「んー…よく寝たー…。ギルおはようって…そんなとこで何してんの」

「別に…」


旅館での朝、今回は昨日のお酒は残っていないようでスッキリとした目覚めだった
隣で寝ているであろうギルの姿はそこになく、ふと窓の方を見てみると椅子に座り布団に包まっているギルの姿があった。
ほんとに何やってんだろこいつ


「スッキリとした目覚め!ギルもちゃんと眠れた?」

「はいそうですね。お蔭様で」

「何その口調。てか目の下に隈できてるよ」

「…馬鹿野郎!」

「え、いや意味分かんないし」


何なのこの子。ったく近頃の若いもんは考えている事が理解できんよ、まったく…


「朝食は9時だっけ?もう八時半かー。早く着替えて行かないとね」


着替えを持って洗面所へ向かう
今日は何時に帰れるだろう…
うーん、帰りにまたアーサー車出してくれないかなぁ…
来た時はついでだったし、わざわざ迎えに来てもらうのも悪いよね
でもあの量のお土産を持って帰るのは辛いな〜
まぁギルも居るし大丈夫か


「よーしギル朝飯行くぞー!!」

「ぬああぁああ!!ちょっ!!まだ着替え中だよ馬鹿ぁああ!!」

「何前隠してんの。家では上半身裸でウロウロしてるくせに」

「いや、そうなんだけど…」

「早く行くよー」


朝ご飯のバイキングを食べに行くと、先に来ていたスーさんとティノ君に「大丈夫ですか?」と尋ねられた
あんまり覚えてないんだけど、きっと昨晩はこの二人にも迷惑掛けちゃったんだよね…。
朝食を取りながら詳しい話を聞くと、どうやら宴会場で寝てしまった私を部屋まで運んでくれたのはスーさんだったらしい。
スーさんの背中広いから寝心地がいい…って、そうじゃなくて…!!
申し訳なくなって、二人にお礼を言うと優しく微笑まれた。
ああもうっ!!二人とも大好き!!


朝食を終え、一息してバスに乗り込み数十分移動する。
今から行く地主神社は縁結びで有名な神社なんだよね〜。
利きそうなお守りエリザに買ってあげよーっと!!


「わー!!これが有名な恋占いの石か〜」

「二つの石の間を目を閉じたまま歩けたら恋の願いが叶うと言われているんですよね」

「何度もやるとそれだけ恋愛の成就も遅れちゃうんだよねー。あと誰かのアドバイスでたどりつくと人の手を借りて恋を成就させられるとか」


境内は若い女性客や外国人が多く見られる。
おみくじを結び手を合わせてお願いをする女の子の姿を見て思わず頬が緩んだ。
恋する乙女の姿って可愛いもんだ


「よーし俺がやってみっぺ!!」

「ってあんたかよ!!成就したい恋なんてないでしょーが!!」

「ものは試しだべ」


ガハハと笑って目を瞑り石の間を歩いていくデンさん。うわー…他の人も見てるよ…恥ずかしいなぁもう!!
隣を見るとアイス君が「見ていられない」と言わんばかりに顔を背けていた。


