ロヴィーノは相変わらず意地悪だ。
なんだかよく分からないけど、私のことが好き…らしい。
今までずっと嫌われてたと思っていた相手にいきなりそんな事言われて、正直私も混乱してるんだけどね。
だけど彼に連れて行ってもらったスペインのトマト祭りはとっても楽しかった。
ロヴィーノの知り合いの、アントーニョさんという人もとっても良い人で野菜の作り方なんかを話しはじめると止まらないぐらい会話も弾んでしまった。
その間、ロヴィーノはずっと不機嫌だった気がするけど。
また、一緒に行きたいな。トマト祭り。


「今日もまた土いじりかよ」

「うん」

「一日ぐらい休もうって気はねーのかよ」

「ないよ。ちゃんと水あげないと枯れちゃうしね」

「お前なんかが世話しなくても案外逞しく育つもんだぜ、野菜って」

「それじゃあ私の仕事がなくなっちゃうじゃん」

「その空いた時間で少しは女らしくなる勉強でもしろよちくしょー」


やっぱりロヴィーノは意地悪だ。
だけど前みたいに言葉に棘々しさを感じなくなったようにも思う。


「これ、やるよ」

「何?」

「帽子。畑仕事してる時にでも使えよ…」

「だけどこんな高そうなの…もったいないよ」

「い、いいから被れ!!」

「…うん」


なんだかなぁ。
ロヴィーノの考えている事がよく分からないんだよね。
優しくしてくれたかと思うと突き放すような事を言うし。少しでも期待していしまう私がバカなのか…



「つっ…」

「つ?」

「つっ、次の日曜!!時間空けろよくしょー!!」


声を裏返しながらトマトのように真っ赤な顔をしたロヴィーノはまた渡しに高級そうな紙袋を押し付けた。


「これは?」

「それ着て、食事行くぞ。日曜に迎えに来るから」

「でも私日曜も畑仕事が」

「ちょっとぐらい休めるだろ」


真っ赤な顔からむすっとした表情に変わったロヴィーノ。
さっきの事といい、ロヴィーノはよく私にプレゼントをくれるんだけど、正直私はあまり嬉しくない。
可愛い服や綺麗なアクセサリーを身につけるのは楽しい。私も一応女の子だし…一応。
だけどなんとなく、ロヴィーノは私を物で釣ろうとしているじゃないかって思う時がある。
あの時だって今だって、プレゼントを渡してお出かけのお誘い。
こんなもの貰ってしまったら誘いを断ることもできないじゃないか。


「ごめん。うけとれない」

「なっ、なんでだよ…」

「私にはもったいないよ。それに日曜は街に野菜を売りに行かないといけないの。ごめんね?」

「…んだよ…。俺のは受け取れないって言うのかよ…」

「そんなんじゃなくて…。うん」

「もういい。誰がお前なんかにプレゼントしてやるもんかよ。街で可愛い女の子みつけてプレゼントしてる方がよっぽど楽しいぜ」


お尻についた砂埃を大雑把に掃ったロヴィーノは紙袋を乱暴に掴んで早足で帰って行ってしまった。
悪いことしちゃったかなぁ。
いや、別に私は悪くないよね?多分…

胸の中にモヤモヤを抱えたまま数日がたち、もう3日もロヴィーノは私の前に姿を現さなくなった。
最近では毎日のように畑にやってきては日陰で私が土いじりをしているのを眺めていたのになぁ。
いつもロヴィーノが座っている樽の上がぽかんと空いていて、なんだか少し切なくなった。


そして日曜の朝。車に野菜を沢山乗せて街までやってきた。
こんな野菜でも楽しみに待ってくれている人達が沢山居るのは本当に幸せな事だと思う。
新しいお客さんも増えたし、これからはもっといい野菜を作ろうと決心した。

ふと街に並ぶウインドウの洋服に目が入った。
可愛い服だなぁ。臨時収入も入ったしここで買い物をするのも悪くないかもしれない。
買った服を着てロヴィーノに見てもらうのもいいかも。
きっとビックリした顔でまた憎まれ口を叩かれるんだろうけど。

自然と緩む頬を抑え付けて道の端に車を停める。
ふと、バックミラーの隅っこに見覚えのある姿が横切った気がした。
振り返り、車の後ろの窓から見えるロヴィーノと綺麗な女の人の姿を確認した。

