※片想い系百合です。











女の子同士の友情は行きすぎると男側からしたら恋人同士に見えるらしい。
それはきっと男側の妄想だったり願望だったり、私たち女にはよくわからない欲望だったりするわけだ。逆もしかりで、男同士の行きすぎた友情は……ってこれは結構周囲に認知されているから良いのか。あーあ、男ってずるい。


「トモミちゃん」

彼女を呼ぶときの声が、他を呼ぶときの声よりも甘くなるのはつい最近気づいた。トモミちゃん。トモミちゃん。何度だって呼びたいの。

「ユキちゃん」

彼女の凛とした声が私の鼓膜を揺さぶる。なんて心地よいのだろう。
にこにこ笑いながら私を手招きしてきたので何だろうと思いながら近付くと髪を触られた。細い指が、触れる度に感覚がないはずの髪から彼女の温もりが伝わってきて溶けそうだった。それに合わせて、動悸が激しくなる。

「髪に糸屑ついてたわよ」

「ありがとう」

お礼を告げればにっこり笑顔でどういたしましてと返される。その笑顔があまりにも素敵だから、私は頬が赤くなってないかすこし心配してしまう。

「もうすぐ、実習ね」

誤魔化すように話題を振って、隣へ移動する。あなたの隣は私だけのもの。
そんな子どもみたいな独占欲が私を支配する。

「そうね」

困ったように下げられた眉にちくりと罪悪感。私たちくのたまはもうすぐ色の実習だ。見知らぬ男に身を委ねなければいけないなんて本当最悪。特に想い人がいる子たちは、それこそ戦地にでも向かう気分だろう。最悪さいあくサイアク。私が男だったら。何度そう思っただろう。


「やっぱり、緊張する?」

「ちょっと怖いわよね」

「まぁ…そうよね」

「ユキちゃんは怖くないの?」

「んー…そうねえ…」


ぽつりぽつり。
部屋に向かいながら為されていく会話。トモミちゃんは怖がってるのか。そりゃそうよね。普通はそうよね。問いかけられた私は、答えに迷う。怖い?いや怖くない。じゃあなんだろう。………ああ。

「気持ち悪い、かなぁ」

「………え?」

考えながら出した答えは、トモミちゃんを驚かせるには充分だったらしい。

「だって、知らない人だもの」

知らない人に身体触られるとか嫌じゃない?
困ったように笑えばトモミちゃんは納得したらしい。
そうだね。でも仕方ないよね。
トモミちゃんの瞳は諦めの色が濃い。


「せめて最初はすきなひとが良かったなあ」

泣きそうな声。
その声と言葉に私も泣きそうになる。
彼女は、恋をしている。
私ではない。女ではない。年上の男に恋をしている。彼女の瞳が熱を帯びて潤む度に、私の腸が煮えるような思いをしていることを彼女は知らない。


「…………」

ねえ、ねえ。すきよ。だぁいすきよ。

初恋は実らないものだと言うけれど、本当ね。薄かった身体が、丸みをおびる度に私は実感する。女になってしまうのは嫌なものね。ああ、ああ。どうしようかしら。いっそトモミちゃんと死んでしまいたいわ。でもそれすら叶わないなんて最悪ね。まったく。身を貫かれるのはもうすぐなのに。

ふと見ると、トモミちゃんの綺麗な瞳は、先輩だと思われる男へと向けられていた。











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報われない百合が好きです。



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