「まずこの特急電車で三駅後に降りるでしょ〜。そのあとは各停電車に乗って4駅行った所が私の故郷だよ!」

「へぇ〜。つかビール飲んでもいいか?」

「だめに決まってんでしょーが。せめて特急降りてからにして。すぐについちゃうんだからね」

「喉かわきすぎて死んじゃうぜー!」

「ったく…。私の鞄の中にお茶のペットボトルあるから。半分ぐらい飲んじゃってるけど」

「それは要らない」

「なんでだよ!?」


窓際に座ったギルは景色など楽しむ気がまったくないのか、ゲームに夢中になっている。
いい年した男がゲームに夢中になるって…。小学生ですか。

それにしても、早いスピードで後ろに流れていく景色を見ていると「あぁ、帰るんだなぁ」なんてしみじみ思ってしまう。
お正月休み以来の実家。
三泊する予定だし、いっぱい親孝行しないとね。
気がかりなのはギルの事ぐらいか…
まぁ二人ともいい人なんだし分かってくれるよね。


「ついたよギル。乗り換えするよ、乗り換え」

「ぐー…」

「って寝てるぅううう!?ちょっ、起きんかいアホぉおお!!!」


お土産の入った袋でギルの頬を殴りつける。
やばっ…お土産ぐちゃぐちゃになってないといいけど
「いでぇ!」と頬を押さえるギルの手を引っ張って電車から降りる。


「普通殴るか!?」

「ギルが寝ちゃうのが悪いんでしょ。すぐに着くって言ってんのに」

「朝早かったんだかから仕方ねーだろ!あーもうこれ絶対赤くなってる…」

「女々しい。ほら、さっさと乗り換え行くよ〜」


頬を撫でるギルに重い荷物を持たせて背中を押す。
「重い」だとか「だるい」だとか文句を言いながらもちゃんと荷物を運んでくれるあたりはちょっと男らしいぞ、ギル。
乗り換えの電車に乗り、ゆっくりと一定のスピードでカタンコトンと揺れるリズムが懐かしく思えた。

高校時代は毎日この電車に乗って学校まで行ってたんだよなぁ…。
景色が田舎になるにつれ、自分の心もなんだか癒されていくような気がした。

なんてったって私の育った場所だからね。


「ついたーっ!!」

「うっわ…。田舎〜」

「やっぱりのどかで落ち着く〜!」


山々に囲まれ、この季節特有のそよそよとした風がふいている。
うん、帰ってきたなぁ。


「ここから家まで歩くと三十分はかかっちゃうからタクシーにでも乗ろうか」

「三十分!?ちょっ、どんだけ離れてんだよ!?」

「たいした事無いじゃん。まぁ今回は荷物も多いし特別ね」


駅近くにあるタクシー会社へ足を運ぶ。
昔ながらの従業員も少ない地元のタクシーだ。見慣れたおじさんに軽く挨拶をし、車を出してもらって家の近くまで送ってもらった。
「お代はいいよ」なんて笑うおじさんと「いえいえちゃんと払いますから!」と無理矢理お金を払う私の攻防戦を繰り広げられたが、結局おじさんは逃げるように手を振って帰ってしまった。


「おっちゃーん…」

「いいおっさんじゃねーか」

「そうなんだけど…なんだか悪いなぁ」

「いいんじゃね?好意はありがたく受け取れとかお前言ってただろーが」

「ちくしょう。いらん事ばっか学習しやがって」


家までの道のりをうだうだと歩いていく。
この辺りは昔から変わらない…と言いたいところだが、ちらほらと見覚えのない新しい家が建っていたり、見慣れない車が路上に止まっていたり。
少しずつ、気付かないうちに変わっていくもんだなぁ


「ついたー!ここが私の実家!!」

「うっわ…」


本田さん家のようにどんと構える純和風住宅。
まぁ本田さんみたいに今時の住宅が並ぶ中にポツンと目だってしまう事も無く、いたって普通の家だ。


「ぼろい…」

「言ったな。誰もが暗黙の了解で言わない言葉を言ったな貴様はぁぁあああ!!!」

「だってそうだろ!?うわー、こんなの写真でしか見たことねー…。風呂とか牧使ってんだろ!?」

「嘗めてんのか全自動だ馬鹿野郎。ちなみに去年トイレもリフォームして蓋まで自動で開くぞコラ」

「無駄な最新技術っ!」

「言うな」


ギルの頬を軽く抓り、年中昼間は鍵を掛ける事の無い玄関の扉を開く


「ただいま〜!」


大きく息を吸い込むと懐かしい匂いがする。あぁ、帰って来たー!!


「あらまーお帰り〜名前!」

「ただいま〜お婆ちゃん!!」

「ちょっとアンタまた痩せたんじゃない〜?ちゃんと食べてんの?まった甘いものばっか食べてちゃんと料理してないんでしょ!」

「してるって!も〜心配性だなぁ…」

「親ってのはそんなもんさね」


優しく私の髪を撫でたお婆ちゃんは嬉しそうに笑う。
元気そうで良かった〜!!


