「なぁなぁ名、俺んとこ泊まりたいってなんかあったんか?」

「べつに何もないよスペイン兄さん」


私は今スペイン兄さんの家に来ている。
夕方頃連絡もなしに急に訪ねて来た私をいつもの笑顔で迎え入れてくれたスペイン兄さん。
「今日泊まって行くんやろ?なら晩御飯は名の好きなパエリヤにしよかぁ〜」と嬉しそうに私の頭を撫でてくれた。



「ん!今日のパエージャは一段と美味いなぁ!名も手伝ってくれたから一味違うわ!」

「作ったのはほとんどスペイン兄さんじゃないか。私は火の番と後片付けをしただけ」

「それでも名が一緒におってくれるだけで違うねんで?んー!美味い!」


スペイン兄さんの笑顔を見ていると、自分が抱えている小さな悩みなんてどうでもよくなるな…。
以前ロマーノが「あいつと一緒にいるの疲れるけど何も考えなくていいから楽だ」とか言ってたけど、彼も私と同じ気持ちだったのだろうか。

夕食を終え二人でお喋りをしながら後片付けを済ませ、のんびりリビングでお喋りをして夜の時間を過ごした。


「お、もうこんな時間か。ええ子はもう寝る時間やで」

「子供扱いするな。もう私は大人だよ…」

「いーや、名はまだまだ子供や!せやないと親分が寂しいやろ!ただでさえロマーノはあんなに生意気に育ってまうし…まあそれもあいつのかわええとこなんやけどなぁ」

「そうなの?ロマーノは私の前だとあんまり沢山喋ってくれないからなぁ…」

「そういやあいつ名の前ではいっつも大人しいなぁ。なんや、照れてるんとちゃう?あいつほんまに好きな子には素直になれへんタイプやねん」

「まさか」


スペイン兄さんの冗談にふにゃりと笑えば大きな手で頭を撫でられる。
その手は私の実の兄達の手とは少し違っていて、だけど大きくて温かくて心地いい。

パジャマに着替え、何故か寝る時は裸のスペイン兄さんが待つベッドに潜り込む。
別々のベッドでいいと言ったのにスペイン兄さんがどうしても、と推してくるので今夜は一緒に寝る事になった。


「明日の朝は一緒にトマト採りに行こか。名トマト好きやろ?」

「うん、だいすき。スペイン兄さんの作ったトマトはどのトマトより美味しいから」

「名はええ子やね〜」


背中に手が回され、まるで赤ん坊をあやすようにポンポンと背中を叩かれた。



「名」

「なに?」

「ここに来たかったらいつでも来てもええねんで?俺にとっても名は妹みたいなもんなんやさかいな…」

「スペイン兄さん…」


この人には敵わない。
私が何も言わなくてもちゃんと分かっているんだ。

ルート兄さんとギル兄さんが家を数日留守にしていて、一人が急に怖くなったからこの家を訪ねた事も。

太陽のように暖かく大きな手が背中を撫でて、音をたてるように額にキスが落ちる。



「おやすみ、名。ええ夢見てな」




温かな手




(名っ!!)
(ルート兄さん、ギル兄さん…!)
(なんや、もう迎えに来てもたんかいな〜)
(名に何もしてねーだろうな!!)
(何もしてへんよ〜!一緒にトマト採ったり一緒にシエスタしたり…あと夜も一緒のベッドで寝ただけやで!)
(スペインてめぇえええええ!!!)




2010.8.24





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