「ギルー。ちょっと倉庫からバーベキューセット持ってきてくれない?」

「倉庫ってどこだよ」

「裏の庭にあるからさ。はいこれ鍵」

「へーへー」


3メートル程離れた場所に居る名前に投げられた寂れた鍵は俺の手に収まることなく手をかすめて地面に落ちた。
「下手くそ〜」と相変わらず単調な表情で嫌みったらしくそう言った名前を睨んでとぼとぼと裏庭にあるらしい倉庫へ向かう。


「倉庫倉庫…って、なんだよこれ!!古っ!ってゆーか倉!?」


なんか時代劇とかに出てきそうな…
重々しい雰囲気だな…何か出てきそうな


「ままま、まさかそんな事ないよなー!!さ、さっさと見つけて戻るか…」


錆びて回し辛い南京錠の鍵を開けて、そっと中を覗く。
裸の電球一個しか明かりのない倉はそれなりの雰囲気で…


「バーベキューセット!!セット!!!どこだよちくしょぉおおおお!!!!」


詰まれているダンボールを片っ端から開いていくが見つからない、ってゆーか本当にあんのかよ!?
恐る恐る奥に足をすすめると、”BBQ”と書かれたダンボールがあった。
よし、これだよな…
腰を下ろし中を確認すると確かにバーキューセットの姿がそこにあった。
そっこく立ち去ろうとダンボールを持ち上げるとダンボールの影に隠れるようにこれまた錆び付いたお菓子の缶のような物があった。


「何が入ってんだ…?」


なんとなく気になって、中を覗いてみるとそこには数十枚の写真と手紙が。
錆びの移った写真には名前によくにた女と名前の父親の若い頃であろう姿が写っていた。


「これって…。母親か?」


何か見てはいけないような物を見てしまった気がした俺は、即座に写真を戻してダンボールを抱え外に出た。

あいつの祖父母、もしくは父親はああやって名前から母親を断ち切ってきたのか。
母親の事軽く話してたように見えたけど本当は複雑なんだな…


「ギル遅い!倉庫で遊んでたのー?」

「別に…。ほら、これだろ?」

「それそれ。じゃあそれ洗って綺麗に拭いといて〜。私ちょっと買出しに行ってくるから、終わったらお爺ちゃんに墨入れてもらってね」

「お、おい!!」

「んー?なに?」

「さ、さっき倉庫で…」

「倉庫で…?」


言うべきか、言わないでおくべきか。
こいつだってもう大人だし今更母親の顔を知ったってなんとも思わないよな…
でも、今まで隠し通してきたであろうあの祖父母の事を思ったら到底俺の口から軽々しくいえたもんじゃねーよな…
やっぱり言わないでおくほうが…


「あぁ、もしかしてあのお菓子缶の中、見ちゃった?」

「へ?」

「写真見たんでしょ。私のお母さんの」

「お、お前知ってて…!!」

「知ってるよ。当たり前じゃん。まぁお爺ちゃんとお婆ちゃんが隠してるみたいだから見て見ぬふりしてたんだけどさ。だからあの二人には内緒ね」


小さい声で口元に人差し指を立てた名前はそそくさと買出しに出かけてしまった。


「ったく、なんなんだよあの反応の薄さは…」


わけわかんねー…




―――



「おじさん、お肉焼けたよ〜」

「おぉ〜名前ちゃんの焼いてくれたお肉おいちゃん食べたいなぁ〜!!」

「もうこの人ったら!名前ちゃん私がやるからあんたもお肉食べなさいな」

「ありがとーおばさん!」


ビールを飲みながらせかせかと働く名前をぼんやり眺めていると、隣に知らない男が腰をおろした。
誰だよこいつ


「お前、名前のとこで世話になってんだってな」

「それがどうした」

「男としてなさけなくないのかよ?」


ったくめんどくせぇ…。お前こそあいつのなんなんだよ。


「あいつは昔っから親も兄弟も居なくて一人ぼっちで…育ててくれた祖父母にも迷惑をかけたくないからって俺の親父の店で手伝いして小遣い貯めてたんだぞ。その金で大学に行ったんだ」


