「今晩は俺の奢りで飲みに行ぐっぺ!!」

「嫌です」

「一緒にいってつけろ!」

「駄々っ子ですかアンタは!!」


私の服の袖をぐいぐいと引っ張る上司。
「仕事中ですよ」と注意するものの、「頷くまで放さねぇべ!」と豪快にニカッと笑う。
うーん、家でギルも待ってるしなぁ…
それにデンさんと二人っきりってなんか不安なんですけど…


「私今日用があるんで…」

「ちくゆうな!!おめぇが用なんてあるわけながっぺ!」

「なにその自信!?それに二人っきりなんて嫌ですよ!!」

「んならノルとベールとティノも連れてくべ」

「えぇええ!?僕たちもですか…?」

「ティノ君スーさ〜ん…!!」


助けを求めるように二人を見ると、のそりと立ち上がったスーさんが親指を立てた


「スーさん?」

「行ぐ」

「いいの?」

「ん」


あれ、なんか今日のスーさんノリがいいなぁ…
ティノ君も仕方なく「分かりました」なんて頷いちゃうし…!!


「の、ノルさんは嫌ですよね!?」

「…奢りなら」

「そういう人ですよね、ノルさんって…」


満場一致で仕事帰りに飲みに行く事になってしまった。
まぁ明日は土曜で休みだし…
ギルには適当にカップラーメンでも食べてもらうしかないか



―――



「かんぱーい!!」

「「かんぱーい」」

「今日は朝まで飲み明かすっぺ!」

「却下。家で子供が待ってますんで」

「おめ主婦か?まぁじゃんじゃん飲めや!!ティノも食ってでかくなれ!!」

「僕もう成長止まってますよ!」

「はいスーさん。小皿そっち回してー」

「ん」


デンさんの行きつけらしい居酒屋の奥まった個室。
なかなかいいお店だなぁ…


「あ。そういえばデンさん、アイス君は元気ですか?この間遊びに来てくれたんですよ〜」

「マジけ!?なかなかやんなあいつ。確か昨日の晩気に行っちゃ時は文化祭の準備がある〜だとか言ってだわ」

「文化祭かぁー。アイス君の学校はこの時季にやるんですね。私は秋だったなぁ」

「名前さんは文化祭に何をされたんですか?」

「クレープ屋さんとイメクラまがいのコスプレ喫茶」

「イメグラ…」

「ちょっ、スーさん顔怖い!!私はやってないからね!?ずっとクレープ焼いてましたから!!」

「おめぇももうちっと乳が出てたらいいんじゃけんどなぁ」

「セクハラで訴えますよ」

「…あんこ、うざい」


相変わらずボーっとした表情のノルさんが、デンさんのお皿にピーマンやら枝豆の空などどをポイポイと入れていく。
「じゃーめ奴だっぺ!」と笑ったデンさんはどこか嬉しそうにしていた。


「そういえばティノ君、お家の子犬は大丈夫?餌とか色々…」

「んー…ちょっと心配なんですけど、多分大丈夫だと思います!!水はいつも多めに入れてあるし、とってもいい子だからちゃんと帰りを待っててくれてますよ!」

「へぇー偉いね。うちのとは大違い」

「ギルベルトだない」

「そうそう。あいつ待てって言っても待たないから」

「アハハ、ギルベルトさんらしいですね。あたお会いしたいなぁ〜!そうだ、今度名前さんの家に遊びに行ってもいいですか!?」

「いいよ!是非遊びに来て〜!」

「わーい!楽しみですね、スーさん!」

「ん。ケーキ持って行ぐ」

「やったー!流石スーさん分かってる〜!」

「何おめぇらだけで盛り上がってんだべ!!上司を差し置いて盛り上がるっちゃーいい根性だっペー!!」

「デンさん酒臭い!!って、一人でどんだけ飲んでんですかあんた!!」

「数えたらジョッキ6杯…」

「早っ!!ピッチ早すぎですよ!!酔いつぶれますよ!?」

「だったらおめぇも道連れだっぺ!!じゃんじゃん飲めぇええ!!」

「うぎゃっ!!ちょっ、嫌ですよ私酔ったら眠く…!!んぐっ…!!」


こんの腐れ上司ぃいいいい!!!
無理矢理飲ませやがって…!!しかもこれビールじゃないじゃん…!!!アルコールきつっ…


「だ、大丈夫ですか名前さん!?」

「うっ…頭クラクラする…」

「…送ってぐから帰んない」

「いや、大丈夫だよスーさん…。家反対方向なんだし」

「遠慮するでね」

「大丈夫、だいじょ…うぷっ」

「ギャー名前さん大丈夫ですかぁああ!!」

「どんだけきつい酒…うっ」

「あんれ、この酒度数45だった」

「てんめぇ腐れ上司ぃいい!!うっ…」

「あわわわスーさぁああん!!名前さんがぁああああ!!!」


スーさんにトイレまで担ぎこまれた私は、余りの気持ち悪さにそのまましばらくトイレに引きこもった。
ダメだ、頭がクラクラする…。そして眠い…。
ギルに迎に来てもらおうかな…。
タクシーで帰るとお金かかるしなー…うーん…


「で、デンさん…私もう帰っていいですか?」

「だったらタクシーで家まで送ってやっぺ」

「えー…」

「勿論俺の奢り!!」

「よろしくお願いします」

「切り替え早いですね名前さん!!」

「…変な事しでかさねぇようにない」

「す、スーさん顔怖いですよー…!!」


ノルさんに肩を借りて、ふらつく足で外へ出る。
夜の風がきもちいー…


「だいじょぶけ?」

「ノルさん…大丈夫じゃないですよ、足ふらふらしてますから」

「酒弱すぎんだべ…」

「すんません…」


軽く頭を下げると、ポンポンと頭を撫でられた。
ノルさん良い人だー…

デンさんが捕まえてくれたタクシーに乗り、スーさんとティノ君と別れる。
そっか、ノルさんはデンさんと同じマンションだから一緒に乗るんだね。
後部座席の真ん中に座っていると、何故かぐいぐいっと私を窓側においやったノルさんは、デンさんとの間の壁になるように真ん中に座った。


「おめぇな…」

「…あんこは信用なんね」


酔った頭で話についていけなかった。
まぁ、いいか。
タクシーを私のマンションの前に停めたデンさんとノルさんは、わざわざ部屋まで私を送ってくれた。
驚いた顔をしたギルが玄関から飛び出してくる。馬鹿だのアホだろだのと散々馬鹿にされた気がするけど、そんなの気にしてられる程今の私の頭は正常に働いちゃいない。
ぐるぐる回る頭で、二人にお礼を言うと「今日の所はこの辺にしといてやっけど、今度は朝まで帰えさねーっぺ!」と笑うデンさんの足をノルさんが思いっきり踏んづけた。
休み明けにちゃんとお礼言っておかないとなぁ…
ギルに体を引き摺られてソファに体を沈めると、今まで我慢していた眠気が押し寄せてきた。
でもお風呂入ってスッキリしたい…
「べ、ベッドで寝ろよ!!」とキャンキャン喚くギルの声が頭に響く。
って、机の上や床の上に空き缶やらゴミやら散乱してるし…

まぁ、全部明日すればいいか。
とりあえず今はどれも睡魔には敵わないのだ。
「おやすみーギルー…」と力を振り絞って声を出すと、「ばか…」と何時ものような呆れた声が降ってきた

馬鹿って言うなよ馬鹿って。
いや、今回だけは認めるけど…


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