デート…かな。

ロヴィーノの腕に綺麗な女の人の白い腕が絡められていて。とってもお似合いな二人だと思った。


「…帰ろう」


車のキーを回し古びたエンジンが動き始める。
ミラー越しにロヴィーノと目が合った気がしたけど、気にする事もなく車を走らせた。

なんなんだろう、この感じ。嫉妬?
嫉妬…なのかな。

この気持ちがなんなのか分からないけど、じわじわと溢れてくる涙からしてこの感情は嫉妬と悲しみなんだと私は思った。
そうか。私はロヴィーノの事、好きだったんだね。
だからこんなに辛いんだ。
気がついたところで、私の力じゃどうする事もできないけど。


その日の夜遅くやってきたロヴィーノは寝支度をしていてパジャマ姿の私の家にずかずかと上がりこんできた。
今度はあの時のような両手一杯の紙袋も見当たらない。


「おい」

「はい」

「なんだよお前」

「はぁ…」

「なんだって聞いてんだよ!!」

「なにがって言われても…。まず主語を言ってよ。なんの話かさっぱり分からない」


前にも同じようなやり取りをした事があったなぁ…。


「今日街に居たろ」

「うん」

「車に乗ってた」

「そうだよ」

「俺は、女と一緒に居て…」

「…居たね」

「何も思わねーのかよ!?俺が他の女と一緒に居て!」


何も思わないわけがない。
私はこんなにも悲しくて、切なくて。
泣いて腫れた私の目を見たロヴィーノはハッとした顔で私に近づいてきた。


「また、泣いたのか?」

「ちょっと…」

「だ、誰に泣かされたんだよ!」

「…ロヴィーノ」

「は?」

「ロヴィーノに、泣かされた」


顔を合わせていられなくて、床の木目をじっと見つめた。


「俺にって、どういう意味だよ」

「街でロヴィーノを見かけて、綺麗な女の人と一緒で、見てたら涙出てきた」

「え…?」


すっとんきょな声。
そんな声でさえ愛しく感じてしまうのだから恋というやつは厄介なのだ。
床の木目を一本二本と順番に数えて行き、五本目に視線を送ったところで、体をぎゅっと抱きしめられた。
視線の先にロヴィーノの足が見えて。
耳元で煩いほど鳴っているドクンドクンという音は、私の心臓なのか、それともロヴィーノの心臓なのか。


「お、お前が…俺のプレゼント受け取らなかったから…」

「ごめん」

「だから、自棄になって色んな女ナンパした」

「…そっか」

「だけどどの女もダメだった。いくら綺麗に着飾っててもちっとも綺麗だと思えねえ。何してても、どこいても、お前の事ばっか考えてた」

「…うん」

「好きだ。好きなんだよ、ちくしょう」


肩に顔を埋めて頬を寄せるロヴィーノの髪の毛が首元に当たってとってもくすぐったかった。

あのね、私もね。
ちゃんと気付いたから。



「ねぇロヴィーノ」

「な、なんだよちくしょー…」

「明日、私とデートしてくれない?」

「お前と…?どっどこ行くんだよ…」

「どこにも行かないよ。一緒に畑でトマト狩りしよう?畑デート」


あぁ、きっと今の私はロヴィーノのようなトマトみたいに真っ赤な顔をしているんだろうなぁ。
そっとロヴィーノの背中に手を回してぎゅっと抱きつくように体を預けると「ちくしょー」と強く抱きしめ返された。



「綺麗な洋服も要らない。ロヴィーノがいつものように私の傍で憎まれ口をたたいてくれてればそれでいいの」

「なんだよそれ…」


いつかきっと、ロヴィーノが素直に美味しいって言ってくれるようなトマトを作れるようになれるといいな。
きっとロヴィーノの事だから美味しいと思っててもまた反対の事を言って私に馬鹿だのなんだのって酷い言葉を投げつけるのだろうけど。
そっと、ロヴィーノの大きなてに両頬を覆われたかと思うと額に小さくキスを落とされた。
キスの場所が唇でないところからして、純粋なロヴィーノらしいなぁなんてクスクス笑うとその真っ赤な顔で「笑うな!」と頬を抓られた。



プラトニックラブ








2009.9.3
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