「うっ…頭痛い…」


オマケに酒臭い。
ガンガン金槌で叩きつけられるような頭の痛さに目覚め、ゆっくりと目を開くと相も変わらず単調な笑顔を浮かべているイヴァンの顔が目の前にあった。


「あ、起きちゃった」

「い、イヴァン…?」

「おはよー。寝癖着いてるよ?ふふふ、可愛いなぁ名前」


待て、待て待て。何故だ、昨日の記憶がない。
そして何故私はイヴァンと二人でベッドで寝ているのか。
なんで、私服着てないんだ。


「いいいい、イヴァンさん…こここ、これはどういう…まさか…」

「名前…。僕初めてだったんだからね?」


色白い頬をピンクに染めて顔半分を布団で隠すイヴァン。
え、逆!?私が襲ったの!?
いやいやいやちょっと待ってよなんでいくらイヴァンが可愛いからってそんな…


「あの…マジですか?」

「うふふ。冗談だよ」

「おぉおおい!!ビックリしたぁああ!!!冗談きつすぎるよイヴァン!!あれ…?じゃあなんで私服着てな…」

「ちゃんと下着は付けてるから大丈夫だよ。昨日ほんのちょっと飲んだだけで名前が酔っ払っちゃってね?他の皆も相当飲んでたから夜中まで皆で騒いでてさ。挙句の果てに名前がノリノリで脱ぎまーす!!なんて言うもんだから僕すっごくビックリしちゃったよ〜。それで僕が名前を助けてあげたんだよ」

「うっそぉおお!?私がそんな事したの!?」

「人って酔うと何するか分からないよね〜。皆獣みたいだったから僕がやっつけておいてあげたよ」

「あ、ありがとうイヴァン」


下着姿を見られてしまった事はこの際気にしないでおこう。
でもこのお腹とか二の腕とか見られちゃったんだよなぁ…
うっ…ダイエットしておけばよかった

イヴァンに部屋から出て行ってもらい、軽い服を着てリビングへ入る。
いや、まぁだいたい予想はしてたんだけどね。
皆全裸だし部屋散らかってるし酒臭いし…
あれ…よく見たら皆体に痣ができてるような…それに寝てると言うより気を失っているような気も…


