※8/10吏人さんの日にピクシブに投稿しました小説です。
完全パラレル&遊びに走った文章なので苦手な方はブラウザバックでお戻り下さい。
ネタ提供して下さった一哉さん本当に感謝します!ありがとうございます!(同ネタで一哉さんもピクシブに漫画投稿しております。佐治さんと吏人さんが好きな方はぜひそちらもどうぞ!!)














 
世間では今「天使育成キットシリーズ」が流行っていた。

天使と言ってもおもちゃの類とかそういうものではなく、遺伝子操作技術により作り出された手の平サイズの天使を、卵から育て学習させながら育成するという本格的なものだ。
数年前は一部の人間にしか需要が無く、その種類も数える程しか無いマイナーな存在であったが、ここ最近テレビで取り上げられる様になった事で爆発的なブームになり、それは社会現象にまでなるほどだった。
既にペットショップでは置いていない店は無く、今年に至っては幼少期の天使に絵の具を塗りたくり「カラー天使」だとか詐称しながら売り出す屋台も様々な祭で発見される程だった。
老若男女問わず人気がある「天使育成キットシリーズ」。
しかし、ブームが沸き起こった事で、世間ではある問題も発生してしまった。


(あれは…)

忙しく走り回る保健所の人間を健太は見つめる。
ヴェリタスでの練習が終わり、送迎バスを降りて家路を急いでいたのだが、くたびれた中年が持つ網の中を見た途端、流石に足を止めざるを得なかった。

細かい編み目の中に大量に入れられているのは、手の平サイズの天使達だった。
中に入れられた天使達は散々追い立てられた疲労のせいかそれとも捕まった事で全てを諦めてしまったのか、暴れることも無くぐったりと大人しくしている。

「おいそっちは終わったかー」
「あー悪い。何匹か逃げられた」
「いいよー別に。もうこんな時間だし上がっちまおう」
「まあ、増える訳じゃねぇしなあ…」

網の中にいた天使の一匹が、じっと健太を見つめる。
野良歴が長いのだろう、着ている服は随分とボロボロになっているし整えられている髪も乱れ、愛らしい顔は少し目つきが悪くなっている。
それでも見つめてくる瞳は真っ直ぐ綺麗なままで、きっとこれからどこに連れて行かれるのか、最悪自分達がどうなってしまうのか

を知らないのだろう。

(ごめん)

心の中で謝る自分に自己嫌悪しながら、健太は目を逸らして走り出す。
謝る位なら、初めから足を止めなければよかったのだ。そう自分を責めながら、健太は家に辿り着くまで急ぐ足を止める事ができなかった。







「…ただいま」

ぐったりと疲れた顔で、健太は玄関の扉を開ける。
肩で息をしながらスポーツバックを床に下ろすと、遠くから聞こえる小さな声に気が付いた。

「けんた!」

健太が顔を上げると、それに覆い被る様に何かが飛びついてきた。
もう毎回の事で驚きもしない健太は、飛びついてきたものの首ねっこを掴むと優しく引きはがす。


健太の指に摘まれた手の平サイズのリヒトは、可愛らしい瞳を輝かせながら健太を見つめていた。


「けんた!おかえり!」
「うん。ただいま、リヒト」

ふにふにとその柔らかい頬を突っつき頭を撫でてやると、リヒトは人懐っこい笑顔を浮かべ、「さっかー!」とぱたぱた手足を動かした。
連動する様にぱたぱたと小さい右肩だけの翼も動き、犬の尻尾みたいだな。と健太は微笑んだ。

