「あっ名前ちゃん!」 「あ、こんばんはトニーさん」 「こっこないだはゴメンな!なんや俺名前ちゃんの嫌な事してもたみたいで…。ほ、ほんまにごめんな」 頭をガシガシと掻きむしったトニーさんは申し訳なさそうに軽く頭を下げた 「いえ、私こそごめんなさい…。寝言相手にムキになって子供じみてたよね」 「え?ね、寝言で俺何言ったん?」 「私の足掴んで”こんな大きい大根採れたで〜”って」 「ひょぉおお!!俺そないな…!!」 「ちょっ、そんな泣きそうな顔しないで!!ここスーパーですよ!!私が泣かせたみたいじゃん…!!もう怒ってませんからぁああ!!」 「ほんまに!?ほんまにもう怒ってない!?」 「怒ってない怒ってない!!だから、ね?」 トニーさんの肩をポンと叩き、彼が落ち着いてくれるようできるだけふんわり微笑む。 「名前ちゃん…。ほんまに優しい子やなぁ〜。な、仲直りの印にハグしてええ?」 「え?あぁ、いいですよハグくらい」 向こうの人はよくやるもんねーハグ。 スーパーの中でするのは恥ずかしいけど… そうでもしないとトニーさんがまた泣いてしまいそうだ。 トニーさんの両腕が背中に回ったかと思うと、ギュッと力強く引き寄せられる。 って、ハグってもっとこう、軽いものじゃなかったっけ…? 「ハァハァ名前ちゃんかわええなぁ〜親分ドキドキしてるで〜」 「トニーさん、変態くさいです。ってゆーか貴方天然純情キャラはどうした!!」 「ん?本音を言うとこのまま連れて帰りたいんやけどなぁー」 「い、今なんと…?」 「なんもあらへんよー!!」 更にきつく抱きしめられ体がミシミシと鳴った。 トニーさん、手加減ってものを知らないな… 「それじゃあトニーさん、私買い物があるからー…」 「えー…もうちょっとこのまま…」 「クビにされるよ」 「それは堪忍やで!!」 「それじゃあ頑張ってください。時間があいたらまた晩御飯でも食べに来てくださいね」 「うん!!ありがとなー名前ちゃん!ごっつーエネルギーもらったわぁ〜」 また美味しいご飯ご馳走してな〜!と笑ったトニーさんは野菜を抱えて仕事を再開した。 頑張ってるなぁ、トニーさん ギルもトニーさんを見習って少しは掃除なんかも頑張ってくれるといいんだけど… ――― 「おせーよ!腹減ったぜー!」 「あんたに期待した私が馬鹿だったよね」 「は?何の事だよ」 「べつになんでもありませんー」 こいつが私の為に頑張ろうだとか、何かしてやろうなんて考える事じたい無いんだろうな ちくしょう、やってもらって当たり前だと思ってるなぁー… いっぺん教育しなおした方がいいだろうか 「晩御飯できたよー。今日はオムライスでーす」 「って、なにオムライスにハート書いてんだよ!!」 「いいじゃんケチャップ文字」 「名前にしろよせめて!!ハートって…お前」 「何その目、喧嘩売ってんの?味は変わらないんだから文句を言わずに食べる!!」 「へーへぇ」 可愛くない返事…!! 腹が立って頬を引っ張ってやると、「ふぎぎぎぎぎ!!」と声をあげた。 ふぎぎぎって… 「そういや今日スーパーでトニーさんとね、なんというか仲直りみたいな物をしてきたよ」 「そういやこの間お前怒ってあいつん家から帰ったんだっけか」 「うん。まぁそれで仲直りって事でトニーさんが謝ってくれて。その時ハグされたんだけど…なんというか、ディープなハグだった」 「でぃ、ディープなハグ…!?」 「ハグって軽いものだよね?なんというか、トニーさんはギューッと締め付けられた感じ」 「お前、それって抱きしめられてんだよ馬鹿!!気づけよ、何がハグだ馬鹿!!つかスーパーで何やってんだお前ら!!」 「まぁ友情を確かめ合うには抱き合う事も大切なんじゃない?」 「アフォかお前!!こっちはその気でもあっちは…」 「なに」 「いや、もう良い…お前に何言ったって無駄だ…。だけど次あいつに何かされそうになったら避けろよ、マジで…!!」 「う、うん」 ギルがあまりに必死になるものだから、気迫に負けて頷いてしまった。 なんなんだろ、トニーさんってそんなに不味いのかなぁ… オムライスの玉ねぎをお皿の端っこの方に寄せるギルを注意すると「食感が嫌なんだよ」と返された。 食べられるようにわざわざ小さく切りきざんでるのに… なんだかギルといると子育てをしているような気分になる。 こんなでかくて我が侭な子供いらないけどね 結局喧嘩した理由はなんだったんだ?と聞かれ素直に応えると思いっきり笑われたので、ビールを取り上げた。 涙目になってギャーギャー喚いていた気がするけど、気にしない。 . ←|→ |