「名前さんもやられたらどうですか?」

「んー?私は特に成就させたい恋も無いし…。私よりティノ君かスーさんがやってみれば?」

「えええ!?ぼ、僕は好きな人も居ないですしいいですよ…!!」

「俺も必要ね」

「んじゃギルやってこい」

「なんで俺!?やるかよあんなの!!」

「いいからやってこい。ちゃんと私がアドバイスしてあげるからさ」

「ややこしくなるから止めろ!!」


嫌がるギルを無理矢理石の前に立たせて持っていたハンカチで目隠しをする。


「はいどうぞー」

「ちくしょー!!やればいいんだろやれば!!!」

「そうそう。はいそのまま歩いてー。あーちょっと左に外れた!!右寄って右!そのまま真っ直ぐー…って、ダメダメダメギル!!あぶなっ…!」


ゴツン


「い、いってぇえええ!!!」


大きな歩幅で歩いていたギルは石に思いっきり足をぶつけてしまった。
これってたどり着いたって言ってもいいのだろうか…。


「お疲れーギル!!」

「何がお疲れだ!!足いてぇ!!」

「でもちゃんとたどりついたじゃん!一応!!」

「一応ってなんだよ一応って!!!」


足の臑を押さえて涙目になっているギル。
ちょっと可愛そうになったので、優しくさすってあげると「触るなー!!」と顔を赤くしていた
気難しい年頃なんだろうなぁ…。


「あ。エリザの恋愛成就のお守り買わないと!!」

「知り合いに恋を実らせたい方が居るんですか?」

「まぁね。すっごく美人な子で一途だし優しいし子でさぁ〜!」

「へぇ〜僕もいつかお会いしたいなぁ〜!」

「今度会わせてあげるよ!行きつけのカフェで働いてるから一緒に行こう?スーさんも!」

「ん。ええなぃ」


エリザの為に利きそうな恋愛成就のお守りを買って大事に鞄の中にしまった
きっと喜ぶだろうなぁエリザ。


「はぁー…これでもう観光は終わりかー」

「後は帰るだけですね」

「そうだね。あーあ〜昨日はUNOできなかったしまだまだ京都を観光しきれてないなぁ〜。もう一泊できればいいのに」

「ふふふ。早く帰って休まないと明後日にはまた仕事なんですから!」

「ああもうそれを言わないでティノ君…!!!」

「あはは。ごめんなさい!」


名残惜しいけど京都とはこれでお別れだ。
今度はプライベートでゆっくり堪能できるといいな


「お前携帯鳴ってんぞ」

「え、うそ。…ほんとだ。アーサーから着信?」


なんだろう。


「もしもし?」

『よお。まだ京都か?』

「うん。まぁ今バスで出たとこ」

『そうか。何時頃に帰って来れそうだ?』

「今がお昼過ぎだから…渋滞がなければ5時頃には帰れると思うよ」

『そうか。じゃあ会社まで迎えに行ってやるよ』

「え、いいの!?」

『たまたまだ。昨日アルフレッドとマシューのとこに泊まったから帰るついでだからな!!』

「そっかー。今アルフレッド君とマシュー君そこにいるの?」

『あぁ。テレビゲームしt『なんだいアーサー!!電話の相手もしかして名前かい!?』ばっばか!!静かにしてろ!!』

『ハロー名前!!旅行は楽しかったかい!?』

「アハハ。楽しかったよーアルフレッド君!お土産買ってきたから楽しみにしててね」

『OH!!流石名前なんだぞぉおお!!じゃあ明日君の家に取りに行くよ!!』

『馬鹿!!旅行で疲れてんだから休ませてやれ!!』

「大丈夫だよー!どうせ渡しに行く予定だったし来てくれると私も嬉しい!」

『ほんとかい!?あ、ちょっと待ってくれよ。マシューに代わるよ』

『もしもし。名前さん?』

「マシュー君!大したものじゃないけどお土産買ってきたから明日アルフレッド君と一緒に家に取りに来てね!」

『わぁあ〜〜!!ありがとうございます名前さん!とってもうれ『そういうわけだから名前!!明日遊びに行くからな!!前に作ってくれたホットサンドまた作ってほしいんだぞ!』

「了解であります!」

『じゃあアーサーが煩いから代わるよ』

『もしもし!?悪いな弟達が…』

「大丈夫大丈夫!」

『じゃあ近くになったら連絡してくれ。昨日と同じ場所に迎えに来とくから』

「うん、ありがとう!!それじゃあ後でね!」

『あぁ』


やったー!!これで重い荷物を抱えて歩かなくてすむ!!


「やったよギルー!帰りもアーサーが迎えに来てくれるって!」

「げ…まじかよ。まぁ荷物持ち運ばなくてもいいから楽だよな」

「でしょでしょ」


今回ばかりはアーサーを称えるよ。

京都からの帰り道は長く、持ってきたゲームでギルと通信で戦い、お互い一歩も譲らない決死の戦いが繰り広げた
興味があるのか、後ろの席から顔をヒョコっと覗かせたアイス君とノルさんは真剣にゲームの画面を凝視していた。
なんか恥ずかしいなぁ…
それから4人で交代でバトルをし、予想外にノルさんが強くて驚いた
やる時はやりますね、ノルさん…
そんなこんなで見慣れた景色が窓の外に広がって行くと、「あぁ、帰ってきたなぁ」なんてちょっぴりホッとしたような気がした
バスに降りてデンさんの方から「かいさーん!!」との一言で挨拶を終え、各自荷物を持って帰っていく。

