「あー、それはそうじゃなくてね…」

「は、はい…すみません…」

「とりあえず先にそっちの書類、デンさんに目ぇ通してもらいに行ってきてくれるかな?こっちは私がやっておくから後で一緒に復習しようね」

「は、はい!!ありがとうございます!!」


ぎこちなくお辞儀をする新入社員に「いえいえ」と笑い返し、彼が居なくなった事を確認してから小さくため息をつく。

教育って大変だなぁ…。



   4月26日(月)




「大変みたいですね、名さん」

「ティノくーん…」

「コーヒーどうぞ」

「優しいなぁティノ君は…気の利くいいお嫁さんになれるよ…」

「んだない」

「あの、僕男だって知ってますよね?普通は嫁っておかしいって思いますよね?」

「あの新入社員君なかなか仕事覚えてくれないなぁ…。まぁ職場に来てからまだそんなにたってないから仕方がないんだけどさ」

「教育係も大変だない」

「でも彼名さんの事すっごく優しくて尊敬できる先輩だって言ってましたよ!」

「そう言ってもらえるとホッとするなー…。若い子ってどう扱っていいのか分からないんだもん」

「でも名さんの周りって若い子も沢山いるじゃないですかぁ!」

「いや、あの子達は特殊と言うかなんと言うか…」


アルフレッド君を始とする若い子達はパワフルと言うか…それに比べて新入社員君は少し内面的なところがあるからなんとなくどう接したらいいかが分からない。


「名」

「なんですかノルさん」

「こないだの旅行の写真だべ」

「社員旅行のですか?わー、ありがとうございます!」

「楽しかったですよねー社員旅行!」

「私伊豆に行くの初めてだったから凄く楽しかったよ〜」

「ギルベルトさんも楽しんでましたしね」

「あ、宴会の写真。ギルとデンさんの野球拳…何故敢えて私の目の前でおっぱじめたんだろうあの二人は…訴えてやろうかな」

「まぁまぁ…」


先週行ったばかりの社員旅行。
新入社員の歓迎会も兼ねて行った一泊二日の伊豆旅行は、前年と同じくギルも一緒での旅行となった。
あの旅行で新入社員の子達と随分打ち解ける事ができたけど…。
私が面倒をみるようにデンさんから頼まれている先程の男の子はなかなか緊張が解けなかったのか相変わらず強張った表情をしていた。


「一度二人で飲みにでも行った方がいいのかなぁ…」


その方が腹を割って話せるかもしれないし。
私は飲めないけどね…。












「お待たせー、ギル」

「おー」

「今日の晩ご飯何にしようか。食べたいものとかある?」

「コロッケ!」

「またコロッケかよ!」


好きだなぁコロッケ…まぁ喜んで食べてもらえるからこっちも作り甲斐があるんだけどさ。

いつものように駅まだ迎えに来てくれたギルと二人で帰路につく。
夕飯はコロッケ…。なら本田さんのとこにも持って行ってあげようかな。いつもタイミング悪く担当さんに横取りされて食べられないみたいだし。


「なぁ」

「なぁに」

「…鞄」

「鞄?」

「持ってやるよ」

「あぁ、どうもありがとう」


すっと隣から手を伸ばし、私の左手から鞄を取ったギル。
別に今日は特に重くもないんだけどな…

持つものが無くなった両手をぶらぶらと揺らしながら歩くと、ちょこんと左手にギルの指先が当たり、そのまま私の指に絡まった。



「……手が繋ぎたかったなら口で言えばいいじゃん」

「いや、お前空気読めよ!?ここは何も言わず握り返すとこじゃね!?」

「読める空気なんで知らない。ギルの妄想に付き合う気も無い。最近はまってるギャルゲーの女の子にやってもらえばいいじゃん」

「なんでそれ知ってんだよ!?お前がいない間にプレイしてんのに!」

「情報提供者:アルフレッド君」

「あのガキィイイイ!!!」


「うおおおお!」と頭を抱え蹲るギル。
そんなにギャルゲーをしている事実が私に知られるのが嫌だったのか…。

まったくもう…


「ほら、帰るよ」


うな垂れているギルの手を取り、ぎゅっと握り締めてやると少し驚いたような表情で遠慮がちに手を握り帰した。



「何してやがんだプー太郎ォオオオ!!!」

「え…アーサー!?」

「うおらぁああああああ!!!」

「うおおおお!?」

「何ぃいいいい!?」


後から聞こえたアーサーの怒声に振り返れば、ギルと繋がれた手の間に入った手刀。


「何なの!?ビックリしたぁああ!!」

「プー太郎テメェエエ!!手ぇ繋いでんじゃねーよバカァ!!」

「なっ、邪魔すんじゃねーよ眉毛!!」

「あぁん?俺の目の前でこいつに触るなんていい度胸してんじゃねーか。今からダンボールに詰めてドイツに送り返してやる」

「お前どんだけ名が好きなんだよ気持ち悪い!!」

「ばっ…べ、べつに好きじゃねーよ馬鹿…。いや、好きだけど…」

「うわぁー、アーサー気持ち悪い。もじもじしないでよ鳥肌立っちゃった」

「そ、そんなに気持ち悪いか…俺…」

「「うん」」

「そ、そうか…」


地面に座り込み膝を抱えてぐずぐずと泣き始めるアーサー。
ほんと泣き虫だなぁ…。

ギルと一緒になかなか立ち上がろうとしないアーサーの腕を引っ張り無理矢理立たせた。
ったく…どいつもこいつも…。


「今夜の夕飯はコロッケだから元気出そうよアーサー…」

「ぐずっ…俺は子供じゃないぞ…」

「ガキより悪いだろ」

「テメェに言われたくない」

「あーはいはい、喧嘩しないでとっとと帰るよー」






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