「ギルベルトさん。君料理とかできる?」

「マッシュポテトぐらいならできるぜ」

「わー。役に立たねぇ。それじゃあ掃除は?」

「さぁな」

「そんじゃぁ洗濯か皿洗い」

「手が荒れるじゃねーか」


こいつどっかのボンボンか…?

ともかくこれから一緒に暮らす以上家事なんかは手伝って欲しいところだ。
お前のパンツ洗ってんの私なんだぞ、こら


「よーし。それじゃあまず掃除と洗濯を覚えてもらおうかな」

「は!?何で俺がそんな事しなきゃなんねーんだよ!?」

「ここに居たいなら従え。主は私だ」

「女のくせに亭主関白かよ!!」

「男のくせに養ってもらってる奴に言われたくないね。ほらほら立って!!掃除から始めるよ!!」

「うわっ、引っ張るな馬鹿女!!俺様が掃除なんてかっこ悪い事するわけないだろーが!!そんな下働きみたいなことはお前のほうがお似合いだぜーガハハハ!!」

「……寝耳にビール」

「すいませんでした」


よっぽど寝耳にビールを入れてやった事が堪えたのかすんなり立ち上がり背筋を伸ばしているギルベルト

よし、今日は休みだし徹底的に教え込むぞ!!


「掃除の極意!!まずは掃除機でフローリングの細かいゴミを抹殺するぞ!!」

「おう」

「それから私のことは教官と呼べ!」

「…お前たまに変なキャラが舞い降りるよな」

「え、そうかな?」


掃除機を持ったギルベルトはスムーズに床を滑らせ細かいゴミをとっていく


「なんだ、できるじゃん」

「これぐらいの事誰だってできるぜ」

「ほーぅ。それじゃあ次は私の寝室もね。その後はお風呂場の掃除」

「ここだけじゃねーのかよ!?」

「当たり前。家中綺麗にできないと晩御飯にビールつけてやらないからね」

「当分ビールは飲みたくねぇ…」

「耳から飲んだもんね」

「お前のせいだろお前の!!!」


あーもういつか絶対殺す!とぎゃぁぎゃぁ文句を言いながら掃除機かけるギルベルト

うんうん、この分なら普段ギルベルトに任せても大丈夫かな


「寝室も終わったぞ」

「んじゃ次お風呂ね。説明するからおいでー」

「ったく…」




「それじゃあまず腕と足の袖捲くっておこうか。濡れたら困るし」

「おぉ」

「スポンジに洗剤をつけてゴシゴシこするんだよ。はいやってみて」


きゅっきゅっきゅ


「わー上手上手」

「馬鹿にしてるように聞こえるのは気のせいか?」

「気のせいだよギルベルト君。あはははー。プライド高い君がまさか風呂洗いするなんてねー」

「お前がやれって言ったんだろーがぁあああ!!!」

「うわっ!!ちょ、スポンジ投げるな!!スポンジに謝れ!!」

「謝るか!!あああああ!!なんでこの俺様がこんな事しなきゃなんねーんだぁあああああ!!」

「キレちゃったよこの子!!ったく最近の子はすぐキレるから嫌!!今更遅れてきた反抗期ですか!?」

「最近の子ってテメェ俺と同じ歳じゃねーかぁぁあああ!!」

「大声出せば怯むとでも思ってんの?これだから男って奴は…」

「この女…!!」

「終わったらシャワーで流しといてね。あとこっちのスポンジで床も磨いておいてねー」

「なっ!!テメェは何処行くんだよ!?」

「暇だしアーサーのとこにお喋りに行ってくるよ」

「人に押し付けといて自分は彼氏とイチャつこうってのかよ!!」

「私は普段働いてるだろーが。たまには休ませてよ。つか彼氏じゃねーし」

「はぁ!?彼氏じゃないって…普通隣人とあんなに仲良くしねーだろ!」

「そこつっこむんかい。アーサーとはここに入居した時期も同じだったし歳も同じだから仲良くなっただけだっつーの。余計な事考えてないで手動かせ」


