こんな早い時期にコタツなんて。と言っていたのはどこのどいつだ。
飲み物を切らして仕方なくお茶を作ろうとしたがお茶っ葉が見つからず、結構な時間を経てから二人分のお茶を部屋に運んでくると、ずっと待っていた来栖さんはコタツテーブルに突っ伏して気持ち良さそうに眠っていた。
人が苦労している時に呑気に寝て。と理不尽に腹を立てながらお茶をテーブルの上に置く。
起こそうかと思ったがそこまで急ぐ何かがある訳でも無い。ゆっくりとお茶でも飲みながら起きるのを待とうと自分もコタツに足を突っ込んだ。
勢いよく入れた足が思い切り来栖さんの脚に当たり、まずいと思ったが「ふがっ」と唸っただけで起きる気配が無い。
結構痛かった筈なのに。その様子を見て、俺の中で悪戯心が俄然湧いてきた。
あれが平気なら大体の事では起きないだろう。何をしようとうきうきと来栖さんを見つめていると、ふと特徴的なその頭に目が留まった。

(これ、どうなってるんだろ)

毎回毎回綺麗に巻かれているくるくる頭。
風呂に入った後は流石に髪の毛はストレートになっているが、不思議な事にどうやってセットしているかは見た事が無い。
大体どこをどうやってセットすればこんなに全体が渦を巻くのだ。最初に会った時は健太ばかり見ていて気にも止めていなかったが、よくよく考えてみるとこんなのを見逃していた自分が不思議で仕方がない。
触ろうとすると、セットが乱れる!と言って頑なに触らせない場所だ。どうせ乱れる時は乱れるのだしいいじゃないかと思うのだが。こんな時位しか触る事はできないだろう。
ぴ。と右手の人差し指を一本立てると、そうっと起きない様に指先を近付ける。ゆっくりと髪の毛に触れると、スプレーでセットしているのか固いぱりぱりとした感触が指先に返ってくる。更に指を突っ込めば一まとめになっていた髪の毛に切れ目が入り、中の柔らかい部分に指先が埋まっていく。
予想ではワックスとスプレーでガチガチにしていると思っていたから中の髪の毛の状態が意外で、「結構さらさらしてるな」とよく分からない感想を呟いた。
半分程まで指先を埋めると、意を決して俺は手を動かす。流れにそうように人差し指を動かし、くるくるの中心に向かって指は移動していく。やっぱりらせん状になっているのか。ここは。

「ん…」

そう思っていると急に来栖さんが身をよじる。
慌てて指を引き抜くと寒いのか体をぶるりと震わせて再び小さな寝息を立てる。
危なかった。やはりセットにあれだけ気を使っているから、頭は人より敏感なのかもしれない。
今度は気をつけて。と先程と同じ場所に指を突っ込み、慎重に指を動かしていく。起きた時下手に怒られるのは嫌だ。寝ている間に済ませてしまいたい。
なんとかくるくるの中心まで人差し指は辿り着いた。一つ何か大命を果たした気分だったがやってる事は人の頭に指を突っ込んでいるだけだ。
さてやるだけやってみたはいいがこの後どうしようか。髪型は意外と乱れなかったからこのまま指を抜いてしまえばばれずに事が済むだろう。しかしそれも勿体ない気がする。目の前にこんなに面白…気になるものがあるのなんて中々無いだろう。
こうなったら起きるまで色々やっちまうか!と思ったと同時に、そう言えばこの中心に生えている髪はどこにいったのだと疑問が浮かんだ。
中で指を動かしてみるがこれ以上どこかに渦を巻いている訳でもない。まさかここだけ刈り上げているのか。いやまさか。そんなのこの髪型以外何にもなれないじゃないか。
一度このくるくるの部分を避けてみなくては中もどうなっているか分からない。しかしそんな事をしたら確実に髪型が崩れるだろう。
嘘はあまり得意じゃない。執念深く追求されたらきっとボロを出してしまうだろう。
悩みに悩んだが、先に指の方が疲れてきた。もうここまできたら後戻りはできないだろう。怒られたってきっと口で説教だけだ。翼をブチッたりだとかとんでもない事はしないだろう。
一度深呼吸をして呼吸を落ち着かせると、俺は右手の中指を人差し指と同じ場所、くるくるの中心に突っ込んだ。

