「名前!!今晩泊めてくれないかい!?」

「いや、ねアルフレッド君。そういう事は事前に言ってくれないと…しっかりお泊りの用意して来られたら断れないないじゃん…」

「明日の朝一でどうしても大学でやらなきゃいけない事があるんだよ〜!家から行ってたんじゃ遅くなるし、ここからなら直ぐに行けるだろう!?」

「そりゃそうだけど。アーサーの所は…泊まるはずないよね」

「よく分かってきたじゃないかー名前。そういうわけでお腹も空いたし早く晩御飯にしてくれよ!!」

「はいはーい」


いきなり押しかけてきたアルフレッド君は相変わらずマイペースらしい。
まぁそこが彼のいい所でもあるんだよね


「やぁギルベルト!君まだここに居たのかい〜?」

「んだとメタボ!!その腹どうにかしろよ!!」

「こ、これは違うぞ!!断じて脂肪なんかじゃないんだからな!!」

「お前そのうちブヨブヨのまん丸い体になるんじゃねーの?ププッ」

「うわぁああ名前ーーっ!!ギルベルトが苛めてくるんだぞぉお!!」

「馬鹿!!ちくるなよ!!」

「小学生かお前らは」


リビングで小競り合いをする二人を無視して、やりかけだった晩御飯の準備を続ける。
アルフレッド君も居るし沢山作んないとなー…


「あ、そういえばこの間街でフランシスが女の子と歩いてるのを見たんだぞ!」

「あいつはいつもの事だろ」

「それがフランシスのタイプじゃないって言うか…どう見たって高校生ぐらいでさ。黒髪で髪を二つに結んでる女の子だったよ」

「うわ、何フランシスさんそんな若い子にまで手ぇ出してんの!?今度説教しないといけないなぁ…」

「ほんと、あんな大人にはなりたくないね」

「アルフレッド君は彼女居ないの?」

「ガールフレンドかい?今のところは君だけだぞ!!」


アルフレッド君の言葉にガクッと肩が落ちた。
同時にビールを飲んでいたギルが吹き出す。ちゃんと拭いておけよ、ギル


「ちょいちょい、なんで私の名前が出てくるの…」

「だって俺がヒーローでキミがヒロインじゃないか!!」

「わけわかんないよーアルフレッド君」

「ぶふっ!こいつはヒロインなんかより悪の女王役がピッタリだぜ」

「OH!!ドロンジョだな!!だけどあの衣装はキミにはきつすぎるぞー!」

「スカポンタン」


よくヤッターマ○なんて古いアニメ知ってるねーと言うと、「リメイクでアニメ放送やってるの知らないのかい!?」と驚かれた。
映画は知ってたけどアニメの存在は知らなかったなぁ。あんまりテレビ見ないし


「ご飯できたよー」

「わーい!!いっただきまーす!!」

「今日はカレーかよ。こっち来た時カレーにじゃが芋が入ってるの見て驚いたけど、今は満更でもねーよな」

「もごごぐふふ!!」

「はーい、ちゃんと飲み込んでから喋ろうねーアルフレッド君」


コップに入れた水を差し出すと水と一緒にゴクリと飲み込んだアルフレッド君は「はぁー!!」と満足気なため息をついた。


「やっぱり手作りは最高だよ!!」

「いつもは手作りじゃないの?」

「うちって父子家庭なんだけどさぁ。ダディーはいつも仕事で留守にしてるし、メイドさんの作った料理がどうも口に合わないからいつもハンバーガーとかコンビニですませちゃうんだよ!!」

「メイドさんって…アルフレッド君の家ってお金持ちなんだね」

「アメリカでマイクロソフトを中心にする会社を経営しててさ。各国に子会社が沢山あるもんだから父さんは大忙しなんだよ!!日本に居る事も少いんだぞ」

「あれ?それってもしかしてアーサーが働いてる…」

「うちの父さんアーサーに跡を継がせる気満々なんだよなぁ。別れた奥さんの子供だって言うのにアーサーの事大好きでたまらないんだよ!!」

「って事はあいつって次期社長!?あの眉毛が!?」

「なんでアルフレッド君やマシュー君に継がせてくれないの?」

「俺が!?あんな堅苦しい会社の社長なんてゴメンなんだぞ!!俺は映画監督になってあらゆるスタントもこなせるヒーローになるんだからな!!」

「わけわかんねーぞお前!!んじゃもう一人の…あー、なんだっけあの影薄い奴」

「マシューかい?彼も平穏に暮らしたいって言ってるし継ぐ気なんて更々ないんじゃないかな。そういえばマシューってば最近変な熊とよく喋ってるんだぞ!!おかしな奴だよ〜!!」

「マシュー君大丈夫かな…」


それにしてもそんな事情があっただなんてなぁ…。
アルフレッド君のお父さんの会社で働くアーサー…。って事は今も結構高い位置に居るって事だよね?
凄い人だったんだな、アーサーって…


「だから名前。あんな奴と結婚したら苦労するのが目に見えてるんだぞ!!俺のところに来れば生活の心配もないしずっと俺だけのヒロインで居てくれればそれで構わないからさ!!」

