神様、この男をどうにかしてください。


「それでな、俺の顔を見るなり嬉しそうに”いぎりちゅー!”って駆け寄ってくるんだよ!!っとに可愛いのなんのって!それで抱き上げてやって頬にキスしてぎゅっと抱き締めて…あぁ、勿論力加減はしてるんだけどな。じゃないとあいつ小さいから潰れるといけないし…」


会議の後で一緒に飲みに行かないかと誘われ、バーに入ってから約一時間。
早くもご機嫌に酔い始めたイギリスがヘラヘラと笑いながら語り始める”元弟の自慢話”。

あの時のアメリカはどうだったとか、小さい頃のアメリカの可愛さはどれ程かってお前、そんなの世界一に決まってんだろバカァ!!と私の背中をバシバシ加減もせずに叩く。

ああ鬱陶しい。こんな事なら誘いに乗らずフランスとでもディナーに行けばよかった。


「俺の話聞いてんのかよ!!」

「あーはいはい、聞いてるってば。小さい頃のアメリカは天使なんでしょ〜?」

「ちげーよ馬鹿。お前のこの後の予定聞いてんだよ」

「特に用もないけど」

「ふーん…」


興味なさ気に返事をし本日何杯目かのグラスに口をつける。
興味ないなら聞くなよ…!

面倒くさいと思いながらも毎回こうやってイギリスに付き合う事になるんだよなぁ…。
他の皆はとうの昔にイギリスの酒癖の悪さに「二度と一緒に飲みに行かないと」口々に言っている中、唯一私だけが未だにこの酒乱に毎回振り回されるこ羽目なっている。

ま、もう慣れたけどね…。
さーて、一時間以上たったしそろそろ「なんで独立しちまったんだよアメイカァアアアアア!!!」と暴れ始める時間だ。
早めに店の外に出て酔いを冷まさせて…


「なあ名」


予想に反してしっかりとした声で私の声を呼ぶイギリスに驚き視線を寄せた。

酔って頬を赤くしたイギリスの顔がわずか10pの場所にあって、ビクリと体を揺らして「なっ、なに!?」と声を裏返した。



「お前、俺の事好きなんだろ」

「…………は?」

「他の奴らは俺の事とっくの昔に見捨ててんのに、未だに一緒に飲んでくれんのお前だけだし。なんだかんだ言っても最後まで面倒見てくれんのお前だけだし。本当は俺の事好きなんだろ…?」


”俺の事好きなんだろ?”
その俺様な台詞にどこぞの不憫な芋野郎の顔が頭を過ぎった気がする。

これがただの素敵な勘違いだったらどれほど良かっただろうか。
「しばくぞエロ眉毛紳士」と何発か殴って気絶させて、家に送り届けてハイ終了、で済んだ事なのに。



「なあ、」

「……」

「俺の事、好きで居てくれたのか?」

「……」

「俺の事、ずっと見ててくれたのか?」

「……」



ものすごくこの場から逃げてしまいたかった。
もしくはイギリスを全力で殴って気絶させても良かったかもしれない。


イギリスのセンスの無いネクタイの柄が視界一杯に広り、力加減というものが全く無いその抱擁に自然と口から声が漏れた。



「お前は、俺から離れないでいてくれるのか…?」



涙を含んだ声。
ああ、どうせ朝になればいつものように今日のことは忘れてしまっているんだろうな。


神様、お願いします。この男をどうにかしてください。


馬鹿で酒癖の悪い、どうしようもなく愛しいこの男を。











「名、今日も一緒に飲みに行かないか?」

「ほんとくたばればいいと思うよお前」

「は……?」





2010.5.27





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