かってたのかとその顔を見て確信した。

「犬…」
「森川テメェ…」
「いや、まさかくわえるまでとは…ごめ…」

言いながら思い出したのか、森川がまた吹き出す。ガッと頭を掴み握ってやれば「痛い痛い」と森川が俺の腕を叩いた。

「てか佐治指拭いた?」
「うるっせェよお前は!」
「痛い痛い痛い」

復活した倉橋に今更な事を言われ、つい森川を握る拳に力が篭った。





「…何があった。て言うよりクエスト失敗してるけど…」

一人置いていかれた月村が、状況と全滅した画面を交互に見ながら呟いた。



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