「やっぱり俺様はこういうキッチリした服も似合うしかっこいよなぁ……うっへっへ」 「うっへっへって…キモいよギル。っていうかネクタイ曲がってるし」 「違いますよ名さん、それはわざと曲げてるんです。朝玄関で夫の曲がったネクタイを直しさりげなくイチャついてみせる…そんな夫婦のようなワンシーンを演出したいが為のわざと曲げたネクタイなんですギルベルトさんグッジョォオオブッ!!」 「どっから湧いて出て来たんすか本田さん」 「名さんの素敵なメイクアップ姿が楽しみで普段は三日かかる仕事を一夜漬けで終わらせました、本田菊りんです☆キラッ」 「ギルー、ちょっと本田さん家行って本田さんの頭のネジ探してきて〜。どこかに落としてきたみたいだから」 5月5日(水) ゴールデンウィークも最終日。 今日はローデリヒさんのコンサートが行われると言う事で、お馴染みのメンバーでローデリヒさんの応援にきた。 私ってば去年はローデリヒさんの演奏以外寝ちゃってたんだよねぇ… 今回はしっかりクラシックを堪能しなきゃね! 「足元気をつけろよ」 「ありがとうアーサー」 アーサーの車で大きなコンサートホールまで連れてきてもらうと、中は既に沢山のお客さん達が集まっていた。 なんだか以前よりお客さんも多い気がするなぁ…。 「名ちゃーん!!」 「あ、こんばんはトニーさん!」 「かっわえええええ!!!うっひょぉおお!相変わらず名ちゃんはどないな格好してもかわええなぁ…」 「軽々しくこいつに近づくんじゃねーよカリエド……お前が近付くと野蛮が移るんだよ。あっち行ってろ」 「ああん?元ヤンのお前に言われとおないわ。お前こそ名ちゃんのお隣さんやからって調子乗ってたら本気でぶっ殺したるからなぁ…」 「こーらこら〜。二人とも喧嘩すんなってば。こんな場所で喧嘩してたら悪目立ちするだろ?お兄さんは関心できないなぁ」 「黙れ髭」 「土に帰れやおっさん」 「お兄さんこれ泣いてもいいのかな名ちゃん」 「勝手に泣けばいいじゃないですか。ギルー、ホール入るよ〜」 「おう!」 「頑張ってくださいフランシスさん…きっとそのうち良い事がありますよ」 「…そう言われて良い事があった試しがないんだけど、俺…」 ヤンキーのようにお互い眉間に皺を寄せて斜め下からにらみ合っている二人を無視してギルと二人でホールの中に入る。 えーっと、席はどこかな… 「おーい名!こっちだぞー!」 「名さんこんばんは…!」 「アルフレッド君にマシュー君!こんばんは」 「やあ名!今日は一段と綺麗だね!なぁマシュー」 「そ、そうだね…。すごく可愛いですよ名さん…!」 「おいマシュー、別に言いたくなかったら無理に褒め言葉言わなくてもいいんだぜ?正直に”寸胴ですね”とか”貧乳が目立ちますね”とかよお」 「ギル、明日からしばらくルート君の家でお世話になってこれば?でなければ寝てる間にギルの首絞めてるかもしれないよ、私」 「すみまっせんしたぁあああああ!!!」 「HAHAHA!今日も元気だなぁ君たちは!」 「そういえばエリザやルート君たちはまだ来てないの?」 「さっきまで一緒だったんだけどローデリヒの楽屋に挨拶してくるとかでどこかに行っちゃったんだよ。俺はコンサートが終わった後に花を届けに行こうと思ってね!」 「そうなんだー………って、ああああああ!!!」 「うおお!?なんなんだよいきなり叫んで!!」 「お、お花!ローデさんに渡すお花すっかり忘れてた…!!」 どどど、どうしよう…!もう夜だから今からじゃお花屋さんに頼んでもダメだろうし…。 あああもう帰省の事とかで忙しくってすっかり頭から抜けてたよ私のドアフォオオ!! 「名さんどうかされたんですか?」 「ほ、本田さん…」 「ぶふぁっ!!い、いったいどうしたと言うんですか!!そんな潤んだ瞳で私を見上げないでください爺を心臓発作で殺したいんですか貴方はぁあああ!!」 「(早くくたばらないかなこの人)」 「なんや名ちゃんお花買い忘れたん?せやったら俺がなんとかしたるわ〜!」 「と、トニーさん…!ありがとう!!」 「お礼にチューしてくれる?」 「そのあと一生口きかなくてもいいなら」 「…そんなん想像しただけでも辛すぎて生きていけへんわ…」 しゅんとうな垂れるトニーさんがポケットから携帯を取り出しどこかに電話を掛け始める。 キスは到底無理だけどちゃんとお礼はしますよトニーさん…! 「あーもしもし?俺や俺!いやいや俺俺詐欺ちゃうって〜。今からちょっと花束作って届けに来てくれへんか?そやなぁ…コンサートが一時間半ほどで終わると思うから8時半に頼むわ。うし、綺麗なの頼んだで〜!あとオマケしたってや!」 電話を切ったトニーさんが親指を立てて「大丈夫やて!」と笑った。 た、助かった…! 何故か顔を真っ赤にして戻ってきたエリザが私の隣の席に座って「名、どどど…どうしよう…」と震える手で服の袖を掴んだ。 何があったのか聞こうと思ったけど、すぐに演奏が始まってしまい聞く事ができなかった。 どうしちゃったのかなぁエリザ…。 どこかのプロの人の演奏が終わり、休憩を挟んだ後にローデリヒさんのソロ演奏が始まる ああ、ほんとに何度聞いても綺麗だな…。 聞いた事ない曲だけど、あまり有名じゃない曲なのかな。 でもすごく優しくて…まるで花が咲いているみたいに綺麗な曲。 ふと隣のエリザの顔を覗いてみると、頬をピンクにして薄っすら目元に涙を浮かべていた。 ![]() ![]() ![]() 「トニーさん、ここに居たらお花屋さんが来てくれるの?」 「そやで!お、噂をすれば…。おーい!こっちやで〜!」 トニーさんが大きく手を振り、目の前に”フラワーショップブルーム”と書かれた可愛らしいワゴン車が停まった。 って、ブルームって確か…… 「久しぶりやな〜!って、お前が届けにきたんかい!」 「…なんや文句あるんかい」 や、やっぱりベルさんのお兄さんんんん!! ルート君たちの成人式の日に行ったお花屋さんの… そっか、トニーさんの知り合いだったんだ… あ、相変わらずちょっと怖い外見ですねお兄さん… 「ベルはどないしたん?」 「知らん。おら」 「おお〜!めっちゃ綺麗な花束やなぁ!おおきになぁ〜。お金なんぼ?」 「100万ベリーじゃ」 「ベリーってなんやねんベリーって」 「あのー…お支払いするのは私ですのでいくらか教えていただけますか…?」 トニーさんの後に隠れるようにして顔を覗かせる。 私の様子をじっと伺ったお兄さんがポケットから何かを取り出して……って煙管ーーー!? 「いらん」 「へ?」 「代金はいらんからとっとけ」 「え、いやでもこんな立派な花束ですし…」 「いらん」 プイ、とそっぽを向き、そのまま車に戻りエンジンをかける。 少し開いた窓から「妹がまた会いたがっとったさかい、暇な時んでも来てくれや」と、私に向かって呟いた。 「なんやねんあいつー…」 「ふ、不思議な人…だね…」 受け取った大きな花束はカラフルなチューリップを中心に小さな花々で可愛らしく飾られていた。 この可愛い花束、あのお兄さんが作ってくれたんだよね……本当はいい人なのかもしれないなぁ。 花束を抱えて皆でローデリヒさんの控え室に入ると、演奏で疲れたのかぐったりと椅子にすわっているローデさんの姿があった。 あれ…てっきりエリザは先に来てると思ったんだけどな… 「お疲れ様ですローデさん!」 「ああ、名…ありがとうございます。綺麗なブーケですね」 「まぁ今回はそこそこいい演奏だったぜ!俺様にはおよばねーけどな!」 「ギルベルト…貴方はピアノ弾けないでしょうがお馬鹿」 皆からの花束でローデさんの控え室が一杯になっていく。 私達意外からもこんなに沢山…ローデさん人気あるんだなぁ。 皆でわいわいと演奏会の話で盛り上がっていると、きょろきょろと周りを見回したローデリヒさんが私を手招きした。 「どうしたんですか?」 「あの…エリザベータを知りませんか?」 「ああー…私も先にこっちに来てると思ってたんですけど…。何処行っちゃったんだろう、エリザ…」 「そうですか」 少し残念そうな、それでいてホッとしたような表情を浮かべたローデさんが溜息をつく。 随分疲れてるみたいだな… 「そうそう、一番最初のソロ演奏とても良かったですね!聞いた事ない曲でしたけど、エリザなんて涙浮かべてましたよ!」 「あの曲は……」 「え?」 「あの曲は、エリザベータの為に作った曲です」 「……へ……」 「演奏会の前に彼女にそう告げると真っ赤な顔をして俯かれてしまったのですが……」 理由はそれかぁあああ!! あの時のエリザ真っ赤な顔して泣きそうになってたもんなぁ…。 演奏の時もあんなに幸せそうで… エリザにあんな表情をさせられるローデさんに、彼女の親友としてなんとなく嫉妬してしまった。 皮肉交じりに「明日から顔も合わせてもらえなかったりして」と笑うと今までにないほど鋭い貴族チョップが脳天に入った。 絶対こぶできてるよ、これ… |