「んっ」

勢いがよく、うっかり頭皮に爪が当たってしまいびくりと体が跳ねる。
しまったとおもったが、来栖さんは何事も無かったかの様に再び寝はじめる。
…この人、こんなにも鈍感でいいのだろうか。まさか俺以外にも知らない間にこのくるくるを弄られていたりするのではないのか。シアン辺りならやっていそうである。
何だか言いようの無い嫉妬心にイラッとしながらも、中指と人差し指で慎重に中をまさぐっていく。ここはやっぱり他の場所より敏感なのか、時折来栖さんが小さく声を漏らす。こっちかな。と思い少しつむじの奥辺りを触ってみると、明らかに今までとは違う髪の流れが指先に触れた。恐らくこれがくるくるの中心に生えている髪の毛だろう。
その流れを逃さないように、すすすっと指を這わせていく。

「おお、なるほど…」

意外な場所に流れていく髪の毛につい感嘆の声が漏れる。
この先までいったらどうなってしまうのかと調子に乗って指を這わせていたら、いきなり来栖さんの瞼がぱちりと開かれた。


「…………」
「…………」


暫くの間、時が止まったかのように見つめ合っていたと思っていたら、来栖さんの顔からさー…と血の気が引いていく。

「わっあぁあッ!!」

ばたばたと突っ込んだままの俺の指を振り払い「お前何やってんだよ!」と起きて早々騒ぎ出す。
寝ていると静かなものなのに、起きるとこうも騒がしい。耳元で叫ばれぐわんぐわんと響く頭を押さえていると、来栖さんは鞄から鏡を取り出して手櫛で少し乱れた髪を直していく。
「あー元に戻らねェ!」と再び叫ぶ来栖さんにそっと近付き、気が付く前にその頭を両手で掴みぐしゃぐしゃに乱してしまう。
「止めろぉおおぉぉッ!」と必死で抗議してくるが聞かない。耳が痛くなった仕返しにこちらが満足するまで自慢の髪を徹底的に乱してやる。

「ふう」
「ひ…酷ェ…俺のセットが…」
「いいじゃないスか。俺しか見てないんだし」
「だからだよ!」

だから何だと言うのか。
訳が分からず首を傾げていると、「いいよもう…」と諦めたような口調で肩を落とす。
せっかくスプレーで綺麗に整えてきた髪は乱れに乱れて、もうどこの髪がどこに流れているのかも分からない。
そんな髪のまま、俺に背を向けて小さくなり落ち込む来栖さんの姿は、正直怒られるよりもよっぽどダメージがあった。髪形のセット一つの話なのに、何だかものすごく悪い事をした気がする。
どうしていいのか分からなくなり思わず背中から抱きしめ、「すまねッス」と小さく耳元で囁く。これで許されるかどうかは微妙だったが、ともかくそんな風に落ち込まれるのは勘弁して欲しい。

「…もういいよ」
「すまねッス」
「あー!もういいッて!またセットすりゃいいんだし」

それでもまだいつもの調子では無かったが、もういいらしい。髪形一つで落ち込んだりすぐよくなったり、やっぱりよく分からない人だな。と考えつつ、ふと思いついた事を来栖さんに言ってみた。

「そのセット、俺にも教えてくださいよ」
「は?」
「覚えてェッス」

甘えるように肩に擦り付くと「くすぐったい」と来栖さんは身をよじる。
あのセットの仕方を教えてもらえば、どんな状態になっているのかも分かるし、うっかり今日みたいに乱しても自分の手で直せるし、一石二鳥ではないか。
予想以上に落ち込ませてしまって罪滅ぼしという訳ではないのだが、今後自分が暴走した場合でも、こうやって落ち込ませる事がなくなるのならいいな。と思っての事だった。
来栖さんはもごもごと、何かむず痒そうに身をよじると、首を動かして俺の方を見る。
あと少し俺が寄ればキスできそうだな。と頭の隅でそんな邪な事を考えた。

「ま…あ、いいけど…吏人よォ」
「…何スか?」
「…この髪形、興味あるのか?」

そう期待に満ちた瞳を向けられる。
意外な質問に俺は暫くじっくりと考えてみて、散々思考を巡らしてから自信満々に笑顔を浮かべて、



「ないッス!」



力強く断言した。



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