あいつらしいっちゃらしいな


「それをお前は…名前に迷惑かけてると思わないのか!?」


ギッと睨みつけられ、力の抜け切った俺は反論する気力もなく空になったビールの缶を握りつぶした。


「べつに。お前がどう思っていようとしったこっちゃねーんだよ。…それにあいつは一人ぼっちになんてなった事もねえ」

「お前に何が…」

「分かるかって?あいつ見てりゃそれぐらいわかんだろ、普通」


少し嫌味ったらしく言うと、男は腰を上げて立ち去っていった。
ったく…なんなんだよめんどくせえ…


「名前はああ見えて負けん気の強い子での〜」

「って、ジジイ!!いつの間にいたんだよ!?」

「誰がジジイじゃグレイト爺さんと呼べ!!」

「何がグレイトだどこがグレイトなんだよ!?」

「いいから黙ってワシの話を聞かんかい若造!!!」


脳天にチョップを入れられ、痛さに悶えていると、爺さんが静かに口を開く。


「名前には両親がおらず嫌な思いをさせた。だがあの子はちっともそれを苦に思ったことがないんじゃ。むしろ、周りに”可哀想な子”だと思われることを嫌ってのぉ。哀れに思われるのが一番嫌いだったんじゃ」

「そういえば最初に俺に家族の話したときもそんな事…」

「我が孫ながら頑固な奴じゃ。自分で決めた事は周りがどんなに反対しようと聞き入れない頑固者でのぉ」

「それは…言えてる」


何度眉毛野郎や周りの奴が俺を部屋から追い出せと言ってもあいつは聞き入れる事はしなかった。
いや、マジであの頑固っぷりは凄い。


「そのくせ弱い部分がある。ほんと扱いの面倒くさい孫じゃ」

「あぁ。おまけに暴力ふるうしやたらと強いし…」

「あいつが一人で泣いておったら助けてやってくれよ、ギルベルトや。ワシには遠すぎてどうにもできんからな」

「…」


なんだよ、ちゃんと名前呼べんじゃねーか。


「勘違いするなよ。大事な孫はやらんからな!どうしても言うのならこのグレート爺さんを倒してからにするんじゃぁああ!!」

「何も言ってねーだろ!!ったく、言われなくらって分かってるっつーの…」

「孫はやらんぞ!!」

「うるせージジイ!!でけー声出すな!!」

「こらそこー。何騒いでんの。悪酔いしたら庭に埋めるよ?」

「このワシまで埋めるというのかこの馬鹿孫!」

「あぁん?誰だろうと人様に迷惑かける身内は許しちゃおけねーんだよ。頭に花でもさかせてあげようか?」

「婆さん!!名前が反抗期じゃ!!」

「うるさいですねぇお爺さん。お爺さんの嫌いな納豆枕に詰めてもいいんですよ?」

「おぎょはぁあああ!!それだけはやめろといつも言っておるじゃろぉおお!!」

「また爺さんおばさんに怒られてら〜懲りない人だねぇ」

「仲がよくていいじゃないか〜」

「さぁどんどん飲むぞ!!誰か酒買ってきてくれ〜!!」

「あーあとつまみになる物もな〜!!」

「ギル、ひとっ走りして行ってきて」

「はぁ!?なんで俺なんだよ!?」

「おぉ、名前ちゃんの世話してやってる兄ちゃんが行ってきてくれるらしいぜー!」

「あーあと煙草もきれたからたのむわ。マルボロな」

「ちょっ、誰も行くなんていってねーよ!!」

「ギル、ダッシュ。3分以内ね」

「ちょっ、無理だろ!ここからコンビにまではしっても10分は…」

「いいから、行ってこい。秒読みカウントダウンスタート〜。180〜179〜178〜」

「いや、無理無理無理無理!!」

「走れプー太郎ーっ!!」

「男の根性見せてやれーっ!!!」

「無理なことぬかすなオッサン!!!」


その後無理矢理コンビニまで走らされた俺は、大量の酒とつまみを抱えて30分後に戻ってきた。
名前に何を言われるかと内心冷やひやしてたけど、いつのまにか酔いつぶれたのか縁側で眠っていた。
買い物袋からビールを一本取り出し、名前が眠っている横に腰を降ろして半分ぐらいまで一気に飲み干す。

なんだか今日はこいつの知らない部分に触れたような気がするな…。
家族、か…。
あいつは今何してんだろ。元気でやってるならそれでいいよな

どこか遠くに居るだろう弟の事を思ってぼんやり空を見つめていると、隣で名前が小さく「んー…アーサ〜…」と呟いた。
え…?ちょっ、アーサーって…!!なんであいつの名前が出てくんだよ!!あいつが夢の中に出てきてるってことか…!?
ま、まぁ別にそれぐらいでうろたえる事ねーし!?はは、ハハハハ…!!


耳元で「ギルベルト」と呪文のように三回唱えると今度は「ギルー…吊るす…」と呟かれたもんだからなんだか泣きたくなった。



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