こんにちは、名です。
相も変わらず今日も今日とて大家族アドナン家の長女にして紅一点として騒がしい毎日を送っております。



「名さん、アーサーさんはまだ帰っておられませんか?」

「え…?今日は一緒に帰って来たはずなんだけど…」

「おかしいですねぇ…。醤油をきらしてしまったのでおつかいに行ってきていただこうと思ったのですがどこにも姿が見当たらなくて…」

「じゃあ私が行ってくるよ。いつものお醤油でいいんだよね?」

「ええ…ではお願いします。もう夕方ですし寄り道せずに帰って来るんですよ!」

「了解であります!いってきまーす!」



お母さんからお財布を預かって家を出る。
今日の晩御飯は肉じゃがって言ってたもんね。楽しみだなぁ!

陽気な気分で歩いていると、視界の端で見慣れた姿を見つけてしまった。
この辺で金髪の学生服を着た人なんて、うちのアーサーかルートかアルフレッドかマシューしかいない。
ルッツもアルもマシューも家にいたし、消去法で考えられるのは残りのアーサーのみ。
こんな場所で何してるんだろう…。

しばらく立ち止り目でアーサーの姿を追っていると、突然現れた知らない男の子達と裏路地の方に入って行ってしまった。



「まさか…」


いや、まさかとは思うけどね。
まさかとは思うけど、この状況は以前にも……。
そう、中学時代アーサーが荒れに荒れていた時代に何度も見た事のある光景だ。

すなわち喧嘩。
今ではすっかり更生したアーサーにはもう関係のない事のはずなのに、いったいどうして…。

居てもたってもいられず、急いでアーサーが消えた路地へと入った




「って、アーサー!!!」

「なっ……!?」


案の定、数名の他校の制服を着た男に囲まれたアーサーの姿に思わず大きなため息が出る。
この子はこんな所で何やってんのよもう…!!



「馬鹿、こっち来んな!!さっさと帰れ!!」

「帰れるわけないでしょうが!!更生したんじゃなかったの!?こんなとこで喧嘩して、帰ったらお母さんに報告するからね!!」

「ばっ…いいからお前は家に帰ってろ!!」


突然現れた私の姿に驚きが隠せないアーサーは必死に私を追い返そうと肩を掴んでぐいぐいと力を入れる。
引き下がるわけにもいかず、必死に抵抗していると突然うしろから強く髪を引っ張られた



「いったぁ…!」

「邪魔してんじゃねーよ。っていうかお前誰?」

「私はアーサーの姉ちゃんですけど?」

「は?姉貴?」

「そう、姉貴。あんたらこそ何なの、うちのアーサーに何か用があるなら私に言ってみてくださいよ」

「へーえ?こいつがアーサー君が大事に大事にしてる姉貴ってやっ――!!!!」


低く鈍い音が聞こえたかと思うと、目の前で私を睨んでいた男が地面に倒れ込んでいる姿が見えた



「お前なんかが名に触っていいのかと思ってんのかよ…?そんなに殺されたいのか、お前ら」



ぞわり。
背筋が凍る間隔と共にまた鈍い音が辺りに響く。

右腕で殴りかかろう迫って来るやつらを次から次へと殴り飛ばして…
って、アーサー……あんたそんなに強かったんだ……



「名っ!!大丈夫か!?」

「全然へいき。っていうかアーサーの方が怖かったよ。なにあの鬼みたいな強さ」

「ほ、褒めても何も出ないぞ…」

「褒めてねーよ」



流石中学時代、周辺の不良を総なめにしていたらしい元ヤン。
腕は全く落ちていなかったらしい。

辺りにゴロゴロと倒れた彼らを少し哀れに思いつつ、アーサーがどこにも怪我をしていないかとまじまじと体を見つめた。


「そ、そんなに見るなよ馬鹿…。どこも怪我してねーよ」

「それならいいんだけど…。いつもこうやって喧嘩してるの?」

「してるわけないだろ。今日はたまたまだ」

「たまたまって事は何度かあったって事?」

「……」

「はぁ…まったくもう…。今回は大目に見て皆に内緒にしておいてあげるけどさぁ…」

「悪い」

「いいよ。でも怪我でもして帰ってきてみなさい、フルボッコにしてやるから」

「…分かったよ」


むすっとそっぽを向く様は荒れていた中学時代に良く見せていた顔そのもので、やっぱりアーサーはアーサーなんだなぁとしみじみ思った。


「それよりよくお前こんな場に飛び込んできたよな…怖くなかったのか?」

「まあアーサーがいるの分かってたしね」

「そ、それって俺を頼りにしてるってことだよな…?」

「うん。それにいざとなったらお父さんに教えてもらった護身術とトニー兄ちゃんに教えてもらった回し飛び蹴りとフラン兄ちゃんに教えてもらった急所をつく技とルートに教えてもらったジャーマンエクスプレスホールドとがあるから大丈夫だよ。それ使ってギルの事ノックダウンさせた事あるし」

「(そういえば俺…小さい頃からこいつと喧嘩して勝った例がない…)」


服についた砂を払い落とし、伸びきった男達の目が覚める前にその場をあとにした。
また喧嘩売ってこないといいんだけどなぁ…しばらくはアーサーと一緒に行動する事にしよう。
もしもっと大人数なんかでこられたら流石のアーサーも勝てないかもしれないもんね…

変態で元ヤンで喧嘩っ早くて捻くれ者だけど、これでも私の大事な双子の姉弟なんだから。



「ただいまーお母さん!」

「ただいま」

「お帰りなさいお二人とも。アーサーさんもご一緒だったのですね」

「ま、まあな…」

「名さん、お醤油は買ってきてくれましたか?」

「あ………」

「まったくこの子はもう…。しかしそんなドジっ子な所も萌エェエエエエエエ!!!」

「お母さん、フラッシュ。フラッシュが眩しい」

「はぁはぁこれは新しいアルバムに……。さて、醤油が無いなら夕飯のおかずは変更ですよ!名さんも手伝ってくださいね」

「はーい」

「お、俺も手伝おうか…?」

「頼むからテメェは部屋で大人しくしてろ」

「…は、はは…別に泣いてなんか………………グズッ」




2010.8.3





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