「あの…イヴァンさん…」
「なぁに?」
「うん、料理を作ってくれるのは凄く嬉しいんだけどね」
「うん」
「でも毎日ボルシチっていうのはちょっと…」
「やだなぁ名」
おとといはピロシキだったじゃないと笑って紅茶を口に含むイヴァン。 小さく溜息をつけば「幸せ逃げちゃうよ?」とクスクスと笑われる。 こうして私の一日が始まる。
私とイヴァンが一緒に暮らし始めて早半世紀。 イヴァン…つまりロシアに併合された小さな隣国である私は毎日こうして彼と生活を共にしています。
「名」
「んー?なーにー」
「そっちに、行ってもいいかなぁ…」
「いいよー」
「うん、ありがとう」
特にすることもないのでソファーに座って雑誌を読んでいると、イヴァンが遠慮がちに私の隣に座る。 半世紀も一緒に暮らしていると言うのに彼は相変わらず私との生活になれないのか、こうやってそわそわとこちらの様子を伺いにやってくる。 さながらその様子は小さな子供のようで、彼に抱いている感情の他にも母性本能などという感情も湧いてくる。
「イヴァンは可愛いね」
「え…可愛くないよ…。っていうかそれ男に使う言葉じゃないよね?」
「でも可愛いもん。ふわふわころころしてて」
「ころころって何…?僕は太ってるんじゃなくて骨太なだけだよ?」
「そうだったねー」
「もう…名はいつもそうやってあしらう…」
「ふふふふ」
「気に入らないなぁー…そういうとこ」
「私はイヴァンをからかうの楽しいです」
むっと眉間に皺を寄せたイヴァンが距離を縮めて、視線は雑誌に向けたままの私の肩に頭を乗せた。
「重いよー」
「重くないよ」
「イヴァン、甘えたいの?」
「……うん、って頷けば雑誌読むのやめてくれるの?」
拗ねたように見上げるラベンダー色の瞳。 イヴァンにそんな風に見上げられて拒める人は居ないんじゃないかな…
雑誌を閉じ、伸ばされた手に指を絡めれば、なんだか幸せな気持ちで胸が一杯になった。
「ねえイヴァン」
「なぁに?」
「夕飯は私に作らせてね」
「どうして…?」
「ピロシキやボルシチばっかじゃ飽きちゃうから。イヴァンの好きなもの作ってあげる」
![](//static.nanos.jp/upload/m/maplemilk/mtr/0/0/20100426183757.jpeg)
「それじゃあ夕飯もピロシキかボルシチだよね」
「いや、それは…」
「ふふふ。名に拒否権はないよ?」
2010.04.26
Я всегда ваш друг:suu
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