それじゃあね、とひらひら手を振ってニヤリと笑えば悔しそうに私を睨むギルベルト
ギルベルトに睨まれたって全然怖くないっつーの

さて、私はアーサーのとこ紅茶でもいただこうかなー


―――


「ただいまー」

「見ろ糞女!!!」

「うお!?」


夕方。アーサーの部屋で久しぶりにゲームをやっていた私はすっかり時間を忘れて夢中になっていた
時間に気付き慌てて戻ってみると、玄関を開けるなり突然ギルベルトが駆け寄ってきた


「どうだ!!!これが俺様の実力だぜ!!!」

「え…うそーん」


夕焼け色に反射しているリビングはキラキラと輝いていて、曇り一つない


「え…もしかして雑巾がけもやってくれたの?」

「おぉ。来いよ!!お前の部屋も片付けてやったぜ!!」

「ええええぇ〜…」


上出来だ。私のベッドの上に散らばっていた雑誌まで綺麗に本棚に収まっている。
しかも埃一つ無い


「ううぅ…ギルベルトォ!!あんたやればできる子だったんだね!!母さん感激だよ!!」

「誰が母さんだ。フッ。まぁこのギルベルト様の腕にかかればこれぐらいどうってことねーよ」

「うわーナルシスト。でも許しちゃう」

「晩飯は俺の好物にしろよ」

「分かってるって!!これからも掃除はギルベルトに任せようかな〜。だってこんなに綺麗にしてくれるんだもんね!プロだよプロ!!」

「ま、まぁやってやらないこともないぜ」


うんうん!!ギルベルトがこんなに頑張ってくれるなんて本当に嬉しいなぁ〜!!

それにしてもコイツ褒めて伸びるタイプなのだろうか…
この調子でおだててやれば色々使えるかも


「ギルー。洗濯物たたんでくんない?」

「はぁ?」

「だってギルベルト手先器用だし?私なんかよりギルベルトがやった方がいいと思うんだよね〜」

「しょ、しょうがねーな…。器用でかっこいい俺様がやってやるぜ」

「わーかっこいいギルベルト〜!!」


うん、単純な奴で良かった。


ピンポーン


「はーい」

「お荷物でーす」

「あー来た来た。ギルベルトそこ退いてて」

「は?」

「すみませんこっちにお願いします」

「分かりました」


宅配サービスのお兄さん達が運んできたのは大きな家具。
ギルベルトは目を丸くしてそれを見ていた


「古いものは持って帰ってもよろしいですか?」

「はい」

「それでは失礼しまーす」

「ご苦労さまでーす」


お兄さん達を見送り振り返ってみると、さっきと同じ、ぽかんとした表情でリビングに置かれたソファをギルベルトが眺めていた


「これね、こうやるとベッドになるんだよ。ソファベッドって奴」

「お前…」

「前のソファじゃギルベルトが寝づらそうにしてたからさ。うち家具関係の会社だし社員販売で安く買えちゃった」

「俺の為かよ…」

「うん。これ買ってあげたんだからこれからも掃除手伝ってよね」

「名前…」


あ。

きっと今の私はマヌケな顔をしているのだろう。
だって、ギルベルトが私の名前を呼んだのなんて初めてだったから、正直驚いた。

いつもは”おい”だの”テメェ”だのって、名前をちゃんと呼んでくれなかったもんなぁ…
これで少しはギルベルトとの距離も短くなったのかもしれない



「名前…」

「なーに、ギルベルト」


あはは。
名前を呼び合うなんて、なんだかくすぐっt「どうせならベッド買ってくれれば良かったんじゃねーか?つかお前がこっちで寝ろよ。俺には小さすぎるぜ」


前言撤回。

少しでも見直した私が馬鹿だった


「こんのプー太郎がぁああああ!!!!」





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