朝から空がどんより曇っているなぁなんて思っていると、帰り道で雨が降り出した。




     5月7日(金)




「うわ、ギルびしょ濡れ」

「しょうがねーだろ…お前迎えに駅向かう途中でいきなり降ってきやがったんだよ…!!」

「それは災難だったねー」



仕事用の鞄の中からハンドタオルを取り出し、頭の上から足の先までずぶ濡れになっているギルの頬に当てる。
到底こんな小さなタオルじゃ足りるはずも無いけど、まあ無いよりはましだろう。


「だけど困ったなぁ…。私折り畳み傘一つしか持って無いんだよね…」

「一つあれば充分だろ」


ピンクの可愛らしい折り畳み傘を差し出せば、濡れた手で傘を開き「さっさと入れよ。早く帰んねーとアニメはじまっちまうぜ!」と促された。
どうやらギルにとっては小さな傘で多少濡れる事よりアニメを見ることのほうが大事らしい。

ギルに傘を持ってもらい、できるだけ肩が濡れないようにギルに近づく。
ギルのやつ全身ずぶ濡れだからびちゃびちゃしてて気持ち悪い。


「あ〜もう、やだなぁ雨。雷鳴らないといいけど…」

「ケッセセセ!お前の弱点だもんなぁ!今年も楽しめそうだぜ!」

「黙れプー太郎。ドブに沈めるよ」

「ケセ…セセ…」


ビクビクと震えるもんだから傘がぐらぐらと安定せず、結局肩がびしょ濡れになってしまった。
帰宅すれば玄関で嫌がるギルの身包み全部を無理矢理剥がしてやった。パンツ以外。


「へ、変態ぃいいい!親父にもこんなことされたことねーのに!」

「された方が可笑しいわ!!ほらバスタオル。シャワーでも浴びてくる?」

「いい。めんどくせーし」


頭からバスタオルを被り、だらしなくソファーに寝転がるギルを横目に私も着替えを済ませるべく自室に入る。
着替え終わったタイミングを見計らったかのように、タオルを被ったままのギルが「ケセセ」と笑ってベッドに飛び込んだ。


「なんですかーギルベルトさん」

「んー?なんでもねーよ」


甘ったれた声。

構って欲しいんだろうなぁ…。
まるで飼い主に構ってもらいたい犬のような瞳で見上げられてしまったらたまったもんじゃない。

ベッドに腰掛けて、濡れたギルの髪を流れにそって撫でる



「なぁー…」

「なに?」

「今夜な、」

「うん」

「一緒に寝ねえ?」



W H A T ?


「別に変な意味でじゃねーぞ!!」

「な、なんだ…ビックリした」

「今までに何度も一緒に寝てんじゃねーか!!」


急に恥ずかしくなってきたのか、顔を真っ赤にさせるギル。
そうだよね、今までも何度も一緒に寝てるし心配する事は無いか。



「うん。一緒に寝よっか!」





  




思わず口から出てしまった事とは言え、まさか名が首を縦に振るとは思わなかった。



「ギルー、先ベッド入ってるからね」


風呂から上がって髪を乾かし、まだほんのり頬が赤くなっている名が嬉しそうにベッドの入るのを見て心臓が飛び上がる。

おおお、落ち着け俺…!!
今までに何回も一緒に寝た事あるし!?別に今更緊張することねーよなぁ!!



「電気消してね」

「お、おう!!」


部屋の電気を消すと辺りは真っ暗になり、カーテンの隙間から零れた外の明りが少し差し込んだ。
少しあけられたベッドのスペースに体を乗せ、布団を捲って中に潜り込むと名の体温ですんげえ温かい。

視線を上げて、恐る恐る名の顔を覗いて見れば「でもさ、一緒に寝るの結構久しぶりだよね」と照れくさそうに笑う……ってうおおおおおおおお!!!!上目遣いで言うんじゃねぇええー!!


「…何悶絶してんのギル…」

「お前…そんな高度な技をどこで…!!」

「は?」


とうとう頭が狂ったかと心底冷めた視線を送られて我に帰る。
危ねえ危ねえ…理性を失う所だったぜ…



「お前…さっきのやつ俺以外のやつにすんじゃねーぞ」

「何を」

「だから…上目遣いで…」

「上目遣いなんてしてねーよ。私がしたって気持ち悪いだけでしょうが」

「マニアックな奴には喜ばれんだよ!!」

「じゃあギルはマニアックな人の一人なわけ?」

「そっ、んなわけねーだろ!!お前の上目遣いとか気持ち悪すぎて吐き気するぜーっ!!!」

「そうか。死んでこい」

「ひっ…!?うぎゃっ!!!」



ドスン。
体を思いっきり蹴られてベッドから落ちる。

って、なんだよこいつ!!ヤンデレか!?確か本田が「名さんはツンデレな所もありますがどちらかと言えばヤンデレですよね。そんな名さんもぷまいれすモフモフモフ」なんて言ってたが…。



「今夜は床で寝る事だね、ギルベルト君」



ちくしょー、やっぱりこいつに勝てる気がしねえ…。




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