「うー。肩こったぁー!!」 「へー」 「旅行疲れがまだ残ってんのかなー。やだやだ歳とると疲れが残ってくるもんだよねぇ」 「へー」 「ってこら、聞いてねーなお前」 「へー」 ギルベルトが読んでいる漫画で頭を殴ってやろうかと思ったがその本は本田さんの所有物なので、ぐっと我慢した。 「ギルはさぁ。ちょっとぐらい私を労わってやろうって気はないわけ?いつも働いてくれてありがとうーみたいな」 「へー」 「よし、そのまま動くなよ。そのからっぽの頭かち割ってやる」 「ちょっ!ギブ!やめてぇえええ!!」 頭を抱えてソファの上でプルプルと震えるギル。 「おーい名前。この間借りてたDVD返しに…って、何やってんだよお前ら…」 「アーサー。あぁ、DVDはその辺に置いといてー」 「あぁ…。また名前の気にさわること言ったのかよお前。学習能力のない奴だよな」 「うるせぇ眉毛。用が済んだらさっさと帰れ!」 「黙れ不憫野郎」 相変わらず仲悪いな… ったく、この間ので懲りたと思ってたのに。 「はぁ〜」 「ん?どうしたんだ」 「いやぁね、ちょっと疲れたなぁ〜なんて」 「大丈夫か?ゆっくり休んでてた方が…」 「んー。肩が凝っちゃってね。足も痛いし…うーん、マッサージにでも行ってこようかな」 「んだよ。マッサージぐらいなら俺がやってやる」 「え、いいの!?」 「べっべつにお前の為じゃないからな!!俺の為にマッサージしてやるだけなんだからな!」 「うん。どう自分の為になるのか分からないけどよろしく頼むよ」 ソファに座って漫画を読んでいるギルの隣に座りアーサーに背を向ける。 肩に手を添えられ、ツボをピンポイントに押された。 うっわー…アーサーってマッサージ上手いなぁ… 「どうだ?」 「んー?気持ちいい〜」 「お前結構凝ってんな」 「そうなんだよ…日々の家事と仕事でねぇ…」 んー…ほんとに気持ちいいや〜 ちゃんと力の加減も分かってるし。 「痛くないか?」 「うん。あー、でももうちょっと力強くしてくれない?痛いぐらいが気持ち良いからさ」 「痛いのが気持ち良い…!?」 「何反応してんのアーサー…」 「ごっほん。力強くすればいいんだよな」 「そうそう」 ぐっと込められた力に体が前後に揺れる。 うあーいいわ〜これ。 チラっと横目でギルを見てみれば、相変わらず漫画を読みふけている。 「んっ…」 「ど、どうした?」 「いや、ちょっと痛かっただけ」 「悪い」 「謝らないでよー私がやってもらってんのに。そうだ、腰とかもやってくんない?デスクワークが多いから下半身が凝っちゃって」 「か、下半身!?」 「なんなのさっきから…」 「いや。なんでもない。じ、じゃあ横になれよ」 「はいはーい。ギルーソファで寝転びたいからちょっとそこどいて」 「…嫌だ」 何、機嫌悪そうだなー… ってゆーか、さっきから同じページ開きっぱなしじゃん。 「そこ空けてよギルー」 「嫌だ」 「ケチ…。まぁベッドでもいいk「退きますぅううう!!!」」 なんなのこの子…。 まぁいいや。ギルの理解不能な行動をいちいち気にしていたら埒が明かない。 ソファーにうつ伏せになって寝転び体を伸ばす。 はぁーこっちのが楽だわ。 「んじゃ、腰と足頼むねー」 「あ、あぁ…」 後方でごくりと唾を飲む音が聞こえた。 え、何…? 「い、いくぞ」 「いや、いちいち言わなくてもいいから。ってゆーかその体勢でマッサージするのきつくない?またがってやった方がアーサーもやりやすいんじゃ…」 「や、やりやすい!?」 「…なんなのさっきから」 何故か頬を染めているアーサー。 …なんか気持ち悪いんですけど。心なしか息も荒いような気がするし 「ま、まぁお前がそこまで言うなら…」 もう何もツッコむまい。 私の顔の横に手をついたアーサーはゆっくり私の体をまたがり、腰に両手を添えた 「す、ストップゥウウウウ!!!!」 「へ…?」 「待て!!分かった、マッサージなんて俺がいくらでもやってやるからそれ以上はやめろぉおお!!!」 本田さんに借りている漫画の本を片手で握りつぶしたギル。 「はぁ?アーサーがやってくれるんだから別にいいじゃん」 「いーや俺がやる!!もしくはエステでもマッサージでもどこでも行ってこい!!