暇だ。

休日の昼下がりのゆっくりとした時間。
部屋でごろごろと本を読んだり、音楽を聴いたりして過ごしていたけどなんとなく落ち着かなくて。

なんだかだるくて重い体を持ち上げてリビングに下りようと扉を開けば甘い香りが漂ってきた。



「あ、名…。良い所に来てくれたよ…!お皿出してくれないかい?」

「何してんのマシュー」

「ホットケーキ焼いてるんだよー。クマ吾郎左江門さんがどうしても食べたいって言うから…」

「誰ダオマエ」

「……君の為にホットケーキを焼いてる飼い主のマシューだよ…」


お互いに名前を覚えようとしない見慣れたコンビに苦笑いを浮かべる。
(どう見てもクマ次郎さんのはわざとだと思うけどね)


「名も食べる?」

「…今私がダイエット中って知ってるでしょう…」

「あ…。そうだった…ごめん…」

「きぃいいい!!これだから細い奴は!なんで毎日同じもの食べてるのにマシューはこんなに細いの!!もっと太れぇえええ!!」

「うわぁあああ…!!」


背中から抱きついてマシューの着ているパーカーの裾から手をしのばせてお腹周りをペシペシと叩くと体をビクビクさせて悲鳴をあげるマシュー。
反応がいちいち可愛いんだよねぇ…。
これじゃあ私が男でマシューが女の子みたいだ。


「りょ、料理中にふざけちゃ危ないじゃないか〜…!」

「マシューが細いのが悪い」

「なんでも僕のせいにしない…!」

「マシューは私の母親か」

「ち、違うけど同じような役割は果たしてると思うよ…」


いや、まあそうなんですけどね。

なんだか面白くなくて抱きついたままマシューの背中に顔を埋めていると「危ないから向こう行ってて」と体を引き剥がされた。

拗ねて不貞寝でもしてやろうか。
ソファーに寝転がりクッションを抱えると、もぞもぞと体の上にクマ次郎さんが覆いかぶさってきた。
特に抵抗する必要も無いのでされるがままに身をゆだねながらその白くてモフモフとした毛並みを撫でた。
撫でる手をペロリと舐めてくるもんだからなんだかくすぐったい。

ふとクマ次郎さんから視線を外して天井を見上げると、ホットケーキが乗ったお皿を片手に頬を膨らませてプルプルと震えているマシューの姿があった。


「ましゅ、」


言葉を言い終える前にマシューの手により引き剥がされる私とクマ次郎さん。
部屋の隅っこへとホットケーキと共に降ろされたクマ次郎さんがハァと大きく溜息をついた。


「あの、えっと…マシューさーん?」

「ぼ、僕がっ…!僕が構ってあげないからって何もっ、クマプーさんとイチャイチャしなくてもいいじゃないかああ…!」


むぎゅううう、と音がするほど私の体を強く抱き締めるマシュー。
あれ…なんだこれ…ひょっとしてひょっとしなくてもヤキモチですか、マシューさん…。
マシューがヤキモチをやくなんて事滅多にないもんだから、私の体の底からふつふつと喜びにも似た感動が込み上げてきた。


「ま、マシュゥウウウウウ!!!好きだぁああああ!!」

「え!?ぼ、僕だって、だ、大好きだよ…!」

「えっへへへへ〜!」



おノロケ話はクマも食わない



(イチャツイテンジャネーヨバカップルガ。ペッ)
(あれ、今すごい汚い言葉が聞こえたような…)





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私欲に走って実にすみません。

2010.5.24






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