「もう少し我慢して。着替えたら一緒に遊ぼう」
「けんたとさっかー!さっかー!」
「はいはい」

窮屈そうにするリヒトを離すと、ぱたぱたぱたと翼を動かし健太の周りを飛び回る。健太がバックを掴み部屋に向かうと、リヒトは健太の肩に着地して小さく息を吐いた。



健太がリヒトを見かけたのは数ヶ月前。長い間飼っていた犬が死んでしまい、寂しさを感じてふらりとペットショップに立ち寄った時だった。
「天使育成キット」など聞いた事が無いし、何より自分にはヴェリタスがある。最初は全く飼う気など無かったのだが、子供に怖がられる自分を興味津々に見上げるその瞳が致命的だったらしい。
次の日、相談し両親の承諾を得た健太は最新作の「光翼シリーズ」、その看板息子の「リヒト」を購入していた。
パッケージに描かれたサッカーユニフォやけに誰かを彷彿させる名前と顔だな。と疑問に思いながらも、天使と名前通りの可愛らしい姿と人懐っこい性格に、そんな違和感は数日位で健太の中から消えていた。

「はい。今日はここまで」
「やだ!さっかー!」
「明日またやろう。もうご飯の時間だからな」

不満げに頬を膨らませるリヒトだが、小さい頃からよく躾ている為健太の言う事は素直に聞くようだ。健太にリヒト専用のサッカーボールを返すと、小さいお腹からきゅー、と更に小さい音が鳴った。
こんな腹にまでいる虫のサイズなどどれくらいになってしまうのか。人より体が大きい健太にはそんなミクロの世界は想像もつかなかった。
「うー」と恥ずかしそうに自分のお腹を押さえるリヒトに、健太はつい笑ってしまった。

そこで、ふ。と帰りの出来事を思い出してしまった。

「…今日、野良のリヒト達を見かけてさ」
「…?」
「保健所の人に捕まってた。…悲しかったな」

ひと昔前のウーパールーパー、カブトガニ然別、数年前の珍獣ブーム然別。ペットブームが巻き起これば、必ずそのペットの野良も増えてしまう。
普通のペットよりも育て易い「天使育成キットシリーズ」だが、ここ最近出回っているシリーズは性格が強いものが多いらしく、手に余り育成を放棄する人間は少なくない。
急激な野良の増え方に、政府は『「天使育成キット」購入者は、日本政府での飼育登録を行う事』と法律を張った。
しかし既に購入された天使達の登録は任意のものとなっており、野良の数は減る事が無い。
闇ルートで取引している所も少なくないとか噂があるが、健太には正直そこら辺はどうでもいい。

悲しいのは、あれだけ沢山の天使達が、飼い主の勝手で捨てられているという事だ。

確かに手に余る事もあるが、それも踏まえて世話をして、一緒に生活をするのが飼い主の責任だ。自分の勝手で買い、育て、捨てるなどしてはならない。

だからこそ、自分はあの天使達を救えない。
今自分の手の平にいるリヒト一人を育てる事はできても。

「…けんた?」
「あ、ああごめん。ちょっと考え込んでた…」

心配そうに見上げるリヒトの頭を撫でる。
自分にはあのリヒト達を育てる事はできない。ならその分、今側にいるこのリヒトに愛情を注ごう。
それが、リヒトを飼っている自分の、一番の選択ではないのかと健太は思った。






それから数日後の事だった。

(あれ)

ヴェリタスがオフの為、体を持て余していた健太は朝からランニングを行っていた。
よく知った近所をぐるりと一周し、最後にかつて保健所からの役員を見かけたあの公園に足を踏み入れる。
健太の足であればすぐに通り抜けてしまう位の大きさの公園だが、どこからか聴こえてくる歌声に思わず健太は足を止めた。
小さいが確実にどこかで聴いた声であり、そしてよく分からないが無性に嫌な予感が健太の胸の中に浮かび上がる。
理由は分からない。分からないが、何か嫌な予感しかしない…そう、このままだと全てが終わってしまう様なそんな不安が…。
いてもたってもいられなくなった健太は耳を澄まし、声が聴こえる方へ足を進める。
それ程遠くは無い、本当にこの近くなのだろう。だとしたら何故こんなにも小さい歌声なのか。
理由はすぐにわかった。色とりどりのタイヤの陰を覗きこんだ途端、健太は驚きに目を見開いた。

