今日は火曜日。
と、言っても毎日部屋の中に引きこもっている俺様にとって曜日感覚なんて無い物に等しい。
なんて自由人なんだ、俺

それもこれも俺を拾ったあの女のお陰なんだと理解はしている
しかし毎日あーしろこーしろって文句言われて、挙句の果てには寝耳にビールだ(アレはマジで泣いた)
扱いが酷すぎる。

そうかと思えば俺のためにソファベッドなんか買ったりしやがってわけわかんねぇ女だ。
とにかく不自由はねぇからここに居てやるのも悪くない

強いて言えばあの女がもう少し美人で胸があって足が長くて優しければ文句なしなんだがな


ピンポーン


「ん?誰だよ昼間っから…」

めんどくさいが出とかないと後であいつにどやされる


「あーはいはい。誰だー?」


ガチャッ


「あれ?」

「は?」


出てみると、そこには小柄な男が立っていた


「あれ…ここ苗字名前さんのご自宅で間違いありませんよね?」

「え、まぁそうだけど…」

「えっと…あなたは名前さんの…」


男は言い辛そうに俺を見た


「いや、俺はなんと言うか…まぁ居候って奴…?」

「あ…そうでしたか。あの、名前さんはいらっしゃいますでしょうか?」

「今は仕事に出てるぜ」

「え…!?失礼ですが今日は何曜日でしょうか!?」

「火曜日だけど…」

「て、てっきり今日は休日かと…」



ここにも曜日感覚を失った男が居た。







「へぇ。じゃあギルベルトさんは名前さんに拾われた、ということですか」

「まぁな。むりやり連れて来られて行くあてがないならここに居ろって言われたんだよ」

「彼女らしいですね。あの方はいい加減に見えて困っている人は放っておけない人ですから」

「お前はあいつの知り合い何かか?」


遠慮がちにソファに座っている男にコーヒーを出す
男は申し訳無さそうに頭を下げた


「ありがとうございます…。えぇ、私は知り合い…と言いますか…ネタ作りの対象と言いますか…」

「ねた?」

「あ、いえ。なんでもありませんよ」


男は上品に笑ってコーヒーを飲んだ


「すみませんねぇ。職業柄家に閉じこもる事が多いので曜日感覚がなくって…。久しぶりにサツマイモの甘煮を作ったので名前さんにもおすそ分けしようかと思って伺ってしまいました…」

「おお!!美味そう!!」

「良かったら貴方も召し上がってくださいね」

「おぉ。あと俺はギルベルトだ。様でも殿でもなんでもつけて呼べ」

「ふふふ。分かりましたギルベルトさん。私は本田菊と申します。この近くの一軒家に暮らしています」

「お前若く見えるけど幾つなんだよ。家に篭れる仕事って…」

「そうですね…サービス業、と言いますか…」

「サービス業?」

「人に夢と希望と萌えを与える仕事です」

「も、もえ?」

「ええ。まぁ一口に言えば漫画家です。頼まれて雑誌のイラストなども書きますが」

「漫画家って…!!すげーなオイ」

「凄くなんかありませんよ。ただ趣味の延長戦が仕事になったといったようなもので…」

「どんな漫画描くんだ?」

「今書いているのは魔女っ子モノです。少年誌なので男の主人公、そしてその少年が女性生徒ばかりの魔法学校に通うといったストーリーです。萌え漫画にはありちな設定ですが読者の方にも気に入っていただけて今や連載5周年目。もうすぐ最終回を迎えようとしています。今度アニメ化も決まりました」

「うおおお!?ちょっ、お前凄い奴だったのかよ!?」

「凄くなんてありません。ただ、やるからにはこの道一本を極め続けたい…。作者でありオタクである以上妥協は許されないのですっ!!!」


な、なんか燃え始めたぞこいつ…!!
漫画家って皆こうなのか?


「はっ…。すみません、つい熱くなってしまって…」

「いや、大丈夫だ」

「漫画のことになる自我をうしなってしまうようで…。あ、長居するのも失礼ですので私はこれでおいとまさせていただきますね」

「別に居たっていーぜ?」

「いえ。まだ原稿が少し残っているので帰ってやってしまわないと」

「そうか。また来いよ。どうせ俺はずっとここに居るしな」


小さく手を振ると目をパチパチと瞬きした本田は柔らかく笑った


「ええ。今度は私の描いた漫画を持ってくるので是非ご覧になってくださいね」


ぺこりとお辞儀をして本田菊は帰っていった


「変わった奴だな…。まぁ悪い奴じゃねーな」


奴の漫画とやらも楽しみだ


―――



「ただいまー」

「おぉー」

「あれ?これどうしたの。うわーサツマイモの甘煮だ!!もしかして本田さん!?」

「んー。あぁ、その本田って奴が届けに来たぜ」

「あー、もしかして本田さんまた曜日間違えて来ちゃったんじゃない?結構ドジなとこあるからなぁ〜」

「なんか変わった奴だよな、あいつ」

「そう?まぁ確かにたまに奇声あげたり息を荒らしながら写真撮ってきたりするけど。でも優しい良い人だよね」

「今度漫画もって来るだとよ」

「え。本田さんの描いてるやつ?そういえば私も本田さんの漫画見たことないなぁ〜。楽しみにしておこ」




本田家


「ふふ…ふははははは!!!なんて美味しい設定なんですかギルベルトさん!!童顔の成人女性に拾われてヒモ生活を送っているなんて美味しすぎますぉぉおおおう!!!!いけます、いけますよ!!次の新連載はあの二人をモチーフにした漫画に決定です!!!!さっそく担当に連絡しなければぁああーーーー!!!!」





「うっ…今なんか悪寒がした…」

「うそ。風邪?うつすなよな」


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