けどそのエロ眉毛紳士にだけはやらせんじゃねぇー!!!」 「誰がエロ眉毛紳士だ!!俺は純粋にこいつの体を労わってだなぁ…」 「お前さっきから息荒いんだよ顔も赤いんだよどう見たって変態だろーが!!お前はフランシスか!!」 「なっ!あんなのと一緒にするなよ馬鹿ぁ!!俺はそんなんじゃなくて…」 握り潰した漫画を放り投げたギルが私の両手を引っ張りアーサーの下からするりと抜けさせる …何がしたいんだこいつ… 「何やってんだよテメェ!!まだ終わってねーだろ!!」 「お前はさっさと帰って一人でトイレの戸棚に隠してあるエロ本でも読んでろ!!」 「なっなんでお前がある場所知って…!!ばかぁああああ!!」 顔を真っ赤にさせたアーサーは少し涙を浮かべ走り去ってしまった。 ってゆーか、トイレの戸棚にあるんだ。 「で、あんたはなんなのさっきから」 「うるせー黙れ糞女!!」 「はぁ?何その言い方。舌引っこ抜くよ」 「ったくお前はどうしていつもそう危機感っつーのもんが無いんだよ!?普通男にあんなことやらせるか!?」 「はぁ?アーサーは友達だし隣人じゃん。変態エロ眉毛だけど」 「それが分かっててなんであんな事させんだよ!?なんでお前はいつもそうやって…!!寿命が縮むだろバカ!!!」 珍しく食って掛かってくるギルを見て、ふつふつと湧き上がっていた怒りが消えた。 なんなの、意味分かんないんだよ… 「えっと…私が悪いの?」 「お前以外に悪い奴が居るとすればあの変態の隣人だぜ」 「そ、そうなの…。あの…ごめんなさい」 ギルがここまで言うという事は、私が何か悪いことをしたんだろう。 握り拳をプルプルと振るわせたギルを見てそう思った。 「はぁー…」 「ご、ごめん」 「もういい」 「うっ…ごめんギル」 「…ああもう!!」 「うぉ!?」 私の髪をぐちゃぐちゃに撫でたギルは「鳥の巣だぜ!」とゲラゲラ笑った。 って、本当になんなのこの子ー!! 意味わかんないんですけど!? 母さんあんたが分かんないよ!! 「とにかくだ!!あの眉毛にはマッサージやらせんなよ!!あとあんまベタベタ触らせんじゃねぇ!!あとそれから風呂上りとかあいつの前で薄着してんじゃねーぞ!お前いつもハーフパンツでうろうろしやがって!!ま、まぁ俺の前ではかまわねーけど!?あともっと俺にビールを飲ませろ!」 「いや、最後のおかしかったよね!?それ以外は分かったけどビールは知らないよ!!」 「ケチケチすんなよ」 「ケチじゃねぇ節約だ。お前のビール代でどんだけ出費が増えてると思ってんだよ」 「んじゃビールはいい。でもその他は…」 「はいはい分かりましたよー隊長殿〜」 「ガハハハ!!分かればいいんだよ分かれば!!」 「なーに威張ってんのプー太郎が!」 ギルのほっぺを引っ張ってやれば「いひゃい!!はらへぇえー!」と舌足らずのような言葉が返ってきた。 「あ…」 「ん?どしたの」 「本田に借りた本…」 「…あ」 部屋の隅っこを見れば、見るも無残にぐちゃぐちゃに握り締められた漫画本。 「…明日本田に返す予定だったやつ…」 「うそぉおお!?ちょっ何やってんの!!本田さん怒るよ!?あの人ああ見えて怒るとすっごい恐いんだからね!!」 「知ってるっつーのそれぐらい!!そうだ本屋!!本屋まだ開いてんじゃねーの!?」 「もう10時すぎだっての!!明日の朝一に買いに行くしか…」 ピンポーン 「「…」」 背筋に冷たい物が走る 『すみませーん。夜分遅くに、本田です。実はギルベルトさんにお貸しした漫画をちょっと私の漫画の参考にさせていただきたいと思い引き取りに来たのですがー…』 インターフォンのマイクから聞こえる本田さんの声。 「私知らない…!!頑張れギル!!」 「ばっ!お前なに自分の部屋に篭ってんだよ!?ちくしょー俺も入れろよ鍵かけんなぁああああ!!!」 「ごめんギル…本田さんだけは…私にもどうにもできない…」 以前に経験のある私はその後ギルの身に起こる事が目に見えてわかった。 無念ギル。あばよプー太郎。 布団の中に隠れていた私はリビングから聞こえるギルの悲鳴に聞こえないふりをし、そのまま眠りにつく事にした。 明日の朝、起きるの嫌だなぁ… . ←|→ |