「こっちが構いますから。無駄な将来を語ってないでカレー食べちゃいなさーい」

「よーし5杯はおかわりしてやるぞ!!!」

「お前腹壊すぞ!?」

「ギルもいっぱい食べないとダメだよ?」

「マジかよ…」


5杯のカレーを綺麗に食べきったアルフレッド君は「シャワー浴びてくるよ。明日は早いから早く寝たいからな!」とバスルームに入っていった。
余ったカレーを小さい鍋に移し、玄関を出て隣の家のチャイムを鳴らす。


「こんばんはー、アーサー」

「よぉ」

「これカレー。良かったら食べて?晩御飯もう食べちゃった?」

「そういやまだ食べてないな…仕事が溜まってて今一息ついたとこなんだ」

「だったら私が用意してあげるよ。疲れてるんでしょ?」

「わ、悪いな…」

「何を今更」


キッチンに向かい、少し冷めてしまったカレーの鍋に軽く火を通す。
うわ…なんか冷蔵庫に不穏な食べ物が入ってるんですけど…。うん、見なかったことにしよう。
余っていた野菜を適当に盛り付けてドレッシングをかける
横目でちらりとアーサーを見ると、目が合った。が、思いっきり逸らされた。
露骨な奴だなぁ…


「はい召し上がれ」

「ん、悪いな」

「熱いから気をつけてね」

「あぁ」


豪快にカレーを頬張るアーサー。
何故か彼は何時もは上品なのに、カレーを食べる時だけ豪快だ。
もぐもぐと味わい、へにゃりと締りのない笑顔で笑う。


「ぶふっ」

「なななな、何笑ってんだよ馬鹿!!」

「いやー美味しそうに食べてくれるなぁ〜と思ってね」

「からかうな馬鹿!!食いづらいだろ…」

「ごめんごめん」

「…そういえば、今お前の家にアルフレッド来てるだろ」

「え…。なんで分かったの!?」

「声が聞こえんだよ。あいつの声馬鹿でかいから」

「そっかー。アルフレッド君からね、お父さんの事とか会社の事聞いてたんだよ。アーサーも大変だねぇ」


このこのーと肩を突いてやると、アーサーはピタリと動きを止めた。
不思議に思い、アーサーの顔を覗く


「アーサー?」

「俺は別に社長になったりしないからな」

「え…?でもアルフレッド君が…」

「俺は他人なんだよ。実の息子のあいつらが継げばいい話だろ。それに俺は社長なんて向いてないしな」

「だったらアーサーは何するの。アルフレッド君たちの部下?」

「ばか。そうだな…イギリスに帰ってのんびり暮らすってのも悪くないな。田舎町で小さい雑貨屋でもしながら」

「可愛い夢をお持ちで何よりですねぇ」

「からかうなよ!!!本気なんだからな!!」

「でもそうしたら私達とは会えなくなっちゃうね。イギリスと日本じゃ遠すぎる」

「だ、だったらお前も一緒に暮らせばいいだろ!!」

「またお隣さんやれっての?うーん、ギルに一人部屋をあげられる2LDKなら良いかも」

「って、あいつ連れてくる気満々かよ!?って、そうじゃなくてだなぁ〜…!!!」


少し悶えたアーサーは、馬鹿ぁ!!と目を潤ませカレー皿を持って自室に篭ってしまった。
ちゃっかりカレーは持っていくんだねー…
そろそろアルフレッド君もお風呂から上がってる頃だろうし私も戻ろうかな


「アーサー。私戻るね〜。鍋は今度でいいから」


部屋のドアをノックするものの、返事が返ってこない。
まぁ放っておいても大丈夫だろう。
どうせ中でいじけてるだけだろうし。
ドア越しに「じゃあまたね」と声を掛けて自分の部屋へともどった。

リビングに上半身裸のアルフレッド君が居て「キミの家のバスルーム小さすぎないかい?」と私のミネラルウォーターを片手に文句を言った。
うわ、体に良い値の張る水を選びやがって…


「そういえば今夜俺は何処で寝ればいいんだい?」

「そうだなぁ、リビングは嫌?」

「ベッドがいいんだぞー」

「じゃあ私のベッド使っていいよ」

「名前はどうするんだい?」

「私はソファーで寝るから。ギルは床で寝てね」

「なんで俺が!?アルフレッドが床で寝ればいいだろーが!!」

「やだよ!!」

「ギルはお兄ちゃんでしょー?だったらアルフレッドくんと二人でベッドで寝る?」

「それだけは勘弁してくれ。ってゆーかお兄ちゃんってなんだよ」

「男二人で眠るなんて地獄の方がまだましだよ!」

「だよね。私も見てて見苦しいから嫌だな」


結局その夜はギルベルトに床で寝てもらって、私はわりと寝心地の良いソファベッドで眠る事にした。
夜中に目が覚めて、トイレに行こうと足を運ぶとギルの体を踏んづけてしまったらしく、「ふぎゃー!!」という声が足元から聞えて来た。

ちょっと可哀想だったかな…
明日起きたら労わってあげよう。


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