ロヴィーノは意地悪だ。何故かって、いつも私の家にやってきては私をからかって楽しんでいるから。
やいブス、また畑仕事なんてやってんのかよ。お前の手ぇぼろぼろじゃねーか。こんな貧乏臭い女誰も寄ってこねーだろよ。こっち見んなよブス。

見られなくなかったら来なければいいのに。
貧乏なのは事実だから否定できないけど。
畑仕事をしていないと食べて行けないんだからしょうがないじゃない。それに日焼けでぼろぼろになった手も髪も肌も私はどうだっていいの。
毎日平和で暮らせればそれでいい。



「おいブス」

「…また来たの、ロヴィーノ」

「気安く呼んでんじゃねーよ。相変わらずそんな格好で畑仕事かよ。ほんとに女らしさの欠片もかんじねー奴だな」

「ほうっておいてよ。私は今のままで幸せなんだから」

「何が幸せだよ。こんな田舎町の広い畑で一人で野菜作って朝から晩まで土いじり。これのどこが幸せだって?」

「いいの。私の野菜を美味しいって言ってくれる人も居るんだから」

「どこがだよ。こんな野菜」

「ねぇ、冷やかしなら帰ってくれる?」


どこかのブランドの高そうなブーツで土を蹴ったロヴィーノはフンと鼻で笑って私の足元においてある籠から真っ赤なトマトを取り出した。


「見た目も歪だし、アントーニョの作った方が美味そうだな」

「だったらそのアントーニョさんのとこに行けばいいじゃない」

「そういやもうすぐトマト祭だったよな。お前行った事あんのか?」

「ないよ。私この国から出た事ないもん」

「そうかよ」


こうやって数日置きにふらりとやってきてはいくつかくだらない会話を交わしてロヴィーノはまたどこかへ帰っていく。
本当に何がしたいのか、ただからかいに来ているだけなのか、分からない。



「ヴぇ〜。君可愛いね!名前教えて?」


数日後、いつものように畑にやって来たのはロヴィーノと同じ顔、同じくるんとした髪の生えた青年だった。
だけどロヴィーノのような刺々しい雰囲気もなく、おっとりとしたかわいい男の子。
名前はフェリシアーノというらしく、ロヴィーノの弟さんらしい。


「へぇー。ここで一人で農業やってるんだね!寂しくない?」

「寂しい?」

「だってずっと一人なんでしょ?この辺あんまり人も住んでないし…」

「そうだね。でも寂しくはないかなぁ」

「なんで?」

「だって私今の生活が好きだし。寂しいなんて、思ったことないよ」

「そっかぁ。ねぇ、このトマトひとつもらってもいい?」

「うん、いいよ。形が悪くて食べる気がしないってロヴィーノには言われたんだけどね」

「え…。兄ちゃん、そんな酷い事言ったの?」

「いつもの事だよ」


信じられないといった表情で目をぱちぱちと閉じた。
きっとロヴィーノは他所では女の子に優しくしてるんだろうなぁ。


「他にはなんて言われるの?」

「んー、あんまり覚えてないけど…ブスとか貧乏くさいし手もぼろぼろだから男も寄り付かないーとか?」

「ふぅん。兄ちゃんそんな事言うんだ」

「うん。そのトマト、味どう?」

「すっごく美味しいよ!!これって売り物だよね。俺にも少しわけてくれない?」

「好きなだけ持って行っていいよ」

「ヴぇ。いいのー?」

「うん。私の作った野菜を美味しいって言ってくれる人に悪い人は居ないもん。特別ね」

「うわーい!!ありがとー!!」


嬉しそうに笑ったフェリシアーノ君は「それじゃあ俺お手伝いするねー!」と言って畑の中を走り回っては転んでいた。
可愛い人だなぁ。ロヴィーノとは大違い。
このトマトをフェリシアーノ君が持って帰ったら、ロヴィーノも食べてくれるのかなぁ…。
不味いんだよって文句を言いに来るかもしれない。
不味いんだよこのやろー、俺に変なもん食わせんなこのブスって。


