「なんだか名って甘いにおいするよね」


「そうかな?線香とか畳の匂いって言われたことあるけど。甘い匂いは初めてだなぁ」


「するよ、甘い匂い。僕好きだなぁーこの匂い」


「あ。もしかしたらさっきココア飲んだからかも」


「ココア?」




 うん、と頷く名の息が白くなって夜の黒に溶けていく。

 寒い寒い僕の家の気候のせいで赤くなった名の頬と鼻先が妙に愛しい。



「うん。寒かったから自販機で買ったんだよ」


「寒い時はウォッカの方がいいよ?」


「まぁ確かにそっちの方が暖まるんだけどね」




ハハハと笑った名から、また甘い匂いがした




「ココア好きなの?」


「好きだよ。冬の寒い日におやつと一緒に食べるのが好きかな」


「ふふふ。太っちゃうよ?」


「…イヴァンはたまーにサラリと酷い事言うよねー…」


「そう?でももう少し太ってもいいかなー。柔らかくていいじゃない。温かいしね」


「肉布団かちくしょう!」




自分のお腹辺りをプニプニしている名がおかしくて、じっと見ているとどこからか軽やかな音楽が聞こえてきた。
頻繁に電話のかかってくる相手に指定された着信音。僕の嫌いなメロディー。



「あ。私の携帯。もしもし?え、うん。分かった、はいはい了解。じゃあね」


「本田君?」


「うん。大事な用が入ったから帰ってこいだって。どうせおえらい人との会談とかだと思うけどけど。ったくお兄ちゃんはいつも急なんだからなぁ…」


「そっか…残念だな」


「ごめんねイヴァン。またで直して遊びにくるから!お土産にひまわりクッキー作ってくるよ!」


「それはいらない」


「何故!?」




慌しく帰る準備をしている名を空港まで送った
ほんとはもっとずっと一緒にいたいのに。ずっとずっと君に触れていたいのに。




「じゃあね、イヴァン。またくるから」


「うん。来てくれなきゃコルコルしちゃうからね」


「そ、それは…」


「ふふふ!じゃあまたね」



頬にキスをして別れた


最後まで手を振っている名を見届けるとなんだかさっきまで感じなかった寒さが込み上げて来るようで体を少し揺らした。



「……ココア」



目に留まった自動販売機。
ポケットに入っていたコインを入れて、ボタンを押す


その暑い缶を開けると湯気が立っていて、飲んでみると甘すぎるとも言えるような味が広る。


そして、彼女の匂いがした



「温かい」





cocoa


恥ずかしながらAPHにはまりたての頃に書いた作品です。少し加筆しました。
ココアの飲みたくなるお話。


2008.12.9
2010.10.16(加筆)






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