※やんでれ勘トモですよ!
トモミちゃんが可哀想なことになってます。











思いきり頬を殴られ、押し倒された。


「――――……っ」

反動で転がる体を庇うように腕をつけば髪を引っ張られて無理矢理顔を上げさせられた。痛いなんてものじゃない。衝撃で頭のなかが掻き回されているみたいだ。

「ちょっとは反省した?」

そう言って尾浜先輩は笑う。
尾浜先輩は普段から笑みの絶えないひとだったけど、こんな時にも笑顔を見せるなんてある意味すごい。逆に恐怖しか感じない。一瞬殴られた頬と、髪を掴まれた痛みを忘れたけどやっぱり痛いものは痛かった。

「……」

「誰の許可得て他の男と話してんの?」

ねえ。なんて問いかけてくるけど、そんな無茶ぶり聞けるはずがない。私はくのいちになる女で、ここは忍術学園。くのいちになる以上、異性との接触は断ち切ることなど出来ない。ついでにいえば尾浜先輩も忍になるひとだけど。

「私は、その約束を了承していません」

睨んでいえば可愛くないね、と微笑まれた。別にここで可愛さを求めても意味はないだろう。尾浜先輩の思考がイマイチ読めない。読みたくもないけど。

「トモミちゃんさあ」

「……何でしょうか」

掴まれた髪が痛い。折角毎日手入れしているのにこれじゃ台無しだ。殴られた頬もズキズキと痛む。早く冷やさないと明日は赤黒く腫れた顔で過ごさなければならなくなる。

「………考え事はいけないね」

ダメだよ、他のことなんて考えちゃ。俺だけを見て。ゆっくりと髪を掴む手を離される。解放されたのに安心できないのは、この状況だから。殴られた頬を掌で包まれる。痛い。尾浜先輩の手は温かいから余計に痛む。

「俺はね。自分のモノが他のところで楽しくしているの、本当に嫌いなんだよね」

「私はモノじゃないです」

「知ってる。けどね、君は俺のなの」

だいすきだよ。まっすぐで可愛いトモミちゃんが。
歌うように告げられ、頬を撫でられる。

「……っ」

「痛い?ごめんね。でもさ、これで俺の気持ち分かってくれたでしょ?」

痛みで歪んだ顔に口づけを落とされる。ちゅ、ちゅ、と唇が吸い付く音が妙に生々しくて耳を塞ぎたくなった。

「俺は、トモミがすきですきですきでたまらなくて、こうやって殴ってしまうくらいすきなんだよ。いっそ憎いと思うくらいに」

ちゃん付けが消えていることに何となくこのひとの本気を垣間見た気がした。いっそ笑えるくらい歪んだ思いに囚われた私は、どうしたらいいのだろう。

「余所見しないで、俺だけをみて、俺だけを求めてくれたらいいよ」

そういって尾浜先輩はわらう。
そうして愛しそうに私の名前を何度も呼ぶのだ。トモミちゃん。トモミちゃん。トモミ。まるで呪文だ。

「あいしてるよ、トモミちゃん」


ずくりと。
頬だけじゃなくて胸の奥が痛んだのは、知らない振りをした方がいいのだろうか。








***

いちゃいちゃする勘トモもすきだけど、殺伐とした勘トモもすき。



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