「ヴぇー。姉ちゃん、ドルチェ作ったんだけど一緒に食べない?」

「う…え、遠慮しておくよ…」

「ヴぇっ!なんでなんで!?姉ちゃん俺の作ったドルチェいつも美味しそうに食べてくれるのに…!!」

「それがいけないんだよフェリ…。フェリの作る料理が美味しいから…美味しいから…!!」


こんにちは、名です。このアドナン家の長女にして紅一点。
沢山の兄や弟達に囲まれて暮らすのはいささかむさくるしくはありますが、そんな家族が大好きで毎日充実した生活を送っています。

だけど最近大きな悩みが一つ…


「名〜。お兄さんが名のために美味しいマカロン作ってあげたよ〜!」

「うっ…!!い、いらない!!」

「ええええ!?なんで!?好きでしょ俺のマカロン!」

「好きだけど、好きだけどぉおおおおおお!!!」


そう、兄弟達の作る料理はどれも最高(一部の眉毛を除く)。
ついつい食べすぎちゃって、それに伴い私の体重はどんどん増えていって…。
それを自覚させたのはアルフレッドのひょんな一言。
いつものように抱きついてきたアルフレッドが「あれ…なんか以前より柔らかい部分が多くなってきたような…」と呟いた事から始まる。

そんなわけでダイエットを始めた私は甘いものを一切口にしないと決めているのでありまして。
ごめんねフェリ…!でもフェリもデブな姉ちゃんは嫌だよね、きっと…!


「おい名。母さんがたい焼き買ってきてくれてんぞ」

「あ、アーサー…私いらないからアーサー食べていいよ」

「どうしたんだ?お前が食わないなんて…どこか体でも悪いのか?」

「ち、ちょっとね…」

「ぐ、具合悪いなら早く言えよ馬鹿ぁ!!今ならまだ病院開いてるよな!?おいフランシス!!テメェ車の鍵よこせ!!」

「はぁ?なに言ってんのこの坊ちゃん…」

「うるせー髭!!名が具合悪いんだよさっさとよこせ!!」

「大丈夫だから!!っていうか鍵よこせって、アンタ免許持ってないでしょーが!!」

「俺を誰だと思ってんだよ…」

「うん、そうだったね。少し前までバイクやら車やらブイブイ言わせてたもんね」

「なんでこんなヤンキーに育ったんだろうなぁ…」

「フラお兄ちゃんも昔はちょっと荒れてたくせに…」

「え…なんでそれお前が知って…」

「トニーお兄ちゃんに話は聞いた」

「トニーあんにゃろ…!!それより名、お前本当に具合悪いのか?俺のマカロンも食べなかったし、本当にどこか悪いんじゃ…」

「ち、違うってば!!もう放っておいてよ馬鹿!!」

「心配してやってんのにそれはないだろ〜?」

「安心しろ、俺が病院に…!!」

「もういいってば!!」


二人に背を向けて二階に繋がる階段を駆け上がる。
こうなったら意地でも痩せてやる…!!





「あら、名さん…ご飯おかわりしないんですか?」

「うん、今日はこれだけで良いや」

「大食いの姉貴が珍しいな」

「そこ、煩いよロヴィーノ」

「シー君はおかわりするですよー!」

「はい。沢山食べて大きくなってくださいね」

「私はこれでご馳走様です」


手を合わせて頭を下げ、お茶碗を流し台に持っていく。
よーし、今から運動するぞ!


「あいつ殆ど食べてないけど大丈夫か?」

「名の残した分は俺が食べるんだぞ!」



自室に戻り、部屋着からスポーツウェアに着替えて準備を整える。
よし、今から一時間ぐらい走りに行ってこよう。
もう外は暗くなってるし皆に知られると総立ちで反対されそうなので裏口からそっと抜け出した。


「んー!夜風が気持ち良いなぁ〜!」


始はゆっくりと、後から徐々にスピードをつけて…

って、あれ…あそこに居るのもしかして…


「ん?あれ、名やんか!!こんな時間に外で何してんねん!」

「と、トニーお兄ちゃん!?」

「なにしてんねんて聞いてるんや!まさか夜遊びか!?今から男のとこにでも行くつもりやったんとちゃうやろな!!兄ちゃんはそんな妹に育てた覚えないで!!」

「ち、ちがっ…」

「ええからこっちき!いくら名でも今日は許さんよ!お尻ペンペンして説教や!女の子がこんな時間に一人で夜道におるなんて危ないに決まってるやろ!?」


や、やばい…バイト帰りのトニーお兄ちゃんと鉢合わせになっちゃった…!!
トニーお兄ちゃんは普段とっても優しいんだけど私とロヴィに対して過保護すぎるんだよねぇ…それに怒った時は兄弟の中で一番怖い。
こ、これは本当にお尻叩かれて説教されかねない…