「とぅーまふれー♪せなかのーはねはー♪なくしたけどーまだー」
「ぐあああああああああ」

とんでもない光景だった。

「ブチられてるッ!!」

タイヤの陰に隠れていたのは野良リヒトと野良シアンだった。
普段はシアンが興味を持たなければ鉢合わない二人なのだが、リヒトが調子に乗ってシアンに勝負を挑んでしまったのだろうか。まだ深緑のユニフォームを着たリヒトは、同じく深緑のユニフォームを着た、しかしリヒトより少し大きめのシアンに、背中にのしかかられブチられている。
明らかに体格差でも負けているのに、何故勝負を挑んでしまったのか。とかそんな事を考えている場合ではなかった。

「こら、離せ!!」

慌て過ぎて思わずプレッシャーをかけてしまったが、そのおかげでシアンはぱっとリヒトから離れて健太から距離を取った。

「なんだ…こいつ…」
「リヒトの翼を返せ…」

健太が飼っているリヒトのよりも小さな翼を掴んだまま、シアンは健太を見つめる。
しかし暫く見つめた後に「いやDeathぅー」とシアンはそっぽを向いて悪魔の翼を広げると、そのままリヒトの翼を持ったままどこかへ飛び立って行ってしまった。

「待て!」
「けんたぁーーーーッ!!!」

シアンを追おうとした健太だったが、足元からの叫び声に思わず足を止める。
見ると、ブチられたリヒトは俯せのままびーびー泣き喚き、「けんたーけんたー!!」とひたすら名前を叫んでいる。
まだ成人ではないから反応が違うのか。小さいリヒトを手の平で掬い上げると、大きな瞳からぼろぼろと涙を流していた。

「けんたー…」
「大丈夫かリヒト…」
「けんたー…けんたいないー…」

そこで漸く健太は、自分の名前を呼んでいる訳ではないのだと気が付いた。
そもそも野良のリヒトが自分を知っている事がおかしい話なのだ。これは多分、同シリーズで「リヒト」と相性がいい「ケンタ」の事を呼んでいるのだろう。
捨てられる前はケンタと二人で育てられていたのかも知れない…まだぐずるリヒトの頭を撫でて、健太はとにかく泣き止ませる事に執心する。

リヒトは一ヶ月程で空を飛び始め、その頃から行動範囲も増えていく。そのためリヒトの第二の足にも近い翼をブチられてしまうのは、大変致命的な事になってしまうのである。
特に野良のリヒトはこの翼で生き残っている事が多い。翼が無くなってしまったこのリヒトが生き残るのは至難の業になるだろう。
よくても数日の内に保健所送り。最悪鴉や野良猫の餌になるのが大半だ。

「お前…これからちゃんと生きていけるのか…」

この様子だと随分とケンタに甘やかされて育ったのだろう。加えてまだまだ小さい時期だ。
健太の心が大きくぐらついたが、先日決めた決意を思い出す。
だめだめ、と頭を振ると、健太はそっと、既に泣き止んでいたリヒトをタイヤの上に下ろした。

「お前はこれから一人で生きていかなきゃいけないんだ」
「うー…」
「ケンタにばかり頼ってちゃ駄目だ。昔の事は2秒で切り返さなきゃ」
「けんたー…」

まだ小さいリヒトには分からないのだろう。鼻をつぴ、と鳴らす姿を見て再び心が揺れるが、もう一度頭を振り健太は立ち上がった。

「…………っ」
「…?」
「…ご、ごめん!」

謝る位なら助けなければよかったのに。
再び自己嫌悪に囚われた健太は、そのまま逃げるように公園から走り去っていった。
タイヤに乗せられたリヒトは、いつまでもいつまでも健太の後ろ姿を見つめていた。


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