「今夜はコロッケな!あと美味いビールを山ほど飲ませる事を要求するぜ!」

「俺はデザートも欲しいんだぞ!」

「俺もビール。あぁ、あとこいつのデザートはヘルシーなものにしてやってくれ。これ以上太ると困るからな」

「なんだと!!俺は太ってなんかないんだぞぉおおおお!」

「おら、返事はどうした!分かった時は“はい”か“Ja”で答えやがれ!」

「…畏まりましたご主人さまー」




5月12日(水)





偉そうに踏ん反り返るギルを今すぐぶっ飛ばしてやりたかった。
何故この三人組が今夜の夕飯のメニューを好き勝手述べているかと言うと、問題は昨夜の新人君との食事についてだった。
帰ってくるなり仁王立ちしているギルとアーサーに「男と二人っきりでこんな時間まで飯食って良いと思ってんのかぁああ!!!」とお決まりの説教タイムが実施されたのだ。
そして罰として今日一日は大人しく奴らの命令をきくという理不尽な事に…
っていうかなんでアルフレッド君まで参加しちゃってんのもう!!


「名、何か手伝おうか?」

「いいよ。座って待ってて」

「うー…やっぱり怒ってるのかい?ごめん、調子に乗りすぎたよ…」

「別に怒ってませんよーだ」

「怒ってるじゃないか!ごめん名…許してくれよ…」


私の服の裾を引っ張ってしゅんと俯くアルフレッド君。
私がそういう顔に弱いって事知っててやるんだからなぁもう…。

片手でポンポンと彼の頭を撫でて「じゃあじゃが芋の皮剥くの手伝ってくれる?」と顔を覗くと、ものすごい勢いで抱きつかれた。
可愛いんだけど苦しいよこれ……。


「料理なんて殆どしたことないんだぞ!」

「うん、アルフレッド君は味付けとかしないでね。この子があのアーサーの弟だって事すっかり忘れてたよ!」

「何でだよ!あんな味覚音痴と一緒にしないでくれよ!」

「だぁーれが味覚音痴だコラァアア!!」

「はいはい兄弟喧嘩は他所でやりなさい。アルフレッド君、剥けたら切るからこっちにちょうだいね」

「OK!」


鼻歌を歌いながらじゃが芋の皮を剥くアルフレッド君を心配そうにチラチラと除いているアーサー。
怪我とかしないか心配なんだろうなぁ…ブラコンめ…。


「剥けたぞ!次は何をするんだい?」

「これを切ってお鍋で茹でます。それからぐちゃぐちゃに潰して味を調えてから揚げるんだよー」

「OH。なかなか手間が掛かるんだな!」

「そうだよ〜。ほんとは前もって仕込みなんかをしておくと良いんだけどね…」

「君もいつも大変なんだなぁ」

「全国のお母さん達はもーっと大変だよ。手抜きもあんまりできないし、おまけに家事もしなきゃいけないしね」

「そうなのかー…。アーサーの…俺のマミーは忙しくてあんまり料理もしてくれなかったんだぞ」

「そっか…」

「本当の母さんの事も覚えてないしさ。漫画とかによく出てくる”おふくろの味”ってやつをよく知らないのさ」


少し寂しそうに苦笑いを浮かべたアルフレッド君に心が痛んだ。
そっか…アルフレッド君のお父さんはアーサーのお母さんと別れてから再婚してないんだもんね…。
おふくろの味、かぁ…


「私もお母さんの料理って食べた事ないんだよね」

「あ…そっか…」

「もしかしたら食べさせてもらったこともあるかもしれないけどさ、覚えてないし…。だから私にとっての母親の味はおばあちゃんの料理なんだよ」

「おばあちゃんの料理すっごく美味しいもんなぁ…」

「私もその味を受け継いでるんだよ。なかなか上手くいかない時もあるんだけど…。おふくろの味にはならないかもしれないけど、私の料理で良ければいつでも食べさせてあげるからね」


私の言葉にぽかんと口を開け、料理を手伝っていた手を止める。
照れくささからか、みるみるうちに顔を赤く染めていくのを横目で覗いた。


「あ、ありがとう……名…」

「どういたしまして」

「…やっぱり名には敵わないんだぞ…」

「その台詞そっくりそのまま返してあげるよー」

「ほんと、ギルベルトやアーサーなんて放っておいて今すぐ君を連れ去りたい気分だよ」



重いため息をつくアルフレッド君に「ため息ついてちゃ料理が美味しくならないよ」と背中を叩いた。

あんな事言ってるけどアルフレッド君はアーサーが本気で悲しむような事は絶対にしないんだよなぁ…。
これが兄弟愛ってやつですか…。
ほんと、羨ましいよねぇ…。



時間をかけてできあがったコロッケは「俺が揚げるんだぞ!」と張り切ったアルフレッド君により爆発コロッケとなってしまい無残な姿になった。
それでもアーサーは皮肉を言いつつも「アルフレッドが作った料理…!」とどこからかカメラを取り出して写真撮影を始めた。
また彼の「弟アルバム」にまた数枚写真が増える事でしょう。

ビールを煽って上機嫌なギルに、「そのうちヒーローの俺が名の事攫って行くから覚悟しておくといいよ!」と笑うアルフレッド君がそのまま私の頬にキスを落とした。
その勢いで足の小指を机にぶつけたアーサーと、自分自身が床にぶちまけたビールで足を滑らせて転んだギルの叫び声が部屋の中に響く。


「HAHAHA!名は君たちに渡さないんだぞ!」


はぁ…まったくこのトラブルメーカーは…。




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