「ご、ごめんなさいお兄ちゃん…!ちょっと夜風に当たりたかっただけで…そ、それに今外に居ればバイト帰りのトニーお兄ちゃんに会えるかなって…ご、ごめんなさい…」

「なっ…名…俺の事迎えに来てくれたんか…!?」

「う、うん…」

「なっ、なっ、なんて可愛ええんやぁあああ名ーーーーーっ!!!!!!」

「ぐええええ!!!」

「ごめんな、ごめんなぁああ!!兄ちゃんが悪かった!!名の気持ちも知らんで怒ってごめんなぁああああこんな悪い兄ちゃんでごめんなぁああああああ!!!!」

「ううん…あの、皆には内緒で出てきちゃったから内緒にしててね…」

「いじらしいなぁ名…!ほんまかわええ、かわええわぁ名…」


トニーお兄ちゃんに力強く抱きしめられてその反動でかかとが浮いた。
苦しいけどここは我慢我慢…。
それにしてもこんなに上手くごまかせるとは…トニー兄ちゃん、案外ちょろいな…。



「じゃあ兄ちゃんと手ぇ繋いで帰ろか!」

「うん」

「こうやってると恋人同士みたいやなあ〜!…ハッ…!!ご近所さんに勘違いされたらどうしよ!?アドナンさん家のアントーニョ君と名ちゃんイケナイ関係らしいわよって…もしそうなったら世間体も悪いしあの家にはおられへんな…大丈夫、俺がちゃんと守ったるさかいな…!俺らの関係を誰も知らんような場所へ駆け落ちすればええんやから…。な?心配せんでええねんで、名……」

「手離して」

「なんでやぁあああ!!兄ちゃんが嫌いなんか名ーーーっ!!!」



結局夜のジョギングはトニー兄ちゃんに邪魔されてしまった。
ええい、明日だ!明日から頑張ろう!!






「おはよーエリザ…」

「おはよう名!あら、顔色が良くないわね…。大丈夫?」

「んー、ちょっとねー…」


やっぱり朝ご飯抜きはダメだったかな…。
他の皆にばれないように早起きして、「朝早く自主学習があるから!」とお母さんに告げてきたけど…。
うっ…お腹すいた…。授業に集中できるかな…


「モイ!おはようございます!」

「おはようティノくん」

「おめ…顔色良ぐねえない…」

「スーさんもおはよう〜」


仲の良いクラスメイトであるエリザとティノ君とスーさん。
エリザはともかく、ティノ君達にはダイエットの事は言えないよね。
痩せるために朝ごはん抜いてきたとか恥ずかしいし…



「もしかして名、生理中なんじゃねえ?」

「お、重っ…」

「こら!!エリオット!後ろから名にのしかかるのやめなさいよ!うらやましいのよアンタ!」

「エリザベータこそいつも名にベタベタしてんじゃん。たまには俺にも譲れっつーの」

「アンタねえ…弟のくせに生意気なのよ」

「弟ってもほんの数分の差だろ〜?そんなにカリカリするなよ、お姉様」


私の頭に肘を置き体重を掛けてくるエリザの双子の弟エリオット。
この二人って、性格は似てないようで似てるんだよねー…
美男美女な双子という事でこの学校でも有名らしい。


「あの、エリオット君…重いのでやめていただけますか…」

「んー?やだ。名の事好きだし」

「こら!朝から何をしているんですかお馬鹿!」

「「ローデリヒさん!!」」

「あ、ローデさん…おはようございま〜す」

「ったく貴方という人は…。簡単にエリオットに圧し掛かられるようじゃいけませんよ」

「すみませーん」

「聞いてくださいよローデリヒさん!エリザベータが俺の事生意気だって文句言ってくるんすよ!」

「ばっ、何言ってんのよ!気にしないでくださいねローデリヒさん!馬鹿が移りますから!」


ローデリヒさんを挟んでギャーギャーと騒ぐ双子の声が頭に響く。
よく毎日飽きないで喧嘩するよなぁ…。
まあ私も三つ子だし分からないでもないけど…。

お腹がぐーぐーと鳴るのを我慢しならも、やっとお昼の時間になった。
お昼はちゃんと食べないとダメだよね…!