「あれま!そのおっとこまえのボクちゃんは誰なの!?まさかあんたぁぁああ!!」

「いや、違うからね。勘違いしないでね」

「あら、それ最近巷で流行ってる”つんでーれ”とか言うやつ?あんまり流行に流されちゃダメよ〜」

「違うから。ツンデレでもヤンデレでもないから。こいつはギルベルトって言ってね。つい二ヶ月ほど前に拾ったの」

「ど、ども…始めまして…?」

「もーあんた拾い食いはだめよ!」

「拾い食いってなに!?ちょっ、それ下ネタ!?やめてよ婆ちゃん!!」

「あんた相変わらず初心ね〜。死んだ父さんにソックリになっちゃってまぁ…」


おほほほと笑って自分の世界に入ってしまう祖母。
流石のギルも祖母の気迫には負けたのか、何も言えず固まっている状態だ。


「ともかく私が面倒みてやってんの。プー太郎」

「あらまぁ。プーちゃん?」

「ぷーちゃっ…!?」

「さぁプーちゃんもお上がんなさい。今羊羹持ってきてあげるからねぇ」


ギルの背に手を添えて優しく家の中に招くおばあちゃん。
少し戸惑ったギルだったが祖母には何も言えないのか何も言わず靴を脱いで家の中に入る。


「お爺ちゃんは?」

「さぁ。その辺に居なかったら畑じゃないかしら?」

「そっか。後で見に行ってみる」

「プーちゃんほんとに可愛い顔してるわねぇ。むふふ、婆ちゃんもあと20歳若かったら…」

「20歳若くても40代じゃん」

「熟女はお嫌いかしら〜?」

「…えっと…あの、」


によによとギルをからかう様に手を握る祖母に内心「流石だ」と感心しながらギルに助け舟を渡してやる。


「ギルはボインが好きなんだよ」

「なっ…お前!!」

「あっら。じゃあ名前はダメなの?夜はチョメチョメな事してないの?」

「チョメチョメって…。ないから。まず無いからね」

「プーちゃん。あんな事言ってるけど本当?」

「ななな、何もねーし!!」

「あらまぁ。二人とも初心ねぇ。婆ちゃんが若い頃は爺ちゃん以外もはべらせてたもんだよ〜?」

「うん。爺ちゃんも同じ事言ってたよ」

「うそ。あの糞ジジイ締めてやろうかね」

「死ぬからね!逝っちゃうからね!!」


本当に相変わらずだよこのばーちゃんは…。
ギルも緊張の糸が解けたのか、足を伸ばしてリラックスしている。
「ちょっとみりん買ってくるから婆ちゃんの居ない間にニャンニャンな事しちゃダメよ〜」とによによ笑いながら出かけた祖母に空笑を飛ばし、自分もリラックスしようと畳の上で手足を伸ばした。


「はあ〜。落ち着くー…」

「お前の婆さんすごすぎだろ…」

「でしょ。なんてったってあの本田さんをも黙らせる貴重な人材だからね」

「マジかよ!?恐るべし婆さん…」

「お爺ちゃんもなかなか凄い人なんだけどなー。畑に見に行ってみようか?」

「いい。めんどくせーしだるい。どうせ後で会えんだろ?」

「それもそうか。あ、そうだ。今日からギルは私の隣の部屋で寝てね〜」

「隣?」

「うん。お父さんの部屋なんだけど綺麗に掃除してあるから」

「…」

「そんな顔しなくても別にお化けとか出ないから安心して。なんなら仏壇の部屋で寝る?」

「ばっ…それだけはやめてくれ!!」


この歳になっても仏壇の部屋ってなんか怖いんだよなぁ。なんでだろ。
お土産などの荷物を居間に置いて、後の荷物を持って二階へと昇る。
相変わらず軋むなぁ、この階段。


「こっちが私の部屋で〜こっちがギルの使う部屋」

「って、繋がってんじゃねーか!!」

「繋がってないよ襖があるじゃん」

「襖って…!!」

「昔の家なんてこんなもんだよ。布団とかも用意してあると思うから適当に使ってね〜」


ポンとギルの肩を叩いて襖一枚隔てられた向こうの部屋に入る。
うん、私の部屋だ。


「綺麗に掃除してあるなー…」


おばちゃんがちゃんと掃除してくれてる証拠だ。掃除好きだもんなぁ、お婆ちゃん。


「ねぇギル。後で本田さんに電話しておいてくれない?明日ぐらいにマンションの部屋の空気を入れ替えに言ってもらう予定なんだけど鍵渡すの忘れててさ。本田さん家のポストに朝早く入れておいたからーって」

「自分ですりゃいいだろ」

「それが携帯の充電がないんだよなーこれが。昨日充電し忘れて今回復中なのだよ」

「めんどくせぇ…」

「いいから頼んだよ。荷物が置けたらさっさと下に降りてゆっくりしようよ。ちなみにテレビは居間にしかありませんから。そのテレビも只今故障で修理中らしいよ」

「マジかよ!?」

「マジだよ」


さぁ、テレビっ子のギルがこの四日間を乗り切れるか楽しみだな






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