懐かしい夢を見た。

あれは確か私がまだ小学生の頃で、クラスの男子に「お前って父ちゃんも母ちゃんも居ないんだよな〜」とからかわれた時の事だった。

その時初めて、私は人前で涙を流した


あれ、最近って何時泣いたっけ?



「んんー…」

「起きたか…?ったく人騒がせな奴だぜ」

「ギル…?あれ、私なんでリビングで寝てるの…」

「覚えてねーのかよ!酔っ払ってソファーに突っ伏したまま寝たんだよお前!」

「じゃあなんでギルが一緒に寝てるの」

「じ、自分がやってる事分かってねーのかよ…!!」


見る見るうちに赤くなっていくギルの顔を、内心面白く思いながら今の自分の状況を確認する。

ギルの背中に手を回し、足を絡めてギルの体をしっかりロックしている。
これじゃあ動けないよねぇ…


「し、仕方なくベッドに運んでやろうとしたら首に腕絡められて…」

「そのまましっかりホールドしちゃったんだね…。ダメだ、記憶にない…」


デンさんとノルさんが送ってくれたのは覚えてるんだけどなー…
それにしても二日酔いで頭が痛い…
今日は休みだしもうちょっと寝ていよう。


「って、何また寝ようとしてんだよ!?」

「私は眠いのだよギルベルト君。頭痛いからでかい声出すな」

「分かった!寝てもいいから俺を放してからにしてくれ!!」

「えー…」


なんか抱き心地もいいしこのままが良いんですけどー…
私には似合わない甘えた声で「ギルー」と呟き胸板に頬を寄せると、ギルの体がビクッと揺れた。
うわ、すっごい心臓がバクバク鳴ってるのが聞こえる…
背中に回した手で背中をポンポンと叩いてやる。
「無防備すぎんだよ…!」と言葉が降ってきたかと思うと、ぎゅっと抱きしめ返された。

暖かいなぁー…
心臓の音は相変わらず煩いけど。

落ちていく意識の中ギルが何かを言った気がしたけど、その言葉が届く前に私の意識は途絶えてしまった




―――



「そのうち襲うぞ、マジで」


ため息雑じりに呟いた言葉は名前には届かなかったらしい。
規則正しい寝息が聞こえ、頭を小突いても返事は返ってこない。


「はぁ…こっちの身にもなれってんだよ、馬鹿野郎」

「そうですよねぇ。私ならこんな無防備な顔で抱きつかれたら我慢なんてできませんよ。むしろ美味しくいただきます」

「だよなぁー。でも後が怖いから……」


って、


「ほんっ…!!」

「静かに。名前さんが起きてしまいますよ?」

「うっ…」


口元に人差し指を当てた本田は視線を名前へ向ける。
って、こいつ何時から居たんだよ!?


「先程勝手に上がらせていただきました。ギルベルトさん…よく我慢できますね、その体勢で」

「いや、まぁ…なんか慣れたっつーか…」

「何もしないんですか?今なら何でもし放題じゃないですか。ほらほら、ぶちゅっとやってしまいなさい!!」

「誰がするか!!そ、それに俺はこんな奴…!!」

「ギルベルトさん…」


首からカメラを下げた本田は大きくため息をつき、気持ち良さそうに眠っている名前の髪をさらりと撫でた。
母親が子供に向けるような優しい目で


「ぼやぼやしていると誰かにとられてしまいますよ?」

「え…」

「そうですね、アーサーさんにアントーニョさん、アルフレッドさんにイヴァンさん…その他にも私の知らない何方か。名前さんは人を惹きつけるのが上手な方ですからね」

「何が言いたいんだよ…」

「誰かにとられてからは遅いと言っているんですよ。いい加減素直になりなさい。貴方は私が認めた方なのですから、もっとしっかりして頂きたいのです」


今までに見せた事のないような強い視線を向けた本田は、また直ぐに何時もの表情に戻るなり「なーんて…」と小さく笑った


「少々遠回りをする所も、ギルベルトさんの良い所ではありますがね」

「…」

「しかし安心してもらっては困ります。私だって、一歩間違えば貴方の敵だという事を覚えておいてください」


それってどういう意味だ、と口を開こうとすると腕の中ですやすやと眠っていた名前が身を捩った


「んー…本田さん…?」

「おはようございます、名前さん。寝起き顔グッジョブです」

「フラッシュが眩しいので止めていただけますか…」

「すみません、だけどこれだけは止められない止まらないカッパえびせんです」

「なんでエビせん?」


連続でシャッターをきる本田はいつもの本田だった。
なんだよ、今の…。
ぼやぼやしてると誰かにとられるって?
そんなの自分でも分かってんだよ…

って、本田いつから気付いてたんだよ!?俺がこいつの事…あー…あれだって!!
最初から?いや、まずないな。俺も自覚したの最近だし

本田菊。やっぱただもんじゃねぇな。

何事も無かったかのように「それでは私は原稿があるので失礼いたします」と帰っていった本田。って、いったい何しに来たんだあいつ…
「もう一回寝る」と呟いて再び目を閉じた名前。
って、ちょっと待て!!まだ俺にこんなギリギリな体勢でいろってのかよ!!
無理矢理引き剥がしてやろうと体を押してもびくりともしなかった。どんな力してんだこの女…!!

でも、まぁたまにはこういうのも悪くないか…
相変わらず心臓がありえないほどバクバク鳴ってるけどな

寝言で「ギルー」と唸りながらへにゃりと笑う名前を見て柄にも無く、「あ、今すげー幸せ」なんて思っちまった。

こんな生活が何時まで続くんだろうな…
いや、何時まで続けられるんだろう。

ぼやぼやしてたら誰かに取られるって?そんなの分かってんだよちくしょう…!!

だけどできる事なら、これからもこいつの傍に居られたら良いと思う。
プー太郎でもなんだって良い。
この場所がやっと見つけた”俺の場所”なんだからな



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