「って、お弁当忘れたぁあああああああ!!!」


そうだ!今日は朝早かったからお母さんに「これでパンでも買いなさいね」って言われたんだった…!!
うああああん今から購買行ってもパン残ってないよぉおおお!


「あら名、どうしたの?」

「あの、えっと…ちょっとお手洗いに…先に食べててね…」

「え、ええ…」


隣のクラスのアーサーのとこにいけば何か分けてくれるよね…
こういう時は兄弟が同じ学校に居て良かったと思います。


「アーサァアアア!」

「あれ?名じゃない」

「やっほーイヴァン。アーサー居ない?」

「んー?知らないなぁ。…あ、そういえば担任の先生に昼休み職員室に来るように言われてた気がするけど」

「ま、マジですか…」

「どうかしたの?」

「う、ううん…ありがとイヴァン…」

「あ、名〜!今度家に遊びに行ってもいいかな〜?」

「兄弟全員がいない日ならいいよ〜」

「ふふふ。そんな日一生こないって分かってるくせにー」


微笑むイヴァンに別れを告げる。
ああ…もしこのまま何も食べないままか…午後の授業は終わったな…。


「おい名!」

「あ。ギル」

「なにフラッフラ歩いてんだよ」

「はぁ…ギルかー…うん、またあとでねー」

「っておい!スルーかよ!?」


ギルに頼んでも望みはないもんねぇ…。

結局お昼は自販機の飲み物のみと、ちゃんと食べられないままに終わってしまった。
ああ…家に帰ってもご飯までに時間あるよなぁ…間食したら太るし…。



「ただいまー…」

「ん…おかえり、名…」

「あれ、ヘラお兄ちゃん。帰ってたんだ」

「ああ…出先から、直接帰ってきた…んだ」

「お疲れさまー。私しばらく部屋で横になってるからご飯の時間になったら呼んでねー…」

「……分かった」


玄関先で野良猫の大群と戯れているヘラクレスお兄ちゃん。
幸せそうだなー…。私は過剰な空腹で不幸な気分だよー…



「ええい、寝よう!寝れば空腹からも逃れられる!私って頭いいなぁ〜!」

「何一人で叫んでんだよ」

「うげ、ギル…。私寝るから起こさないでね」

「あー…っていうかお前さ、」

「はいはい分かった分かった。おやすみーギルー」


その辺に置いてあるクッションを枕に目を閉じる。
しばらくすると案外簡単に睡魔が襲ってきたので眠りにつくのにそう時間は掛からなかった。












「ん……」

「あ、目が覚めたか?良く寝てたな…」

「アーサー…?あれ…今何時…」

「ん。23時35分だな」

「そっかー…………って、うぇええええええええええ!!!??」

「なっ、なんだよ大声出して!?」

「23時って、晩ご飯は…!?」

「と、とっくに食べ終わったぞ…?」


おいおいおいおい、ちょっと待てぇええええ!!
晩ご飯食べ損ねたって事!?
ちゃんと起こしてっていったのにぃいいいい!!


