「…」

「ど、どうだよ…?」

「お、美味しい…」

「ぃよっしゃあぁあああ!!!ついに、ついに俺はやったぜぇええええ!!」

「ぎ、ギルゥウウウ!!よくぞここまで…よくぞここまで成長してくれたなギルぅううう!!!!」


お箸を茶碗の上に置いて立ち上がり、ギルの体をぎゅっと抱きしめる。
あぁ、よくぞここまで来た…ギルと暮らし始めて早二ヶ月。まさかここまで来れるだなんて思ってもいなかった…!!


「ギル…母さん嬉しい」

「誰が母さん!!つか離れろよ馬鹿…!!!!」

「いいじゃん、抱擁だよ抱擁!さぁ母の胸に飛び込んでこーい!!!」

「と、飛び込むならエリザぐらいでかい胸のほうg「よーしそこで待ってろ。今朝アーサーが持ってきたスコーン食わせてやるからな」おおおおい!!それはダメだろ!?いくらなんでもそんな拷問は酷すぎだろ!!」

「まぁそうだよね。スコーンはね…」


それにしてもギルが作ったこの卵焼き…
本当によくできてるなぁ。最初は卵も割れなかったくせに…。あれ?なんだか目頭が熱いや…


「グスッ…」

「なななな、何泣いてんだよお前!?」

「な、なんでも無いってばよ!!」

「無いってばよ!?なんでNA○UTO!?」


―ピンポーン


「あ、お客さんだ。はいはーいどなたですかー!」

「お前なぁ…切り替え早すぎだろ」


上がりきったテンションを落ち着かせて玄関へ向かう。
扉を開くと、薄地のカットソーに黒のパンツというラフな普段着を着たアーサーが立っていた。


「グッドアフタヌーンアーサー!!どうしたの?」

「お前こそどうしたそのテンション!」

「あ、ごめんごめん。切り替えきれてなかった。ちょうど今ご飯食べてたとこだよー。アーサーも食べてく?」

「あぁ。いつも悪いな」

「いいっていいって。しょっちゅう色々奢ってもらってんだしこれぐらいしないとね〜」

「ん。…お、おい…ちょっと待て」

「んー?」


リビングへ戻ろうとする私の腕を掴むアーサー。
振り返ってみると、至近距離で顔をまじまじと見られた。
な、なんなのこの子…!?


「ななな、何アーサー…」

「お前…泣いたか?」

「へ?」

「目に涙浮かんでるぜ」


私の目元に親指を添えて険しい顔をするアーサー。
あぁ、さっきあまりの感動で目が潤んじゃったからなぁ…


「あぁー…ちょっとね。さっきギルが…」

「あんの不憫野郎ぉおおおおおお!!!!」

「ちょぉおお!!アーサー!?ちがっ!!待てこらぁああああ!!!」


ずかずかとリビングに入って行くアーサーを必死に抑える。


「ギルが卵焼き作ってくれて、美味しくて感動して泣いただけだから!!」

「…はぁ?卵焼き…?それぐらいで感動して泣いたのかよお前…」

「だってギルの成長を喜ぶのは私の役目でしょ」

「お前は母親か…!?」


別にいいじゃん、と少しむっとしてキッチンに入る。
アーサーの分のご飯も用意して運んであげると、ギルと睨みあっていたのか鋭い目つきをしていた。


「こら。そんな顔しないの。せっかくの眉毛が台無しでしょ?」

「眉毛ってなんだよ折角の眉毛って何!?お前たまにわけ分かんない事言うよな!」

「いいじゃん別に。私だってボケたい時あるんだよ。いっつも私につっこませやがって」

「おい名前。俺のビールしらね?」

「目の前に置いてあんだろーがテメェはボケた爺さんか!!」


大きくため息をついてギルの作ってくれた卵焼きに手を伸ばす。
あぁ、横からすっごい視線感じるんですけど…。ギルが見てるよギルが…。もしかしてこれ一口食べる度に褒めなきゃダメ?
子育てって難しいんだなぁ…


