「こんにちはーギルベルト君。相変わらずプー太郎やってるみたいだね!」

「よ、よぉイヴァン…お前も相変わらずだな」

「ふふふ」


怖い。その笑顔が怖いぜイヴァン。
はっきり言って俺はこいつのような、何を考えているか分からないようなタイプの人間は苦手だ。どうしても裏があるようにしか思えないんだよな。人の事なんて言えたもんじゃないが、何かを隠しているようにさえも見える。


「あー…お土産だったよな。あいつに渡せって言われてた」

「うん。嬉しいなぁ〜。じゃあ部屋に上がらせてもらうね!」


玄関先で渡してはいさよならの予定だった俺はその言葉に絶望を感じた。
入ってくんのかよぉおおお!!
つか俺こいつとそんなに仲良かったっけ!?
確か一回ここで飲んだだけだよな!?
ちくしょー特に話す事ねぇええええ!!!


「あ、そうだ。彼トーリスって言うんだけど一緒にあがらせてもらってもいいかな?」


イヴァンの後の方に立っていたスーツを着た男を指しているのか。
男かよ。一瞬女かと思ったぜ…


「あぁ。まぁ入れ」

「お邪魔しまーす」

「し、失礼いたします…!!」


あーもうめんどくさい事になっちまったぜ。
つか昼間は暇だからってどうなんだよこいつ!!社長だとか言ってたけどどこの社長だ?
名前の野郎ぬけてるとこあるから疑いもしないんだよな…
ったく、あの鈍感女が!!


「えっと、紅茶でいいか?」

「うん」

「あ、お構いなく〜」


トーリス、とか言ったっけ?
腰の低そうな野郎だな。イヴァンの部下か…?


「ねぇギルベルト君。京都旅行はどうだった?」

「ん?あぁ、まぁ悪くなかったぜ。美味いもん食えたしビールも浴びるように飲めたしな」

「ふふふ。良かったねー。名前とは同室だったんだよね?夜はどうだった?」


手を滑らせてカップソーサーを落とすところだった…


「い、イヴァンさん…!!そんな事聞くのは失礼ですよぉお!!!」

「だって気になるじゃないトーリス。トーリスだってそうでしょ?」

「いや、俺は名前さんという人をあまり知らないので…」

「もう。ノリが悪いなぁ〜」


そんなノリいらねぇ。
二人に紅茶を出し、トーリス…って奴のお礼の言葉に軽く答えて自分も座る。
さっさと用事をすませりゃいいんだよな、うん。


「あー…これが土産だ。菓子は沢山あるからライヴィスや他の方にもどうぞ…だとよ」

「わーありがとう!!ふふふ、嬉しいなぁ」

「すみません、わざわざありがとうございます」

「別に…俺が買ったんじゃねーし」

「名前さんによろしくお伝えください」


はいはい分かったから早く帰れ!!!
せっかく本田に借りたエロゲーを名前の居ない間にプレイしようと思ってたのに…!!
土産の紙袋の中をごそごそと漁っていたイヴァンが、一瞬動きを止めた。


「ねぇギルベルト君。これは何?」

「これって…」


手に取った、コケシ一本。


「こ、コケシ…」

「それは分かってるよ。ギルベルト君って見た目によらず面白いこと言うよね!」

「いや、それは違うぜ!?そう!!名前の奴が選んだんだからな!!俺はやめとけって言ったのにあいつがイヴァンにはこれしかないよぉ〜とか言って買ったんだからな!!俺は断固として関係ないぜー!!!!」


冷や汗をかきながら言い切ると、相変わらず不気味な笑顔を浮かべたイヴァンの顔から笑みが消えた。
や、やばい…。俺だって京都の土産にコケシなんて貰ったら不穏に思うぜ。
コケシといやぁ名産地の…どこだったか知らないけど京都ではないはずだ…!!
何故コケシ、WHYコケシ


「名前が…僕の為に選んでくれたの?」

「あ、あぁ!!」


これ、名前にばれたらベランダ吊るしだけじゃすまないだろうな…


「そっかぁ。名前が僕の為に…。ありがとう!!すっごく嬉しいよ!!じゃあこのコケシ君の名前は”ギルベルト君3号”にするね!!何処に出掛けるにも”ギルベルト君3号”と一緒に連れて行くよ!!寝るときもお風呂の時も。後はそうだなぁ、ちょっと呪文でも使えば魂でも乗り移ってくれそうだよね!!ちょうど2号が焼けちゃって困ってたんだ〜。ありがとう、一生大切に使わせてもらうよ」


え…ちょっ、3号ってなんだよ2号が焼けたって…!?え、ちょー…えぇええええ!?
なんで俺の名前!?なんで俺の名前つけてんのこいつ!?


「あー…イヴァン…できれば他の名前にしてくれよ」

「えぇー。じゃあ君の苗字を取ってバイルシュ君ってどうかな」

「やめろぉおおおお!!」


どっちも同じだ!!つかこいつ俺に恨みでもあんのかよ!?
なんで俺、なんで俺…!?


って…あれ…?

なんでこいつ俺の苗字知って…



「ふふふ。それじゃあそろそろ帰るね。コケシ…じゃなくてギルベルト君3号をありがとう!大切に使うよ!」

「し、失礼いたしました!!」


呆然としている俺を後にそそくさと帰っていく二人。


「いったい何者なんだよ、あいつ…」


ちくしょう、なんで名前の周りに集まる奴はわけのわからない連中ばかりなんだよ。


「ああもう…!!エロゲーでもして気を晴らすしかねーな!!」


あのコケシの名前の事もイヴァンが何故俺の苗字を知っているかもどうだっていい。
今の俺はエロゲーしか興味がないぜ。
本田に「このマユリンちゃんというキャラがとっても素敵で原画はあの有名な漫画家の(以下省略)」と勧めてくれたゲームだ。きっと面白いものに違いないぜ…!!

その後エロゲーに夢中になりすぎた俺は時間がたつのも忘れてプレイばかりしていた。
後から小さく呟くように「何やってるのかなギルベルト君」という声が聞こえて、恐る恐る振り返ってみると、案の定そこには名前の姿があった。
画面の中では本田一押しキャラクターマユリンが「いやぁん!!やめてお兄ちゃん!!そこは、そこはダメなのぉ〜!」と普通の人間ではありえないようなアニメ声で喋っている。
慌てて画面を体で隠し、「違う!!これは…!!」と言い訳をすると、「お前は母親に内緒でエロ本読んでる中学生かぁああああ!!」と殴られた。

ちくしょう、なんで俺だけいつもこんな目に合うんだよ…!!!
今日はとんだ厄日だぜ…



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