肩を小さく叩かれ、振り返ってみると相変わらず無表情なアイス君が居た
小さく「また、会えると嬉しい…」と呟き、ちょっと頬を染めていた。
かわっ…!!心の中で葛藤しつつ、「うん!よければ何時でも私の家に遊びに来て!」と住所を書いた紙をアイス君に手渡しした。
嬉しそうに微笑んだアイス君はデンさんの呼びかけに渋い顔をして「じゃあ、また」と言って去ってしまった。
うん、また会えるといいな


「名前」

「アーサー!ごめんねーわざわざ来てもらって」

「ついでな、ついで」

「ああそうでしたね。ついでに来ていただいてありがとうございますぅー」

「う…荷物はこれか?」

「うん」

「あとそっちもだな。車に運ぶぞ」

「あ…。ありがとー!」


傍に置いてあったお土産と、私の手荷物をさりげなく手に取ったアーサーは自分の車へと運んでいく。
お蔭で私の手は空っぽだ。
ああいった事が自然とできると、やっぱりアーサーも英国紳士なんだなぁ〜としみじみ思ってしまう


「俺の持ってる荷物も持って行けよ眉毛!!」

「ヤローは自分で運べ。そんな道理はねぇ。名前、助手席乗れ」

「はーい」


喚くギルを無視してアーサーが扉を開いてくれている助手席へ座る。
荷物を抱えたギルもふて腐れながら後の席に乗った。


「あっ名前さーん!!」

「あ、ティノ君にスーさん!お疲れ様ー!お先に失礼するね!」

「はい!あれ?その方はももも、もしかして名前さんの…!!」

「やだなーティノ君!!これはただの運転手だよ〜!」

「なっ…!!」

「ブフッ…!!運転手だってよ!良かったなー眉毛紳士様!!」

「テメェ…後でフルボッコだ…」

「やってみろバーカ」

「何喧嘩してんの。それじゃあまたね、ティノ君スーさん!!」

「はい!お疲れ様でしたー!」

「…まだな」


二人に手を振って別れ、車が発進する。
ふぅ…と小さく一息つくと、アーサーが「お疲れ」と微笑んだ。


「京都はどうだった?」

「楽しかったよねーギル。ギルってば清水の舞台から落ちるところだったんだよ」

「いや、お前のせいな。お前がむりやり落とそうとしたんだろ!!」

「なんだよ。そのまま落ちて帰ってこなきゃ良かったんだよお前」

「てめぇ…」

「あと夜は上司に散々飲まされてさー。まぁさっきの二人が部屋まで運んでくれたから良かったけどね」

「あぁー、さっきの…。あのさ、さっきの背の高い眼鏡かけた奴すっげー俺の事睨んでた気がするんだが気のせいか?」

「あぁ。スーさんは目つきが悪いうえに顔が怖いだけだから」

「あとこいつに対して過保護なんだぜ」

「成る程な」

「いやぁ。アーサーといいスーさんやティノ君と言い、私は友達に恵まれてるよなぁ〜」

「感謝しろよな」

「はいはい感謝してますよー。帰ったらお土産開けようね」

「変なもの買ってきてないだろうな…」

「あー。アーサーは大丈夫だけど他の人のお土産にコケシが入ってるんだよね」

「コケシ!?なんでコケシなんだよ!?」

「だってギルが!!」

「日本っぽくていいじゃねーか」

「せめて日本人形とかにしろよ」

「いや、そっちの方が怖いと思うんだけど」


マンションに到着し、家の中までアーサーとギルに荷物を運んでもらった
つかれきった体をソファーの上に叩きつけるように寝頃がる
あぁー。疲れた。でも楽しい二日間だったなぁ〜
渡したお土産を開けながら「今日の夕食は俺が作ってやろうか?」ともじもじするアーサーに、二人声を合わせて「お願いですから止めてください」と頭を下げた。
疲れきった体にあの料理は厳しすぎる
適当に晩御飯を作り、三人で一緒に食べると後片付けもしないで床に転がり、そのまま眠りにつく
遠くでギルとアーサーが喧嘩している声が聞こえた気がするけど、疲れきっている私は目を覚ます事無く眠り続けた


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