※本屋パロ(これのつづき)






あれから二週間ぐらい経って、自分でも怖い位『不思議眼鏡くん』の事を把握したなと他人事のように思った。実際、笠松さんにも程々にしとけよ?って釘刺された。特定のお客様を贔屓すんのは他のお客様の不満を招き兼ねない。大丈夫ですって。そこら辺はちゃんとワキマエテマス。

んでオレデータによると、だいたい来店して二分の一の確率で何かしらお買い上げしていただいてる。あとサービスでやっている無料の新書カバーは絶対ご利用。カバーしたらなんの本か分からなくなると思うんだけどなー。汚れとか気になる性質なのかもしれない。神経質っぽいしね!それからカードに貯まってるポイントはどうしても使わせてくんない。端数だけでも…!と交渉したけど一度も首を縦には振ってくれなかった。オレ…結構トークに自信あったんだけどな…凹む。おっと忘れちゃいけない、レシートは財布にしまう派。これ、重要事項な!

とまぁ不思議眼鏡くんのクセを把握してるからお会計とかちょースムーズ。なんつーの?阿吽の呼吸?互いにストレスなくやり取り出来るのは誰に対してでもないけど自慢したいくらいだ。優越感たっぷり。ここ二週間、バイト中のオレの潤いポイントになりつつある。


その日はいつもご来店している時間に不思議眼鏡くんは現れなくてちょっと残念な気分でシフト上がりを待っている時だった。

「もー!いい加減店員さんに聞いた方が早いっスよ!」

作業中に聞こえたやたらでかい声につられて後ろを振り返ったら、よくファッション誌とかで見るモデルさんがいてビビった。わ、あれ黄瀬くんじゃん!生ゲーノージン!と内心テンション急上昇しながら横に視線をずらして更にビビった。黄瀬くんの隣にいたのは例の不思議眼鏡くんだった。えぇーっ!?明らかに友達っぽいし、え、すげー!どんな交友関係!?てかマジ何者!?そして私服!今日はもう会えないって思っていた反動と新たに発覚したインパクトに自分でもわけ分からんテンションになった。ちょっ、タイム!

「声がうるさい馬鹿者。わざわざそんな事をしなくてもいいのだよ」

…え?いいのだよってなんなのだよ!あ、ヤベ、移った。語尾か?語尾なのか!?また新たな不思議要素に吹きそうになった。どんだけ面白いんだよ!

「つってもここで5軒目じゃないっスか。しかもここ結構でかいのに無いし…もうどこも売り切れてんじゃないスか?」
「ここより大きいあの本屋に行けばあるかもしれん」
「それ、何駅先だと思ってんスか!?てか今から行くつもりっスか?!終電ないっスよ!」
「…じゃあ次の休みで…」
「探してるの週刊誌じゃないっスか。そんな頻繁に休みないし、それこそ確実に売り切れスね」
「………」

どうやら何か探してるらしい。しかも何軒もハシゴして。いったい何をそんなに欲しがっているんだろう。また違うお店に行くという意見を黄瀬くんに説き伏せられていつも大概無表情な不思議眼鏡くんは眉間にシワ寄せてそりゃあもう不機嫌って顔になった。あー…あんな顔すんだな。不謹慎だけど似合ってんなって思う。似合ってるけど、眉間にシワ寄せっぱなしはかわいそうだ。ここは一つ、助け船を出してあげましょーかね。

「いらっしゃいませ!何かお探しですか?」

いきなり声を掛けたので二人とも吃驚した様子。いち早く立ち直った黄瀬くんがプラスチックの雑誌ラックに貼られた発売日一覧を指差しながら、これの今週号探してて…。と答える。慌てて制止しようとした不思議眼鏡くんはいいからいいから!と黄瀬くんにまたあしらわれて更にシワを深くしてしまった。気にする事ないのに。オレの仕事は、お客様の欲しい本を提供する事だ。お客様が嬉しいなら、それがオレ達店員の喜びなんだから。だから大丈夫ですよ、とフォローを入れれば、渋々といった感じではあったけど、任せてくれた。
早速断りを入れてレジに走る。任せてくれとは言ったものの、正直、不思議眼鏡くんが欲しがっていたその本は、予約がかなり入っていてうちの店舗じゃ既に完売。他の系列店だって似たようなもんだった。おまけに出版社も注文受付終了。状況は厳しい。けど、絶対見つけてあげたい。オレは在庫数の表示されたパソコンを睨み付けた後、受話器を取った。




「あ、はい、…本当っすか!じゃ、じゃあ一冊、うちに…はい、はい…すんません!お願いします!ありがとうございました、お疲れ様です」

ようやくまだ余っていた店舗があって、そこからうちに譲ってもらうことになり、ホッと胸を撫で下ろす。ラスト三店舗って感じだったからマジ危なかった。店の中じゃなかったら確実にガッツポーズしてたかも。
レジ横で待機していた二人にも本が確保出来た事を伝えると不思議眼鏡くんは、ほらー!やっぱり聞いた方が早かったじゃないっスかー!と黄瀬くんに肘で脇腹をぐりぐりされてた。

「っフン、たまたま、なのだよ!」

ズレてもいない眼鏡を直していた。お、照れ隠しかな。ハハ、これは所謂ツンデレですな。

「じゃ、うちに入荷したら電話するんで、これに書いてもらってもいいですか?」

またもや助け舟としてボールペンと紙を差し出せば黄瀬くんはあっさりと解放して、先に出口で待っているからと歩いていく。自動ドアを潜っていく背を見届ける。なんだかんだ言いながら、友達思いのいい奴なんだな。

「これでいいですか?」
「あ、大丈夫です。お電話は何時頃がいいですか?」
「…18時、以降に。留守番電話でも構いません」
「分かりました。こちら控えですね。では入荷したらお電話差し上げます。お待たせ致しました」

複写式の紙の一番上を手渡す。ミッション完了!これで後は入荷すんのを待つだけだ。いやいやよかった。

「…あのっ!」
「はい?」

もう帰るだろうなって思っていたら、声を掛けられた。何か言い難そうにしていて、オレなんか書類不備とか粗相でもやらかしたっけ?とちょっと焦るが、そんな心配必要では一切なかった。

「これ、わざわざ時間使って探してもらってすいません…すごく助かりました」

ありがとうなのだよ。って言った顔が、ふんわりと微笑む。う、わ、そんな顔もする、んだ。今日は初めてがいっぱいだ、どうしよう。


ちょっとカワイイ、とか、思ってしまった。


咄嗟にいえ!そんな、気にしないでください!としか言えず、やたらうるさい心臓を無意識に抑えて、黄瀬くんと同じように出ていく背中を見送った。
自分の反応に戸惑いながら考えたのは、次来店してくれた時にどんな顔をすればいいのか、だ。うぅ…この問題は解ける気がしません…。










わたしだけが楽しい()第二弾。黄+緑がすきです。
黄瀬くんは街で遭遇してそのまま連行されました。探し物は人が多い方がいいのだよ。


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