想像していた通り翌日の朝早くからやってきたロヴィーノはまだ朝食もとっていないパジャマ姿の私の家にずかずかと上がりこんできた。



「おい」

「はい」

「なんだよお前」

「はぁ…」

「なんだって聞いてんだよ!!」

「なにがって言われても…。まず主語を言ってよ。なんの話かさっぱり分からない」

「なんで俺の弟と会ってんだよ!!」


弟、というとフェリシアーノ君の事か。
なんで会ってると聞かれても困る。だって彼はあたかもたまたま通りかかったように畑にふらりと現れたのだから、理由なんて私には分かりっこない


「たまたま通りがかっただけじゃないのかな。フェリシアーノ君も「気安く俺の弟の名前呼んでんじゃねーよ!!」……ごめん」


あぁ、もうなんだか泣きそうだ。
なんだってロヴィーノは私に突っかかるんだろう。
嫌いなら、ほうっておいてくれればいいのに。
どうしてわざわざこんな所まで来るの。
暇つぶしなら、他所でやってよ。


「な、何泣いてんだよ!?」


あぁ、絶対泣かないって決めてたのに。
よりにもよってロヴィーノに見られてしまった。



「だっ、ロヴィーノ…が…なんで私ばっかっ…」

「え、おい、泣くなよ…!!いいから泣き止めちくしょー!!」

「む、りだよぉ…。もう、嫌だ。なんでこんな、私は今のままで幸せなのにっ、なんでロヴィーノは、邪魔っするの…?」

「じゃ、邪魔…?」

「私がっ、嫌いなら来なくてもいいでしょ…?私だって、私だってこう何度もからかわれたら、傷つくよ…」

「お、おい、何言ってんだよお前…。俺はそんなつもりは、」

「ロヴィーノは、いったい、何がしたいの」



どさり、ロヴィーノの手に持たれていた沢山の荷物が床に落ちた。


「お、俺はただ…。ただお前と話が…」

「話?ブスって、貧乏臭いって、そんな事話されなくても分かってるよ。どうせ私はロヴィーノが好きそうな可愛い女の子なんかじゃないし」

「あれはそんなんじゃ…」

「じゃあ、何」

「た、ただお前と話がしたいだけなんだよ!!けど何話したらいいかわかんねーし…。お、俺だってフェリシアーノみたいに気の利いた事言えればいいのに、いざとなったら何も言葉が浮かんでこないし、なんで他の女の時はスラスラ褒め言葉の一つや二つ口にできるのにお前が相手だと言葉につまって…」



意味が、分からない。
結局ロヴィーノは私と話がしたかっただけって事?
なのに冷やかすような言葉ばかりで、私だと何も言えないってわけわからない。


「だからその、別に本当はブスとかじゃねーんだ、それは俺が、えっと…。だからお前は別に悪くないんだ、よ。ああもう、何言えばいいのかわかんねーぞちくしょー!!」

「ちくしょーって、こっちがちくしょーだよ…。私なんてわけもわからずひょっこり現れた男にブスだの貧乏臭いだの、野菜の文句まで言われて、否定されて最悪じゃない」

「わ、悪かったって思ってる。だから、これ…」


足元でくしゃりと形をくずしたなんとも高そうな袋を俯いている私に差し出したロヴィーノ。
顔を上げてロヴィーノと顔を見合わせると、彼はトマトのような真っ赤な顔をして「やるよ!!」と叫んだ。
あ、今声裏返た。

重みのある紙袋から中身を取り出すと、今時の女の子が好むようなひらひらのワンピースやミュール、とにかく沢山の服や肌のケア道具などが詰め込まれていた。



「み、店に行って頼んだやつだからよくわかんねーけど…。それ着て、一緒にトマト祭り行こうぜ。きっと楽しい、から」

「ばか…。あんなお祭りにこんな高そうな服着ていったら勿体無いじゃない」

「だったらまた買ってやる!!」

「そ、んなの…。バカ…」



プラトニックラブ
(本当は最初からお前の事好きだったんだぞちくしょー!)
(そんなの言ってくれなきゃ気付かないよ…!)




2009.8.7
2009.9.4 日記より移動






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