恋をしている。


相手の名前は名。
あいつが落としたハンカチを俺が拾って渡す…なんて、まるで三流小説のような出会いだった。

正直言って第一印象は「どこにでも居そうな女」
特別スタイルがいいわけでも顔が整っているわけでもない初対面の人間に興味を持つ道理はなかった。

数日後、偶然再会しお互い住んでいるアパートが近所だという事を知った。
彼女の誘いで夕食を共にする事になり、話をしてみると思いの外話の弾む相手だという事が分かった。

コロコロと変わる表情。
屈託の無い笑顔で笑う名に惹かれはじめたのは、この時だったのかもしれない。



気がつくと俺は、名に恋をしていた







恋をしています。


相手の名前はアーサー。
私が落としたハンカチをアーサーが拾って渡してくれる…なんて、昔のマンガに出てくるような古臭い出会いだった。

正直言って第一印象は「ちょっ、こいつ眉毛ふっと!!」
顔は整っているのに眉毛は太い。これじゃあ綺麗な顔が台無しだなぁと思ったり。
だけどその時は大して気にも留めていなかった事だった。

数日後に偶然再会して、お互い住んでいるアパートが近所だという事を知った。
ちょうど夕飯時だった事から、彼に「一緒に夕食を食べに行きませんか?」と誘った。
本当は一人で食べるのが寂しかった事と、ハンカチを拾ってくれたお礼のつもりだったんだ。
口数が少ない人だと思っていたのに、話を始めるとあらゆる答えを返してくれて、おかしな話には眉根を下げて笑ってくれて

見た目とは裏腹に、無邪気に笑うアーサーに惹かれはじめたのはこの時だったのかもしれない。



気がつくと私は、アーサーに恋をしていた







名を映画に誘った。
少し前に公開したばかりの恋愛…。名が「見てみたいけど、恋愛映画だから一人で入る勇気もなくってね…」と恥ずかしそうに話してたんだよな…。

二人で映画を見に行く。
映画が終わった後の食事場所ももうチェック済みだ。予約もちゃんと入れてるんだからな!

そう、これはデートなんだ…。


今日俺は、名に告白する。


好きだから。
ずっとあいつの傍に居たいんだ






映画を見にきた。
以前食事をしたときに「見たいなぁ」なんて呟いていたことを覚えていたらしく、頬を赤く染めたアーサーが「チケット譲ってもらったんだけど、いっ!一緒にどうだよ…!」と私を誘ってくれた。

まさかアーサーと一緒に映画に行けることになるなんて思わなかったから、すごく緊張して昨日の夜はなかなか寝付けなかった。
今朝も早く目が覚めて、だけど服を選んでいたらあっという間に時間は過ぎて行って。

今思えばいつもと同じような服でも良かったのかもしれないなぁ…
なんとなく、映画に誘ってもらえるなんてデートみたいで嬉しくてはしゃいでしまった。

玄関の前まで迎えに来てくれたアーサーが、扉を開いて私を見るなり目を見開いて石のように固まった。
目の前で掌をひらひら振ると、プイと顔をそらして「行くぞ!!」と先に歩いて行ってしまった。


急いで小走りで追いつくと「しまった」とでも言うような、ハッとした表情をしたアーサーが私に歩調を合わせて「わ、悪い…」と俯いた。

なんとなく落ち込んでいるようなその横顔に、胸が張り裂けるように苦しくなる。

映画楽しみだね。そう呟くと、へらりと優しく笑って「そうだな」と笑顔を作る。



ああ。やっぱり私、アーサーの事好きだな。
ずっとこうして、彼の隣に居たい。






予想以上だった。
普段見ている普段着や仕事着姿じゃなく、いつもと違う名の姿に思わず「可愛い」と叫びそうになるのを必死に堪えた。

恥ずかしさのあまり、早足で歩いてしまった為に名を走らせる事になってしまったが…
正直、俺を追いかけてくる姿も可愛かった。
俺は今すぐ抱き締めたい衝動を理性と言う名の細い糸で堪えた。


楽しみにだね。そう嬉しそうに笑う笑顔に胸が締め付けられるように高鳴った。



好きだ。好きだ。好きなんだ。
もう、これ以上ないほどに






映画が始まり、直ぐ隣にアーサーが座っている事に緊張していたけれどしばらくすると映画の内容に集中し始めた。

映画も中盤に差し掛かり、ふとアーサーの方を向くと頭がコクリコクリと揺れていた。
ガクン、と体が倒れてアーサーの頭が私の肩に乗る。
バクバクと煩い心臓を何とか抑えようと必死な私に対して、アーサーは幸せそうな顔をして寝息を立てていた。

そう言えば、アーサーは最近仕事が忙しいと言っていた気がする。
このまま起こすのもなんだか可哀想だったので、映画が終わった後そっと肩を揺らしてあげると、バッと私から離れて「その、べ、べつに寝てたわけじゃ…」と顔を青や赤に変えた。






やっちまった……いくら昨夜は緊張で眠れなかったとは言え映画館で寝てしまうなんて…
しかも名の肩に頭を乗せて、だ。
た、確かに寝心地は良くてこれまでにないぐらい幸せな眠り…って、そうじゃねーだろ馬鹿か俺は!!!

しばらく落ち込んでふらふらとした足取りで歩いていると、「次は何処行こうか?」と名がいつもと同じ表情で、まるで俺の失態を気にしていないかのような笑顔を向けた。
頭の中で何度も自分を責めていた気持ちが晴れていく感覚がした。

こいつのさりげない優しさだとか、心遣いだとか…そう言ったところが好きでたまらないんだ。
会う度に、会話を交わす度に名が好きになっていく気がする。

俺はもう名なしには生きられないのかもしれない。
だとすれば、もし今日フラれてしまった後俺はどうなってしまうのだろう。

緊張と不安が俺の胸の中で渦巻いた。






アーサーが夕食に連れてきてくれたお店はとても夜景が綺麗なレストランだった。
二人でワインを飲んで、いつものように会話を楽しんで

それだけで幸せ。涙が出るほど幸せだった。
会う度にもっと一緒に居たいと思う。
叶うものなら、ずっとアーサーの隣を歩きたい。

ちゃんと伝えなくちゃいけない。
この気持ちをアーサーに伝えたい。

窓の外に向けていた顔をアーサーの方に向けると、彼のエメナルドの様な瞳と視線が交わった。






今伝えないと、一生言えない気がした。
どこか切なそうに窓の外を見ている名の横顔を見ると胸が苦しくなった。

ふと、名と視線が交わる。

激しく高鳴る心臓の音。
震える手。
この場を逃げ出したくなるような恐怖と不安に駆り立たされる。

震える唇をゆっくりと開く



「名…」







アーサーに名前を呼ばれ、心臓が飛び出るかと思うほど体がビクりと反応した。

怯えちゃいけない。
告げるんだ、アーサーへの気持ちを。



「アーサー」







「俺はお前が、ずっと…ずっと…」






「私ね、アーサーの事が」







「「好きです」」




恋する二人の告白劇




2010.6.19





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