「名前、名前」

「んー…って、あれ…?」

「もう名前ったら。途中で寝ちゃってたのね。仕方がない子!」

「うあーごめんエリザ〜!!今休憩中だよね?」

「そうよ。もう、しょうがないわね」


目が覚めると、目の前にエリザの顔があった。
あれ?確か私ギルの肩借りて寝てたような…
ふとギルの方を見ると何やら頬などに痣ができて衰弱しきっている奴の姿があった。
私が寝ている間に何が起こったんだ、ギル…


「ほら、もうすぐローデリヒさんの出番よ!!シャキッとしてね!」

「おっす!!ちゃんと睡眠とったから今度は大丈夫だよ」

「ふふふふ。あ、そろそろ始まるわね…」


エリザの目が輝いている。
うーん、恋する乙女って可愛いよなぁ

再びブザーがなり、薄暗いステージの脇にスポットライトが当てられた。
静かに現れたローデリヒさんに会場から拍手が送られ、ステージの真ん中に立ったローデリヒさんは深くお辞儀をした。

あ、今こっち見た。
エリザを見てみると、ポーッと頬を赤く染めてローデリヒさんを見つめていた。
心なしかローデリヒさんもエリザの事見てた気がしたなぁ…

ローデリヒさんが椅子に座り、息を吸ったかと思うと低くお腹の底に響くような思いピアノの音色がホールの中全体に響き渡った。
あ、この曲…ローデリヒさんのお気に入りの…ベートヴェンのなんとかって曲だよね…
でもなんだかいつもと違って迫力があるのは気のせいだろうか。
ギルの方を見ると、先ほどまでは演奏に興味がないと言わんばかりに眠そうな顔をしていたのがローデリヒさんをじっと見つめている。
そうだ、やっぱり彼の演奏は一瞬で引き込まれるような音色なんだ

ホールがローデリヒさんの音の響きで溢れかえる。

やっぱりすごいなぁ、ローデリヒさん…



―――



「ほんっとうに素敵だったわよねー!!」

「お前さっきからそればっかじゃねーか」

「うるさいわねギルベルト」

「まぁまぁ。しかし素晴らしい演奏でしたね。こう言うのは失礼ですが、私はローデリヒさんの演奏の方が聞き入ってしまいましたね」


少し苦笑いを浮かべた本田さんにアーサーが頷いた。


「今日のコンサート、有名な指導者や評論家も居たからな。ローデリヒの奴これで有名になれるかもな」

「うーん、性格はアレだけど顔はいいしなぁ」

「まぁいい演奏だったけど俺はもっとロックでヒップなジャズとかが好きなんだぞ」

「そやなぁ。でもあいつほんま腕上げたわぁ。昔っから上手いとは思ってたけどここまで来るとはなぁ」


ラウンジで軽くコーヒーを飲みながら皆で今日の感想を述べた。
エリザはずっと嬉しそうにパンフレットを胸のまえで抱えている


「おや、まだ居たのですか貴方達」

「ローデリヒさん!!お疲れ様です!!」

「おや、ありがとうございますエリザベータ」


用意していた花束をローデリヒさんに渡したエリザはとっても幸せそうだった。


「おつかれ様ですローデさん!!すっごく素敵な演奏でしたよ!」

「貴方私の演奏以外は寝ていたじゃありませんか!!ちゃんとステージの脇から見ていたのですからね!!」

「えっ…いや、それはその・・・」

「このお馬鹿さん!S席で居眠りをする人なんて始めて見ましたよ私は!」

「す、すみません…」


その後も数分ローデリヒさんのお説教をくらってしまいました…
ローデさんの打ち上げがあるからと短時間でお説教も終わったけど、今度あった時にまた長々と怒られるんだろうなぁ…
ゴールデンウィーク最終日にしてこれとは…。まぁ今日はいい演奏を聞かせてもらえたし、何よりエリザがあんなに幸せそうにしているのが見られて本当に良かった。

皆と別れ再びアーサーの車でマンションまで帰ると時刻は既に11時を指していた。
はぁー…明日は仕事かぁ。
休みが長かった分すこし憂鬱だなぁ…
だけどまたティノくんやスーさん、それにデンさんやノルさんと一緒に仕事ができるんだもんね。
なんて思うとちょっぴり明日が待ち遠しくなった。
明日からはいつもの毎日だ。会社に行って仕事して…家に帰ってギルとご飯を食べて。
こんな日常が当たり前のようになってるもんなぁ…
ギルを拾ってから三ヶ月近くになるけど、今になるとギルのいない生活なんて考えられない。
ギルがここに来てくれて本当に良かったなぁ、なんて。言ってやらないけどね
なんだか照れくさくなってギルの髪をわしゃわしゃにしてやると「わっ!!な、なんだよ!?馬鹿やめろ!!」と抵抗されたので更にわしゃわしゃにしてやった。

うん、幸せだ。


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