「我の所に戻って来るあるよ菊ぅうううう!!」

「だーかーらーぁああ!私はもう貴方の弟じゃないんですからね!?そんな事より早く離してください!ああああ早くしないとブリーチの放送に間に合わないぃいいいい!!」


仕事の帰り道。
今日は外回りのついでに直帰する事になり、いつもより少し早く帰れる事になったのだが…

道を塞ぐ自称「じじい」の二人組。
ああ、買い物帰りの奥様方の視線が怖い……





     5月10日(月)




「こんな所で何やってるんですか二人とも…」

「ああ!名さんっ…!助けてください…早くしないとアニメがぁああっ!」

「名っ!我に協力するあるよ!菊を捕まえて我の家に戻すある!」

「あーもう煩いですよ!近所迷惑ですから!」


取っ組み合いをする二人の間に無理矢理体をねじ込ませ喧嘩を中断させる。
まったく何やってんのこの人たちは…!


「耀さん、こんなところに居て良いんですか?お店はどうしたんですかお店は!」

「店は香と湾に任せたから大丈夫あるよ。そんなことより今日こそ菊を一度家に戻すある…!そこでゆっくり話を…」

「話などする理由はありません!私は今一人で楽しく暮らしているんです!放っておいてくださいよもう!」

「そんな事言ってもし一人きりの時なにかあったらどうするあるか!家族が一緒なら何も心配ないあるよ!」

「いーえ!私には名さんという三次元の嫁が居るんですよ!憎たらしい孫のようなギルベルトさんもいますし、何より漫画家という大切な仕事もあるんです!そう易々と捨てられますか!」

「漫画ならこっちに居ても描けるあるよ!」

「何が楽しくて家族に見られながら漫画を描かなきゃいけないんですか恥ずかしくて死にますよ!!」

「お前の漫画なら全巻…いや、漫画家デビュー前の同人誌までも揃ってるあるよ!」

「いやぁああああああ!!何してるんですかこの人怖いぃいいい!」


私の周りをぐるぐると追いかけっこを始める爺二人に重い溜息が出た。
ああ、今夜はアーサーに美味しい紅茶でも淹れてもらおうかな…確か戸棚にクッキーもあったはずだからそれと一緒に…ウフフ、素敵な夜になりそうだよねー…


「何現実逃避してるんですか名さん!」

「こんな状況を目の前にすれば現実からも逃避したくなりますよ!!」

「すまねえある名、今度桃まんやるから許すあるよ」

「耀さん大好きぃいい!」

「あいやー!我も大好きあるよ〜!」

「なっ…!だったら私だって!先日限定発売してものの1分で全て完売した私原作のアニメフィギュアをプレゼントしますよ!」

「要りませんからそんなの!」

「待つある名!そのフィギュアはオークションで高額で売れるあるよ!」

「なっ……。ありがとうございます本田さん、喜んでいただきます」

「そんなことになった暁には今度の夏コミでアーサー×名のR指定本を発行します」

「殴っていいですか本田さん」


結局その後もまた喧嘩を続ける二人を無視して帰宅した。
なんだかなぁ…似てないようで似たもの同士だよね、あの二人…。



  



「そう言うわけでなんだかどっと疲れたよ…」

「大変だったな…。ほら、紅茶」

「ありがと。ギルは紅茶要らないの?」

「俺はビール」

「飲みすぎだから。それで4本目じゃん」

「ケッセセセ!4本なんて足りねーよ!これからが本番だぜ!」

「じゃ、じゃあ俺もビールに…」

「アーサーは酒飲むなって言ってんだろ」

「……グスッ…」


テレビを見ながらビールを飲むギルの背中見て「まるでオッサンの背中だな」なんて思いながらアーサーの淹れてくれた紅茶に口をつける。
相変わらず紅茶だけは絶品だなぁ…。
「一緒にどうだ?」と楽しそうにアーサーが持参してきた真っ黒なスコーン。
食べられないから作るなっているも言ってるのに…!


「なんだよ、スコーンが気になるのか…?た、食べてもいいんだぞ!」

「食べないよ!私を殺す気ですか!?」

「死ぬわけねーだろ馬鹿!こ、今回はちょっと自信作なんだからな!」

「炭にしか見えないのですが」


ちょこんと欠片を摘んで食べてみようと試みるものの、やはり過去のトラウマからかそれ以上は体が動こうとしない。


「アーサーさぁ、これいつも味見してんの?」

「いつもはしてる。で、でも今回は先にお前に食べてもらおうと思って、まだ…」


頬を赤く染めて視線を泳がしたり呻き声を上げる姿に不覚にも胸が痛くなった。

普段はツンデレの癖にそういう事素直に言うなんて卑怯じゃないか…。



「アーサー」

「な、なんだよ…」

「私が死んだらお供え物は甘い物にしてね」

「……は?」


欠片を口の中に放り込めば口いっぱいに広がる苦味となんとも表現できない味に喉しびれた。
加えて噛む食感は砂をかんでいるようにじゃりじゃりとして歯が痛い。

プツッ、と切れたように遠のく意識の中、最後に見えたアーサーの顔が驚いているようで嬉しそうな表情でなんとなくホッとする。
まぁ…たまになら食べてあげてもいいかなぁなんて思ってしまったあたり、とうとう脳までおかしくなってしまったらしい。

ああ、明日の朝無事目を覚ます事が出来るのを心から祈ります…



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