「名前。僕朝は熱いロシアンティーとトナカイの肉がいいな」

「両方ないよ!!特にトナカイなんて食べたこともないよ!?」

「無いならなんでもいいや」

「今作るから待っててね。あとそこら辺に転がってる奴らの汚物だけでいいから視界に入らないようにしておいてくれる?」

「えー」

「お願い〜」

「しょうがないなぁ〜」


ゆっくり腰を上げたイヴァンは奴らの脱ぎ捨てた服を汚い物でも触るかのように人差し指で摘んで下半身に放り投げた。


「ん〜……ハッ!!!ここは誰!!私はどこ!?」

「おはようございます本田さん。朝から古いギャグ言えるぐらいなら二日酔いは平気みたいですね」

「名前さん…おはようございます。って…どうして私、服を着ていないんですかぁあああ!?キャー!!ちょっ、名前さん見ないでくださいっ!!」

「見てほしくないのに何故こっちに向かって来るんですか!!」

「いやぁ、またとないチャンスかと…」

「なんのチャンスだよ!!さっさと服着てください服。シャワー浴びたいなら勝手に使ってもらって結構ですから」

「そうですね、ちょっと頭を冷やしてきます」

「是非そうしてください」


着物を羽織りバスルームへ向かう本田さんを極力見ないように朝ご飯の支度を済ませる。
これ食べたら部屋片付けなきゃなぁ…


「はい、イヴァン」

「ありがとう」


適当に盛り付けたサラダとベーコンエッグとインスタントのスープを机に置く。
ゴミ袋を広げててきとうに酒の瓶と缶を放り投げていく。


「はぁー…今日も片付けか…」

「トーリスに手伝わせようか?」

「できれば彼に休息を与えてやって…」


昨日の彼の話によると、色々苦労していると聞いた。できる事ならゆっくり休ませてあげたい。


「名前は優しいんだね」

「そうかな」

「そうだよ。僕にだってギルベルト君にだって優しくするでしょ?」

「イヴァンだって優しいじゃない」

「ふふふ。僕の優しさは見返りを求めてるからね」


イヴァンの言ってることがよく分からなかったけど、つまり彼は人に優しくする時は見返りを求めたいということなのだろか…


「それじゃあ私に優しくしたって無駄だよ。何も持ってないし」

「そう?名前はいいもの沢山持ってると思うな。自分を大切に思ってくれる家族や友人。すごく羨ましいよ」

「イヴァンには居ないの?」

「僕のは、創り物だから」


一瞬、イヴァンの表情から笑みが消えた。
なんだろう、この感じ…
きっとイヴァンは今まで自分以外の人間を心の頼りにしたことがないんじゃないだろうか。
過去の事をとやかく言うつもりはないけど私にできる事ならイヴァンの心の支えの一つになれたらいいな、なんて



「イヴァン」

「ん?」

「その朝ごはん美味しい?」

「うん。美味しいよ、スープはインスタントだけど」

「ねぇイヴァン」

「なぁに?」

「私は、イヴァンの事大切な友達だと思ってるよ」


面と向かって言うのはなんとなく気恥ずかしかった。
視線を手元に移し、またイヴァンの方へ戻すと彼は目を見開いて私を見ていた。


「本当に?名前が、僕の事を…?」

「うん。嫌?」

「嫌じゃ…ないよ。でもそんな事言われたの初めてで」

「私もこんな照れくさい言葉言ったの数え切れる程度だよ」

「ほんと?ギルベルト君にも?」

「あれはなんて言うか…身内みたいなもんだし」


気恥ずかしさにスープをごくりと飲むと、インスタントの為か安っぽい味が口の中に広がった。ちゃんと作れば良かったなぁ…。
名前を呼ばれて顔を上げると、照れくさそうな、それでいて曇りの無い笑顔のイヴァンが「ありがとう」と小さく呟いた。


「こちらこそ」

「名前は僕の親友だよね」

「え、いきなり!?まぁいいけど…」

「本当に、名前が名前で良かったよ」


その言葉の意味は分からなかったけど、まぁイヴァンが喜んでるならそれでいいか。

その後は、やたら機嫌のいいイヴァンと「名前さんのシャンプーをお借りしたので今の私は名前さんの香りに包まれています」と変態発言をさらりと言ってのけた本田さんに部屋の片づけを手伝ってもらった。
相変わらず四人は床に倒れたままだけど…まぁそのうち目が覚めるだろう。
そういえばトニーさんとフランシスさん、仕事とか大丈夫なのかな…
お昼過ぎにお客さんが来て、誰だろうと出てみるとロングヘアーの美人さんが居た。
「兄さんは何処。兄さんを出しなさい。さもなくば殺すわよ」となにやら凶器のようなものを突き出されてしまった。
なんなんだ、あのデンジャラス美女は!!
どうやらイヴァンの妹だったらしい。そういえばどことなく似てるなぁ…
私の背中にくっついてなかなか離れようとしないイヴァンを無理矢理妹さんが引き剥がして、イヴァンを肩に担いで何も言わずに帰っていった。遠くでイヴァンの叫び声が聞こえた気がするけど…気にしないでおこう。

夕食の準備をする頃に起き上がったトニーさんは「え…?今、何時?」と恐る恐る聞いてきたので「6時半ですよ」と教えると「うひゃぁああああ!!!バイト遅刻やぁああ〜〜!!!」と裸のまま外に出ようとしていたのを引き止めて、着替えとおにぎりを手渡すと「名前ちゃん…。な、なんや新婚さんみたいやな」と頬を染めていた。
いや、どこが新婚なのか全く理解できないよトニーさん。

ゴールデンウィークもあと二日かぁ…
明後日の母の日にはローデリヒさんのコンサートもあるし楽しみだなぁ。
鼻歌交じりに夕食の準備を済ませ、リビングに運びに行くとまたもや缶ビールに手を伸ばすギルとフランシスさんの姿があった。
「お前も飲めよ!!!」「そうだそうだ。飲んでお兄さんと楽しいことしない〜?」と悪酔いを続ける二人をベランダに放り出して鍵をかけてカーテンを閉めた。

はぁ〜…なんだかデンジャラスな一日だったなぁ…


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