「ごめん名…何度か起こしたんだけど…起きなかったから。それとなんだか疲れてるように見えた、から…」

「へ、ヘラお兄ちゃん…」


な、何という事だ…!これじゃあ私朝から何も食べてないことになるじゃないか…!
うあああ…最悪だ…


「ど、どうしたんだよ…?」

「うるせーよばかー」

「なっ…馬鹿とはなんだよ!」

「うあー……」

「ほ、本当に大丈夫か…?」

「…うん。大丈夫」

「なら俺はもう寝るけど…ちゃんと布団敷いて寝るんだぞ?風邪引くからな」

「了解でーす…」


静かに襖を閉めて私の部屋から出て行くアーサーを寝転んだ状態のまま眺めた。
というかあいつ寝ている私の部屋で何してたんだろ…本でも読んでたのかな。

さっき寝ちゃったから眠れないじゃないか…。

あーもう、最悪だ…




「おい」

「なにー……」


クッションに顔を埋めたまま顔をあげずに返事をする。
見なくても相手はギルだってこと分かるもんね。



「また何か用ですか」

「用っつーか…なんというか…」

「だから何」


空腹のせいか、はっきり言わないギルに苛立ってしまう。
私のすぐ傍に何かが置かれて、「これ食えよ」とギルの低くて小さい声が頭の上から降ってきた。


「……へ?」


その言葉にピクリと反応し、体を起こす。

私のすぐ横に、お盆にのせられた形が歪で馬鹿でかいおにぎりとお味噌汁が置いてあった。



「なん…で…」

「お前アホだろ。ダイエットっつーのはなぁ!食うもん食って適当に動いてりゃいいんだよ!飯抜くとかマジで馬鹿すぎるぜお前」

「……ギル…知ってたの…私がダイエットしてるって」

「昨日の夜あんなちょっとしか食べねーで、夜走って朝も抜いてりゃ気づくっつーの」

「…でも…他の皆は誰も気づいてないよ…ギルだけじゃん」

「さーな…。たまたまじゃねえ?いいからさっさと食えよ」


ギルに促されるままに、爆弾のようなおにぎりを両手に持って口に入れる。
しょっぱい…というかギル、おにぎりもまともに握れないのか…
お味噌汁もインスタントだし・・・ちゃんとかき混ぜてないから底に味噌がたまってる。

だけどギルが気づいてくれていた事と、こうして私の為に慣れない事をしてくれた事がすごく嬉しくて、おにぎりを食べる手を休めて少し泣いてしまった。


「何泣いてんだよ!?」

「うっさい。馬鹿。プー太郎」

「プー太郎じゃねーっての!」

「ギル…ありがとう…」

「……あー…その、なんだ…べつにお前大して太ってねーんだし…ダイエットなんかしなくてもいいんじゃねえか?」

「でもアルフレッドに前より柔らかい部分が多くなったとか言われた…」

「胸でもでかくなってんじゃねーのか?だったら素晴しい事だぜ!」

「………馬鹿」




結局ギルの握ったお握りは大きすぎて食べ切れなかった。
「残すなよ!」と怒るギルに「あとは記念にとっておこうかなぁ〜。ギルが料理した記念に」と冗談を飛ばすと額にデコピンを食らわされた。

結局ダイエットは一日しかもたなかったなぁ…
けど、ギルがこうやって私のことちゃんと見ててくれてるんだって分かったんだし…今日一日空腹に耐えた甲斐があるってもんだ。


そして、翌日…



「おはようお母さん!」

「おはようございます名さん」

「お腹すいた〜!朝ご飯何?」

「サラダと目玉焼き、あとほうれん草のお浸と…」

「あれ…なんだかいつもより野菜類が多いような…」


食卓に緑色の料理が沢山並んでいる。

あれ………も、もしかして…お母さん…



「名さん」

「は、はい…」

「無理はしてはいけませんよ。朝と夜はちゃんとお米を食べなさいね。あと、ギルベルトさんに炊飯ジャーを空にしたらちゃんと水に漬けておくように言っておいてください」


す、全てお見通しという事ですか…お母さん…

流石この大家族を纏める一家の母親…。



「グッモーニン!お腹すいたんだぞ!」

「名、モーニングティー飲むか?」

「朝はコーヒーやろ〜。名もコーヒーのがええよな?」

「お兄さんは朝ご飯にワッフルが食べたいな〜」

「生憎そんな洒落たものは家にはありませんよ」

「ヴぇ〜…眠いよー」

「俺もだぞちくしょー…」

「昨日遅くまでゲームをしているのが悪いんだ」

「シー君は朝から元気ですよ〜!」

「おらおらテメェら、さっさと席につかねーかい!朝飯くっちまうぜ!」

「朝から煩い…オッサン…」

「んだとテメェ!!」

「こらこら…。さて、全員揃ってますよね?」

「あ、ギルが居ないですよ!」

「ふぁ…ねみぃ…」

「来た来た。おいおいギル〜。ちゃんと起きないと朝ご飯食べ逃すぞ〜?」

「って、なんだよこの緑っぽい食卓は…!」

「何か問題でも?」

「え、いや…なんでもありません」

「ではこれで全員揃いましたね。それでは皆さんご一緒に、いただ……」

「ご、ごめんなさい遅れて…!寝坊しちゃいました…!」

「あ……」

「マシュー…」

「え?どうしたの皆…?」

「あ、いや、なにもあらへんよ…」

「そ、そうだよな。気にすんなマシュー」

「え、あ、うん…」

「そ、それでは気を取り直して……。それでは皆さんご一緒に!」



「「「「「いただきまーす!!!」」」」」





2010.5.29





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