「それじゃあ行ってくるねーギル。本田さん家で迷惑かけたらダメだよ?あと病み上がりなんだから無理しないこと」

「わーってるっつの。お前こそ年下ナンパしてくんなよな」

「まーだ言うかこの口は。いっぺん縫い合わせた方がいい?」

「いひゃいいひゃ!!!やふぇふぉおおお!!」


ギルの頬をぎゅっと伸ばすと舌足らずな言葉で反抗される。
ったく、本当に学習しない奴だな…


―――



「ここがアルフレッド君とマシュー君の通ってる大学か〜…」


大きい大学だなぁ…。確かここでヘラクレスさんも働いてるんだよね…。
なんだか緊張してきたなぁ〜


「えっと、確か視聴覚室に持ってきてって言われてたよね…。って言うか勝手に入っても大丈夫なのかなぁ…」


まぁ幸い今日は祝日で人も少ないから大丈夫だよね。
それにしても広い敷地だから迷わずに辿り着けるかなあ…


「名前…?」

「あ、ヘラクレスさん!!!」

「こんな場所で、何してる?」


相変わらず眠そうな表情をしているヘラクレスさん。


「ちょっと知り合いの子の忘れ物を届けに。ヘラクレスさんはお仕事ですか?」

「ちょっとやらなきゃいけないことがあって…」

「そうですかー。大変ですね」

「本当は家で昼寝してたかったけど…サディクの奴が煩いし」

「アハハ。また喧嘩したんですか?仲悪いですねーほんと」

「たまに顔を合わせるのも嫌になって家出する事もある」

「そ、そんなに仲悪いんですか…」


なのにどうしてずっとあのアパートに住んでるんだろう…。本当は仲良くしたいのに素直になれないだけじゃないのかなぁ…


「あ、そうだ!ヘラクレスさん視聴覚室ってどこだか知ってます?」

「知ってる」

「申し訳ないんですけどどこだか教えていただけないですか?忘れ物を早く届けてあげないと困っちゃうみたいで…」

「分かった。付いてきて」


あれ…わざわざ案内してくれるのかな。
教えてくれるだけでよかったんだけど…まぁここはヘラクレスさんに甘えておこう。
「ありがとうございます」と小さく頭をさげると、薄っすら笑って頭を撫でられた。
また撫でられちゃったよ…うーん、これは子供扱いされているのではないだろうか…。
まぁヘラクレスさんだし…それにヘラクレスさんの手って大きくて暖かいからなんだか落ち着くんだよね。
何も言わないで大人しく撫でられておこう



「ここが視聴覚室」

「わー!!ありがとうございます!私一人じゃ辿り着けなかったですねーここは…」


校舎の奥に潜むようにある視聴覚室。
中からは「よーしそれじゃあ今日も頑張るぞぉおお!!」と元気なアルフレッド君の声が聞こえてきた。


「失礼しまーす…」

「OH名前!!!来てくれたんだな!!本当に嬉しいんだぞぉおお!!!」

「ぎゃぁあああ!!ギブ!!ギブギブぅう!!」


目を輝かせて私に突進したアルフレッド君はその腕で私を力強く抱きしめる
く、苦しいぃいい!!!なんつー馬鹿力なのこの子ぉおお!!!


「それ以上やったら…ダメ」

「OH!!ヘラクレスじゃないか!!どうして君がここに居るんだい?いつもは必要以上大学に居たがらないくせに!」

「名前を案内してた。あとそれ以上締めたら名前が死んじゃうから、やめて…」

「あ。ごめんよー名前!」


DDDDと笑って腕の力を緩めるアルフレッド君。危うくお花畑が見えてしまうところだった。


「ん?そういえば名前とヘラクレスって知り合いだったのかい!?ずるいじゃないか!!抜け駆けだぞヘラクレスー!」

「抜け駆けじゃない。でも名前は好き」

「んもぉおお!!!それが抜け駆けって言うんじゃないか!!!」

「こらこら騒がないのアルフレッド君。ヘラクレスさんの言ってる好きはアレだよ、”あ、私このジュース好き〜”みたいな」

「例えが分かりにくいよ!!」


むぎーっと地団駄を踏むアルフレッド君。
っていうかこの子はヘラクレスさんの事呼び捨てにしちゃって…
若くても一応教授なんだからね!分かってんのかなこの子はー…


「気をつけたほうがいいぞ、名前。大人しそうに見えてヘラクレスはエロい事しか頭にないんだからな!」

「違う。猫と哲学も」

「エロは否定しないんですかヘラクレスさん…。ってゆーか今私の中のヘラクレスさんのイメージ音をたてて壊れましたよ」

「気持ちいい事はいいことだと思う…。ダメ?」

「いや、ダメじゃないですけど…ってゆーかあんまり未成年の前でそういったネタは…」

「名前は堅すぎるんだよ!もっとオープンにいかなきゃダメだぞ!」

「頼むからフランシスさんみたいな事言わないで…」

「HAHAHA!!俺とマシュー小さい頃によくあいつに遊んでもらってて余計な知恵まで付けられたから仕方がないんだぞ!!」

「あいつのせいかぁあああああ!!!ちくしょーあのオッサン純粋な子供に何教えてんだよ!!!今度あったら一発殴っとかなきゃなぁ…」

「HAHAHA!俺も手伝うぞ!」

「あれ、そういえばマシュー君は?一緒のサークルじゃなかったの?」

「あれ、そういえば何処に行ったんだろう?来るときは一緒だったはずなんだけどなー…」

「あの、名前さん…さっきから僕ここに居ますよ…」

「ま、マシュー君!?あ、アハハハー…ごめんね、ちょっと興奮しちゃってて気づかなくて…」

「ったく本当にマシューは影が薄いな!!」


少し涙目になって「ひ、酷いよアル〜!!」とポカポカアルフレッド君を殴るマシュー君。全く効いていないのか、相変わらずアルフレッド君は「HAHAHA!!」と笑っている。


「あ、そうだった。これ来る途中買ってきたんだけど、差し入れにどうぞー」

「うわぁ〜!!シュークリームかい!?美味しそうだなぁ!」

「私の大好きなケーキ屋のシュークリームなんだ〜。サークルの皆さんの分も足りるかな?」

「充分すぎて余っちゃうぐらいだよ!」

「そっか。あ、良かったらヘラクレスさんもどうぞ」

「うん。一つもらう」

「わ〜!ありがとうございます名前さん!」

「うん!それじゃあ用も済んだしそろそろ帰るね〜。活動の邪魔するのも悪いし」

「また来てくれよ名前!俺達の作る映画の感想も聞きたいしね!それから次の差し入れはアイスがいいんだぞ!」

「そっちが本音か!はいはい分かりましたよ〜。今度はアーサーと一緒に来るからね」

「うん。それはいらない」

「コラ」


本当に仲が悪いと言うか…
サークルのメンバーの人たちにお礼を言われながら小さく手を振って部屋を後にした。
校舎の外でヘラクレスさんともお別れをし、「今度私の家にも遊びにきてくださいね!」と伝えると嬉しそうにまた私の頭を撫でて、今度は「名前はネコゴロウサン」とわけの分からない言葉を発してそのままどこかへ消えていってしまった。
ね、ネコゴロウサンって何…?





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