「お爺ちゃーん!ただいま〜。やっぱり畑に行ってたんだね」


居間に戻ると、お茶をすすっている祖父の姿があった。


「おぉ〜名前かのぉ〜」

「元気そうだねーお爺ちゃん」

「の〜…。なんじゃいその後ろにおる白い頭のやつは」

「白っ…!?」

「爺ちゃんこれは白じゃなくて銀というか…。まぁ分からなかったら白でもいいや」

「よくねーよ!!」

「爺ちゃん。こいつは私の家で世話してやってるギルベルトって言って…」

「ポチ!!!」

「ポチじゃねぇええええ!!!なんなんだよこのじじい!!」

「爺じゃねえワシはその昔走り屋のゲンちゃんと呼ばれておったんじゃぞ!!」

「それだったら俺だって昔は近所では負けなしの喧嘩大将だったぜ!」

「走り屋とか喧嘩大将とか古いんだよ!!若い子がついていけないからやめて!」


ギルが小さく「ボケてんのか?」と耳打ちしてきたので「昔からあんな感じ」と小さく返しておいた。


「ワシまだボケる歳には早いぞポチ!」

「だからポチじゃねぇつってんだろしばくぞジジイ!!」

「名前〜!!ポチがワシを苛めるんじゃぁあ〜!!年寄りを労わってくれんのじゃ〜!!」

「じゃあ私は近所に挨拶でも行ってくるね」

「待たんかい糞孫ぉおおお!!」

「んだよやんのか禿げ爺」

「ちょっ…お前借りにも老人に向かって…」

「今その老人に向かってしばくとか言ってたの誰だよ」


誤解してほしくはないが、これが私の祖父なりのスキンシップというやつだ。
憎まれ口を叩きながらちゃんとお互いの事を思っての事なのである。


「ポチ。畑行くか畑」

「いかねーよ。汚れるだろ。つかポチじゃねえ!!!!」

「お爺ちゃん名前を覚えられないのは全部ポチなんだよね」

「ポチ行くぞ〜」

「なんで勝手に話進めてんだよ!?誰も行くとか言ってねーし!!」

「行ってきなよギル。帰ってくる頃には晩御飯も用意できてると思うし。暇つぶしだと思ってね?」


夕焼けの光に反射し、キラキラと透き通るギルの髪を撫でて「ね?」と首を傾げると「お、おぅ…」と顔を背けて小さく頷いた。
煩い二人が居なくなってくれた方がこちらとしては晩御飯の準備もはかどって助かるんだよなぁ。
家のすぐ裏にある広い畑は夏なんかには沢山の野菜が採れる。今は春キャベツや苺なんかもあるのかなぁ…。

夕焼けと山の匂い乗せられて体がゆらゆらと揺れた。

やばい、寝ちゃいそう…


まぁお婆ちゃんが帰るまで寝ててもいいかぁ…
ちょっとぐらい寝てても大丈夫だよね

久しぶりの実家で、なんだか心も体も安心したかのように体が休まっていく。

うん、やっぱりこの畳の匂い、落ち着くなぁ…


薄れていく意識の淵で、遠くからギルの声が聞こえた気がした。
だけどそれすら心地よくて、やがて意識は途切た


次に目が覚めるのは日付も変わった次の日の朝だなんて事、この時の私は知る由も無い。






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