*お別れ話。
恵々子ちゃんが厳しめで容赦ないのでご注意を。
あと色々と中途半端です。
終わりはひどく穏やかに来るものだ、と小平太は思った。
―――……愛してました。
恵々子が穏やかに笑いながら言う。それに小平太はただ拗ねた幼子のように眉を寄せて唇を尖らせるだけだ。
「だから、なんだ」
愛してました、だなんて。
過去形ならば意味がない。小平太は首を振る。完結している愛など求めていない。
「私は、愛してる、と聞きたい」
真っ直ぐに恵々子を見つめながら告げる小平太に彼女は息を細く吐いた。まるで駄々をこねる子供を宥める母親だ。
「――……強情な方」
「強情でもなんでもいい。恵々子は、私を愛してはいないのか」
恵々子の方へと身を乗り出してきた小平太に、彼女は胡乱気な視線を向ける。
「愛してました、とお伝えしました。それで十分でしょう。そしてこの関係も。その先を望んですがり付くのは、流石に我が儘ですよ」
「恵々子…!」
叫ぶように名を呼んだ小平太に恵々子はにこりと優雅に微笑んで立ち上がる。
「話は、以上です。失礼いたしますね」
「………」
黙りこんだ小平太に恵々子はそうそう、と思い出したように口を開く。笑みを携えたまま、少しも崩さずに。
「私は、貴方が嫌いでした」
「………っ」
びくりと肩を揺らした小平太に瞳を細めながら恵々子は続ける。
「でも、それ以上に愛してたのも事実です。今までありがとうございました」
きっぱりと告げた恵々子の表情はやはり穏やかでいつもと変わらない。小平太はどうしようもない気持ちで恵々子を見つめる。
「………どうか、幸せに」
「ええ、ありがとうございます」
絞り出して告げた祝福に、恵々子は嬉しそうにわらう。
「先輩も、どうか幸せに」
その言葉を残し、礼をひとつして恵々子は部屋から出ていった。
ひとり残された小平太はその場に踞る。
「――…私が、幸せにしたかった」
ぽつりと呟いた言葉は、彼女にはもう届かない。
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