「お爺ちゃんお婆ちゃーん!ただいまなんだぞぉおお!」

「アルフレッドお前…ただいまってここはお前の実家じゃないんだぞ!?」

「ヴェー!ここが名の実家かぁ〜!素敵な日本家屋だね!」

「台風が来たら壊れそうだな…」

「こらこらロヴィーノ君、これでももう何十年も耐えてきてるんだから。そう簡単には壊れません」



     5月2日(日)





「あらまぁまたかっこいい男の子が増えてる!」

「ヴぇ〜!ピアチェーレ!俺の名前はフェリシアーノって言います!」

「初めまして美しいご婦人。俺は名の恋人のロヴィーノと言います」

「あら!そうなの!?プーちゃん電話で”俺様はついにやったぜえええ!”とか言ってたじゃないの〜!名ったらもうこんなかっこいい男の子に乗り換えちゃって…!」

「違うから。イタリアンジョークだよお婆ちゃん。というかギル何変な電話かけてんだ」


お昼過ぎに駅を出発して帰ってきた私の実家。
やっぱり自分の家は落ち着くなぁ〜…!


「お爺ちゃん!ただいまなんだぞ!」

「おお、アルフォンスか」

「やっだなー爺ちゃん、ボケちゃったのかい?俺はアルフレッドだよ!」

「そうだったそうだった、エドワードだったのー」

「どこの兄弟だいそれ?」

「お久しぶりです、お爺さん」

「おお、ムキムキ太郎か」

「これ…俺の父からお爺さんに…ドイツの銘酒なんだ」

「おぉ…!美味そうな酒じゃわい。今夜はこれで一杯やるか!」

「よっしゃぁああ!」

「また始まったよ…」


もはや止めはしないけどさ。だけどもういい歳なんだからお酒は控えてほしいもんだ。

アーサーやトニーさんはもうこの家に慣れたもので、アーサーはアルフレッド君の分も一緒に荷物を二階に運びびに、トニーさんは台所でお婆ちゃんの手伝いをしながら世間話をしている。

なんとなく居心地悪そうにキョロキョロと家の中を見渡すロヴィーノ君が私の隣にぴったりくっつくように座った。


「何もないからつまらないでしょ?」

「いや…。それより紙と鉛筆ないか?」

「んー?あるけど…何に…ああ、絵描くのか」

「こっちで何か描きたいと思ってたんだけど俺も兄ちゃんも道具すっかり忘れてきちゃったんだよねー」


描ければなんでもいいから貸してー!と私の背中にもたれかかってくるフェリ君。
うーん、紙と鉛筆ならいくらでもあるけど…。ちゃんとした画材道具とかあった方がいいんじゃないのかな。


「はいどうぞ」

「ヴぇー!ありがとう名!」

「さっそくその辺り散歩しながらスケッチしに行ってくる」

「俺も一緒に行こう」

「はいはい。三人とも迷子にならないよにね!危ない場所には行かない事!」

「子供扱いすんなよなちくしょー!!」


楽しそうに家を飛び出すフェリ君とロヴィ君の後を追いかけるルート君。
んー、本当に鉛筆だけでよかったのかな…確か裏の倉庫の中に画材道具があったような気がするんだけど…


「よし、いっちょ探しに行くか…!」

「あ、名ちゃんどこ行くん?」

「倉庫の方にね。ロヴィ君とフェリ君が使えそうな画材道具があったと思うんだけど…」

「ほなら俺も一緒に探しに行くわ〜!二人のが早く見つかるかもしれんしなぁ」

「ありがとうトニーさん」

「俺はお爺ちゃんと一緒に畑に行ってくるよ!」

「昨日でっかい蛇が居たぞ」

「なんだって!?それアナコンダじゃないだろうね!?」

「じゃあプーちゃんとアーサー君はお婆ちゃんとお喋りしましょうか」

「いいぜ!」

「それで、その後名とはどうなってるの?キスぐらいはしてるんでしょうねぇ」

「そ、それは…」

「そんな事俺がさせるわけないですよ」

「まぁ、アーサー君はまるでナイトみたいねぇ!」


また好き勝手言ってるよ…。まぁいい、好きにさせておこう。

トニーさんと一緒に裏庭にある倉庫の中に入り画材道具探しに取り掛かった。
うわ、中埃っぽいなぁ…!


「この辺はどうやろ?」

「あー、その辺はお父さんの遺品ばかりだからなさそうだぁ…」

「そーかぁ………て、あ!」

「どうしたの?」

「こ、これって名ちゃんが書いたん…!?」


トニーさんの手元を覗くと、端っこが破れかけている古い文集が。
うわぁ…懐かしい。中学生ぐらいの時のやつかな。


「うん、確かに私のだよ…!懐かしいなぁー…若かりし頃の思い出だよ…」

「今も充分若いやん!」

「もう25だよ…うふふ…」

「中身見てみてもええ?」

「どうぞ。ろくな事書いてないだろうけどね…」

「うわぁ!かわええ字やなぁ…!!」

「字に感動しなくても…!」

「なになに…”私の将来の夢は弁護士になる事です。罪のない人の無地を証明し、多くの人を助けてあげたいと思います”…って、かっこえええええ!中学生でこんな夢持ってたなんてすごいなぁ…!」

「中学生だからこそだよ。いやぁ、この頃は勉強も頑張ってたよなぁ…」

「でもなんで夢諦めてもたん?」

「んー、夢って言ってもほんの少しの希望みたいなものだったしね。実はケーキ屋さんにもなりたかったし保母さんにもなりたいとも思ってたし」

「ケーキ屋さんの名ちゃんもええけど保母さんってのもええなぁ…。名ちゃん面倒見ええから向いてると思うわ」

「そ、そうかな…」


な、なんだか照れるなぁ…。


「あれ…なんか写真挟まってるけど…」

「え?なんだろう…」


文集の最後のページに挟まった写真をトニーさんが手に取った。
なんてこんな所に写真が挟まっ…………


「って、あああああああああ!!!」

「ひょわぁあああああ!?」

「な、何でこんな場所に挟まって…!!」


トニーさんから写真を奪い取り背中に隠す。
こ、こんな恥ずかしい写真なんで…!!


