「暑い…」 「なんなんだよこの暑さは…」 「今ってほんとに5月だよね…」 時計の針が昼前を指した頃、テレビでニュースが「今日は全国的に夏日になるでしょう」と答えた。 嘘でしょ… 5月3日(月) 「こんな事なら半袖にしてくるべきだったな…」 「アーサーも長袖着てるもんねぇ…。何か服貸してあげようか?」 「いや、これぐらいなら大丈夫だ」 「でもこの調子じゃもっと暑くなるよ。いいから一緒に二階についてきなさい」 「……悪い」 元気良く庭の畑で野菜の収穫をしていた皆が上半身えお裸にして楽しそうに水浴びをしている。 アーサーも仲間に入ればいいのになぁ…。 隣でダラダラと汗をかくアーサー連れて二階に上がり、私の部屋の箪笥をごそごぞと漁る。 「これでいいかな」 「って、それお前の服だろ!?女物じゃねーか!!」 「大丈夫大丈夫、ギルとかに比べてアーサー細いから」 「わ、悪かったな貧弱な体で…。俺だってちょっと筋トレすればもっと良い体になるんだからな!!」 「はいはい。黙ってそれ着てなさい」 「……チッ」 舌打ちしちゃったよこの子。流石元ヤン…。 一枚襖を隔てた元父の部屋にアーサーが入っていくのを確認し、私も適当な服を選ぶ。 暑いからちょっと汗かいちゃったし私も着替えちゃお。 しかしまぁ昔自分が着てた服を見てるとなんだか懐かしいよねぇ…。 これ着てどこに行っただとか、何をしたとか…。 今とちょっと服の趣味が違ってたり、若かったからこそ着れた服だとか。 もう着れないのになかなか捨てられないんだよね。 「よし、これでいいか」 今着ている服を脱ぎ捨て、新しい服に手をかけたその瞬間だった 「おい、これやっぱり小さっ………」 「あ………」 隔てれていた襖が開き、少しきつそうな服を着ているアーサー。 そしてまだ着替え途中で上半身は下着姿の私。 そのまま数秒間固まった後に、先に悲行動に出たのはアーサーの方だった。 「わわわわ悪い!!!こっこっこっこれは、わ、わ、わわざとじゃなくてだな!!!!」 顔をこれでもかと言うほど真っ赤にして弁解を述べるアーサー。 しかし視線は反らさない。 急な出来事で頭が追いつかなくて、しばらく固まったままでいると、階段をバタバタと昇ってくる足音が 「ヴぇー、名〜!ずぶ濡れになっちゃったよ〜!着替え貸し……」 「「あ……」」 「……え…」 タイミングを見計らったのように現われたフェリ君に再び思考が停止する。 なんだこれ、今時こんなマンガの様な展開がこの世にありえると言うのでしょうか。 本田さん風に言わせてみれば「王道は時代を超える」というアレですか。 ふっ、とフェリ君の顔から笑顔が消えたかと思うと、スパンと音を立ててアーサーを遮るように襖を勢い良く閉めた。 そのまま私の足元に落ちている服を拾って私の頭から被せると、ぎゅっと私の体を包むようにして背中を優しく撫でながら「大丈夫?」と耳元で呟く。 一連の衝撃とフェリ君の行動の早さに完全に頭が混乱している私は、そのまま消え入りそうな声で「はい」と答えた。 ![]() ![]() ![]() 「水浴び気持ちよかったぜー!!」 「兄さんのせいで俺までずぶ濡れになってしまった…」 「ルート君も楽しそうだったじゃない。はい、タオル」 「すまないな…」 下ろされた前髪から水が伝うルート君にタオルを渡し、ずぶ濡れのまま縁側に座って寝転がるギルの頭を蹴ってから体の上にタオルを落とす。 濡れたまま寝転がるなっての。 「なぁ名」 「なーに、アルフレッド君」 「なんでアーサーは部屋の隅っこで蹲ってるんだい?」 「……子供は知らなくていいの」 「なんだよ子供って!俺はもう大人なんだぞ!!」 「はいはい、良い子のアルフレッド君には飴玉をあげるからね〜」 「なんなんだよムキィイイイイイ!!!」 地団太を踏むアルフレッド君を「はいはい髪拭いてあげるからそこ座って」そ宥める。 頬を膨らませながらプイと顔を反らす姿は子供そのものだ。 「ロヴィの髪は俺がふいたるさかいな〜!」 「ばっ、やめろこのケッバレ!!さわんじゃねーよ!!」 「なんでなん〜?小さい頃はこうやって親分が乾かしてあげよったのに…」 「むむ昔の話してんじゃねーよちくょおおおお!」 「俺も昔ルッツの髪を乾かしてやったもんだよなぁ」 「そ、そうだったな…」 「私もルート君の髪乾かしてあげた事あるよー」 「なっ!?い、いつだよ!?俺そんなの知らねーし!!」 「えっへへへー。内緒」 「ああ、兄さんには秘密だ」 「ちくしょぉおおおおおお!!!」 叫ぶギルをアルフレッド君がからかうように笑い飛ばす。 なんだかすごく平和だなぁー… 「アーサーくーん」 「!!な、んだよ…」 「何端っこで座り込んでんの。怒ってないんだからそんなに落ち込まなくてもいいでしょ?」 「お、お前が落ち込まなくても俺は……。いや…本当に悪かったと思ってる…」 「真っ赤な顔して言わないで欲しいのですが…こっちが恥ずかしくなるじゃん」 「…ごめん」 「いいってば」 足の間に顔を埋めているアーサーの髪をわしゃわしゃと撫でてやると、そっと顔を上げてまた顔を真っ赤にした。 なにかをごにょごにょと言っているので耳を傾けてみると、「偶然でも、俺にとってはラッキーだった…」とほざいていたので撫でていた手で頭を殴ってやった。 こいつがエロ紳士だと言う事をすっかり忘れていた私が馬鹿だった。 その夜は昨日と同じく夕食後に酒盛りが行われ、なんだか疲れてしまった私は自室で横になったまま眠ってしまっていた。 体に重みを感じて目を覚ますと、隣でアルフレッド君が寄り添うように私の体の上に腕を置いて眠っていた。 皆がお酒飲んでるから抜け出して来たのかな…。 そういえば昼間彼を子供扱いしてしまった時からずっと拗ねていたような気がする。 アーサーと言いアルフレッド君と言い…手がかかる大きな子供みたいだなぁ…。 なんて言うと二人して拗ねちゃいそうだから言えないけどね。 . |