「ほんっっとうに美味しいねーこれ!」

「はっ。まぁ俺様の作った卵焼きだから当たり前だぜー!」

「マジかよ?俺にも一口…」

「お前は食うな!!味オンチがうつるだろ!」

「なんで俺が食ったら移るんだよ!?わけわかんないんだよお前は!」


ったくまた喧嘩始めちゃったよ…。
仲が良いんだか悪いんだか…


「ん…?おい名前。お前の携帯鳴ってないか?」

「んー?あれ、ほんとだ。誰だろう」


携帯を開いてみると、画面には”アルフレッド君”の文字と、何かのヒーローのポーズをきめたアルフレッド君の写真が映っていた。


「もしもし?」

『Hi名前!!!俺だよ俺!!俺俺!!』

「なんかすっごい俺俺詐欺みたいだからその言い方やめようね!!!」

『HAHAHA!!あのさぁ名前、この間君の家に遊びに行っただろ?その時に君の家に大事なもの忘れてきちゃってね!どこかで見つけなかったかい?』

「忘れ物?」

『今度作る映画用のデータが入ったUSBメモリースティックなんだけど、あれがなきゃ映画製作に取り掛かれないんだよ〜!!!明後日にどうしても必要な大事なデータなんだ!!』

「USBのメモリーねぇ…そんなものあったかぁ…」

『おねがいだよ名前ーっ!!!確かに君の家に忘れたと思うんだ!!菊と盛り上がってて、ジャンプしたりキックしたりしてヒーローポーズを研究してたからその拍子に落としちゃって…!!それで机の上に置いておいたんだよ!!』

「それで忘れて帰っちゃったってわけか…。明後日必要なんだよね?私が届けに行こうか?」

『いいのかい!?』

「いいよー。明日でいい?」

『うーん…明日はちょっと用があるんだよなぁ…。あ、そうだ!!明後日は祝日で君も休みだろう?大学まで届けに来てくれよ!!』

「大学まで?」

『あぁ!!俺はサークルがあるから休日でも学校に来てるんだぞ!!』

「そっかー分かった。それじゃあ明後日届けに行くよ」

『かたじけないんだぞー名前!!!』

「どういたしまして」

『それじゃあ明後日、よろしく頼むよ!!』

「はいはーい!」


電話を切り、携帯を閉じて辺りをきょろきょろと見回す。


「ねぇーギル。この間アルフレッド君が来た日にUSBのメモリースティック机の上に置いてなかった?」

「あぁーあったな。確かこの辺に…」


どうやら掃除をした時に見つけてどこかに仕舞っておいたらしいな。


「これだろ?お前のかと思ってたぜ」

「これこれ。明後日アルフレッド君の大学まで届けに行くんだ〜」

「アルの…?」

「アーサーも一緒に行く?」

「そうしたいのは山々だが明後日は仕事なんだよな…」

「おうおうエリートは違うね〜。じゃあギルも一緒に行こうよ。アルフレッド君の通ってる大学だからヘラクレスさんも居るかもよ?」

「休日はいねーだろ?それに俺は本田ん家でマリオパーティー50ターン連続でやるって約束したんだよ」

「うわー何その無謀なの。チェッ。じゃあ一人で行ってきますよーだ」


大学かぁ〜。アルフレッド君の映画サークルもちょっと覗かせてもらおうかな!
うん、なんだか楽しみになってきた!


「年下ばっか居るからってナンパすんなよ!!!」

「それはどういう意味かなーギルベルト君」

「だってお前年下好きじゃねーか!!」

「違うよ馬鹿。年下に弱いだけなの!!」

「そーいうのを年下好きって言「吊るすぞ?」わないよなぁーアハハハ…」


懲りない奴だなぁ〜…
アーサーも同じ事を思っていたのかどうかは分からないけど、ギルを不憫な物を見るかのような目で見ていた。

その後、キッチンに放置してあった自分の手作りスコーンを発見したアーサーは、「そうか…食べてないのか…」と涙目になって部屋の隅っこで落ち込んでいた。
なんとかして慰めてみるものの、落ち込みきったアーサーは返事すら返してくれなくなってしまった。
落ち込むなら自分の部屋でやってほしい。なんでこいついつもいつも私の部屋で落ち込んだり暴れたりするんだろう。
仕方が無いので無理矢理ギルの口の中にスコーンを詰め込んで「アーサー!!全部食べたよ〜!だからもう落ち込まないで?」と頭を撫でてやると、涙目ながらも嬉しそうな笑顔で「ばばば、ばかぁ!別に嬉しくなんかな(以下省略)」と笑っていた。

ったく、めんどくさい奴…。

後の方でギルが床に倒れる音が響いたのは言うまでも無いだろう。


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