「な、なんなんその写真!?チラっと見えたけどセーラー服着た可愛らしい名ちゃんがおったとおもうんやけど…」

「き、気のせいですよ!」

「それに隣に男が写ってたような……」

「が、画材道具もないみたいだし家に戻ろうか〜!!」


はははと空笑いをしてゆっくりと後ずさりする。
少し睨むようにして目を細めるトニーさんが…怖い…。



「名ちゃん?」

「は、はい…」

「それ、見せたって…?」

「い、嫌です…」

「……」


な、なんか今までに見たこともないようなドス黒いオーラが見えるのですが…。
トニーさんはアーサーに劣らないほど昔はヤンチャしてたって聞いたけど…この気迫…ヤンチャってレベルじゃないような気が……



「見せてくれなチューすんで」

「ええええ!!」

「チューしてまおっかなー、チューしたろっかなぁ〜」


黒いオーラを纏いながらじりじりと迫ってくるトニーさん。
め、目が本気だ…


「………どうぞ」

「素直な名ちゃん好きやで〜!」


ああ…負けてしまった…。だってトニーさんすごく怖いんだもんね…


「な、なにこれ…」


写真の中に写っている学ラン姿の少年。に、頬へキスされている若かりし私の姿…


「中学の時同じクラスだった男の子で…ちょっとしたおふざけ半分で罰ゲームしてた時の写真です、はい」

「…………」

「あの…トニーさん…?」

「ずるいわ…」

「はい…?」

「ずるいわずるいわぁあああああ!!!まだ若くて大人の階段を一歩ずつ上がって行ってる純粋な少女の名ちゃんのほっぺにちゅーやなんて、羨ましいんじゃぼけえええええ!!!!

「落ち着いてトニーさぁああああん!!!!」

「どこのどいつやねんこのクソガキ!!!!お前場所かわれや!!俺もほっぺにチューしたいっちゅーにぃいいいいいい!!」


写真のなかに写る私と少年の間を裂くように写真をビリビリと勢い良く破るトニーさんの恐ろしさのあまり腰が抜けそうになった。
ひとしきり叫び終わった後ハッとしたような表情をして正気に戻ったトニーさんが「ご、ごめんな名ちゃん…!怖がらせてもたよなぁ…ご、ごめんな…!」と私の頭を抱えるようにして抱き締めてきた。

いや、うん、なんて言うか……

トニーさんだけは怒らせちゃいけないと再確認した。







「ヴぇ〜!お腹すいた〜!」

「は〜い、晩ご飯できましたよぉ〜!」

「名名!この大根俺が採ってきたんだぞ!」

「そうなんだ。偉い偉い」

「なっ…!名に撫でられてんじゃねーぞメタボが!!羨ましいんだよちくしょー!」

「こらこらロヴィ〜。喧嘩したらあかんやろ?その意見には同意やけど」

「はいはい、喧嘩もいいけど先にご飯食べましょうねぇ〜」


宥めるようにロヴィーノ君の前にお箸を置くお婆ちゃん。
流石年の功というものだろうか…宥めるのが上手い。



「フェリ君達は今日どこまで行ってきたの?」

「んーっとね〜。川とか山とか見て回ってきたんだ!絵はあんまりかけなかったんだけどいい場所見つけたからまた明日行ってくるよ〜!」

「俺はジョギングに良さそうな景色のいい道を見つけたな。明日の朝に行ってきてもいいだろうか?」

「もちろん。ルート君筋トレ好きだよね。いつもはワンコたちと一緒に走ってるんでしょ?」

「ああ」

「あいつらも今頃ペットホテルで豪華な飯食ってんだろーな!」

「そうだね。ギルも一緒に預けてくれば良かったな…」

「なっ!?俺は犬かよ!?」

「名に同意権だ」

「俺も」

「俺もだぞ」

「俺も名と同じでいいよ〜!」

「………ふぇ、フェリちゃんまで……ふ、ふははは!!それって俺様が犬のようにかっこいいって事だよな!そうだよな!!ははは…………グズッ」


部屋の隅っこで泣き始めるギルを無視して皆でわいわいと夕食を楽しんだ。
ルート君が持ってきてくれたお酒が美味しかったらしく、飲むのが勿体無いと言うお爺ちゃんに「また今度、送るから」とルート君が嬉しそうに笑った。
勝てるはずもないのにアーサーがトニーさんと飲み比べを始めて、自分も飲みたいと主張する唯一の未成年のアルフレッド君の手をペシンと叩いく。

皆がお酒で盛り上がっている時にもぞもぞと畳の上を芋虫のように這って来たギルが、うつ伏せで寝転んだままの状態で私の腰に抱きついた。
構ってもらいたいんだろうなぁと分かっていながらも、なんとなく自分の中のS心が疼いたのでもうしばらくはこのまま無視を続けてやろうと思う。



.

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -