「髪伸びてきたねぇギル」

「んー、そういやそうだな」

「切ってあげようか?」

「…誰が」

「私がに決まってんじゃん」

「俺をツルッパゲにする気かぁあああ!!」

「アーン?んだとこの餓鬼吊るすぞ」

「お前絶対アレだろ!!切り揃えるうちに短くしすぎる奴だ絶対!!」

「大丈夫、私器用だし。アーサーの髪も切ってあげた事あるんだからねー」

「いや、髪切る前に眉毛切ってやれ」

「アーサーから眉毛とったらどうなるの!ツンデレとエロしか残らないじゃん!!」


野菜を炒めていた菜箸をギルに突きつけると、「うっ…」と小さく唸る。
アーサーから眉毛を取ったら目立つ要因がなくなるもんね。


「とにかくさ、髪私が切ったげる。晩ご飯食べたら切るからねー」

「マジかよ…すげー不安だぜ」

「ちょっと切るだけじゃん」


―ピンポーン


ん、多分アーサーだなぁ。


「はいはーい、いらっさーい」

「こんばんは、名前さん。夕食時にすみません」

「あれ、本田さん?どうしたんですか、こんな時間に」

「実は先日伺った時に忘れ物をしてしまいまして…」

「そうなんですか。まぁ上がってください。晩御飯食べていきますか?」

「よろしいのですか?」

「いいですよー。コロッケなんですけど、ちょっと作りすぎちゃいましたし」

「ありがとうございます。実は締め切り後で何もする気が起こらず昼から何も食べていなくて…」

「うわー、お疲れ様です」

「よ、よぉ」

「あ。アーサー。今仕事帰り?」

「まぁな。着替えてそっち行くな」

「お疲れ様ー。今日はコロッケだからねー」

「分かった。あ、あとこれ…」

「んー?お土産?」


アーサーが差し出した見覚えのアある小さな紙袋の中から甘い匂いがした。
この匂いはチョコレートかな…


「外出た時たまたま前を通りかかったからだぞ!!たまたまお前の好きなケーキ屋の前を、だな…」

「だからわざわざ買ってきてくれたの?」

「わ、悪いかよ!!」

「ううん、すっごく嬉しい。ありがとうアーサー!」

「…ま、まぁお前がそこまで言うならまた買ってきてやってもいいぞ!!」

「うん。今度はプリンがいいな〜。あそこのプリンすっごく美味しいんだよね」

「分かった。それじゃあまた後でな」


やったーチョコゲット!!
ギルに見つからないように一人で食べちゃお〜!!


「いやはや、あなたと言う方は人を使うのがお上手ですね…」

「何のことですか本田さーん。私はそんな腹黒い事考えてません」

「そんな貴方が私は好きですよ。名前さんは俺の嫁!!」

「晩御飯食べさせませんよ」

「あ、嘘です。取り消してください」


人差し指と人差し指で×を作った本田さんは何時もの表情を変えずにっこり笑った。
ったく、この人は相変わらずだなぁ…


「こんばんはギルベルトさん」

「本田。あ、これだろ?忘れ物」

「それです。いやぁ、これが無いと仕事にも集中できなくて…」

「なんですか、それ」

「ポータブルプレイヤーです。アニソンやゲーソンなどが入っている私の宝物の一つですよ」

「へぇー」


やっぱりアニメなんだ。この人ってアニメ以外の何かに熱中することって無いのかな…


「よっ」

「あ、いらっしゃーいアーサー」

「うげ、眉毛が来た」

「んだとこのプー太郎。呪いかけんぞ!」

「先ほどは挨拶が遅れまして。こんばんは、アーサーさん」

「あぁ」


今日もお決まりのむさ苦しい連中が集まったなぁ。
ってゆーか最近ここに出入りする人たちって男ばかりだよね…
私女友達少ないし…。
うわーなんか寂しくないですかこれって。
まぁエリザも居るし会社にも何人か仲良い子も居るし、ね
でも家の課って圧倒的に男が多いんだよねー…。わずかに居る女性社員も年配の人ばかりだし…


「名前さん、何かお手伝いをしましょうか?」

「え?あ、じゃあお皿出してもらえますか?もうコロッケ揚げ終わるんで」

「分かりました」


いけないいけない、料理中に考え事はダメだ。
うわ、ちょっとコロッケ焦げちゃった
まぁこれはギルのでいいかー


「何か考え事ですか?」

「え?」

「先ほどボーっとしておられたようでしたので」

「あぁ…。いえ、大した事じゃないです」

「その大した事じゃない事を放っておくと悩みになってしまいます。私でよければお話を聞きますが…」


本田さん、私の事心配してくれてるんだろうな…。
ここに来てから、本田さんは私の保護者のような相談役のような相手だった。
入社したての頃はよく相談に乗ってもらってたっけ…
あの頃は色々大変だったもんなぁ…


「えっと、本当に大した事じゃないんですけど…。私って女の子の友達が少ないなぁ、と…」

「男性の友人ではご不満ですか?」

「そんな事ありませんよ。皆いい人ばかりですもん」

「なら良いではありませんか。貴方がご友人を大切に思われているのなら相手も同じように貴方を大切に思ってくださっているはずです。大切に思う人に男も女も関係ないじゃないですか」


それでも寂しいと仰るなら私が女装でもして差し上げましょう、そうにっこり笑った本田さんに何故か目頭が熱くなった。
やっぱり本田さんって凄いなぁ…
この人だけは一生越えられないというか…お父さんとかお母さんってこんな感じなのかぁ。


「ありがとうございます。女装は結構ですから」

「似合いませんか?」

「似合うからシャレにならないんですよ本田さんは」

「今度から私をお姉様とお呼びしていただいてもよろしいのですよ」

「嫌です。ノーセンキュー」

「遠慮なさらずに。さぁ、お姉様とお呼び!」

「二人ともー晩御飯できたよ〜!」

「あっ、無視!?無視しちゃいますか名前さん!」


ちゃんと感謝してますよ、本田さん。
照れくさくてなかなか言えないけどね。


「なんで俺のコロッケだけ焦げてんだよ!!」

「居候だから当たり前だろバーカ」

「んだと眉毛!!お前のと交換しろよ!!」

「テメェには焦げたコロッケがお似合いなんだよ!!さっさと食え馬鹿!」

「食事中に喧嘩しない。二人とも大人しく口動しなさい」

「チッ…」


ったく…本当に仲悪いなぁ。
犬猿の仲と言うか…
似てるからこそ反発しあうんだろうけど


「ご馳走様!よし、ギルー髪切るよ!」

「うわ…!!マジで変にするなよ!!絶対な!!」

「ギルベルトさん…!!髪を切っていただくのですか!?なななな、なんて美味しい事をぉおおお!!!」

「本田さん、カメラを構えるのは食べ終わってからにしてください」

「わざわざお前が切らなくても美容院行けばいいだろ!!」

「私だって切れるんだしいいじゃん。前にアーサーの髪切った時悪くなかったでしょ?」

「ま、まぁそうだけど…」

「それじゃあ名前様サロン開店〜」

「か、カット代おいくらですか…?」

「8千円です」

「たけーよ!!って、出そうとするな本田ぁあああ!!!」

「何を言っているんですかギルベルトさん!!名前さんに髪を切ってもらいシャンプーやあれよこれよとしていただけるチャンスなのですよ!!」

「あ、シャンプーは別料金です」

「お幾らですか?」

「一万円」

「たけーよ!!って、馬鹿!!万札出すな本田ぁああああ!!!」



お財布から万札を二枚取り出そうとする本田さんをなんとかアーサーが宥めるのを横目で確認し、片手にハサミを構える


「んじゃ切って行くからねー。じっとしててよ?」

「マジで変にするなよ!!ちょっとでいい!!ほんの数ミリ切るだけでいいから!!」

「どんだけ信用してないのお前。私に任せておきなさーい」


ギルの髪をコームで滑らせ、伸びた部分にハサミを入れていく。
うわー、髪の毛柔らかいなぁ…
ふわふわしてるし。


「ほ、本田…どんな感じだ!?」

「いたって普通ですよギルベルトさん。いやぁ、名前さんお上手ですね」

「美容学校に行ってる友達にちょっと教えてもらった程度ですけどね。まぁちょっと切るぐらいは問題ないでしょう」

「マジで大丈夫なのかよ!?お決まりのパターンでくしゃみと同時にバッサリとか…」

「そんなベタな事しねーよ」


そこまでベタじゃないですから、私も。
興味津々に見ている本田さんと、そわそわとこちらを見ているアーサーに若干気が散りながらもギルの髪を切っていく。


「できた!!」

「ほっ本田…!!鏡…!!鏡を見せてくれ」

「はいギルベルトさん!大丈夫です、お決まりのバッサリもありません!」

「こいつらマジで殴っていいかな、アーサー」

「いいと思うぞ」


髪を切り終えたギルは鏡をあらゆる方向から見つめ、切り口を確認する。
本当に信用してねーな、こいつ…!!


「どうだ!!上出来じゃん!!」

「まぁ短くしただけだしな…。まぁまぁじゃねー?」

「うわ、何その偉そうな言い方。てっぺんだけ剃り落としてやればよかったなぁ」

「やめろ!!いや、止めてください!!うわーすっごく上手だなぁーこのカット!!」

「だよねー。分かればよろしい」

「ギルベルトさん、尻にしかれるのが板に付きましたね」


親指をたてる本田さんを無視して後片付けをすませる。
そういや私も髪伸びてきたなぁー…
そろそろ切りたい気もする。
よし、こんど美容院に行ってこよう。
髪を触りながらそんな事を呟くと、「自分はちゃんと店で切ってもらうのかよ!?」とギルからツッコミが入った。
だってほら、私は女の子だし?
自分では自分の髪切れないしね、アッハッハ!
それにしてもギルのかみサラサラしてて羨ましいよなぁ…
ちくしょう、同じシャンプー使ってるのにこの差はなんなんだ!!
欧米人は髪も細いって言うしなぁ…
うーん、羨ましい!

その後、髪型の載っている雑誌を読みながら「エリザみたくロングでフワフワしてるのもいいよねー」と呟くと「お前があいつの真似したって到底敵わねーからやめとけ止めとけ。特に胸とかな!」と手の平で胸のサイズを表したギルの髪を引っ張りベランダまで引き摺った。
「痛い痛い禿げるぅううう!!」と叫ぶのを無視し、ベランダの外へとつるし上げる。
うん、なんかこれ久しぶりだなぁ。

とりあえず軽く2時間ぐらいは干しておくかな。


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