ルンルンと陽気な気分でお風呂のある場所へと向かう途中、私達を見つけ子供のような無邪気な笑顔で笑うデンさんに遭遇した。


「よーぉ!!お前らも今から風呂に行くっぺ?」

「デンさんもですか。やっぱ旅と言えばお風呂ですよねー。私もう楽しみで仕方ないです!」

「そっかそっか。そっちに一緒に入ってやろうか?」

「だから訴えますよセクハラ上司」

「んな事しても俺が勝つに決まってんべ!」

「権力かぁあああ!!!」


だから嫌なんだよこの上司…!!
お偉いさんな上に権力もあるからなー…ちくしょう。


「それじゃあギル、後でね」

「あぁ」

「名前弟!!一緒に流しっこすんべ!!」

「はぁ!?ちょっ、腕掴むなぁあ!!」

「楽しみだっぺー!」

「やめろぉおお!!」


デンさんに腕を掴まれて男湯へと連行されるギル。無念…


「さて…私も入っちゃおう」





小さな旅館に加えて平日なせいか、女湯には誰も居ないようだった。
これって貸切ー!?やったー!!


「はぁあ〜…いい湯だなぁ〜…」


今頃男湯でギルの奴デンさんにふり回されてるんだろうなー…
まぁたまには痛い目に合うのも悪くないよね。

お風呂を次々と堪能し、最後に向かったのは露天風呂。
いい眺めだなー!!


「やっぱ露天風呂は欠かせないよね〜」

「おぉー!!名前!!そっちにいんべかー!?」

「こ、この声は…デンさん?」


塀を挟んだ向こう側からデンさんの声が聞こえる。
え…塀一枚隔てただけですか、これ…


「い、居ますよーデンさん」

「おぉー!そっちは女だらけじゃろ!?」

「いえ、私一人ですよ」

「じゃあお前の薄い胸で我慢すんべか」

「薄いって…って、何やってんですかあんたぁあああああ!!!」

「おぉー居た居た」

「ぎゃぁああああ!!!誰か、変態ぃいいい!!」


塀を登って顔を覗かせたデンさんにサーッと血の気が引いていくのが分かった
ってゆーか何してんのこの人ぉおおお!?


「やっぱおめさ乳ちいさ、グフォッ!!!」

「あれ…」


こちらを覗いていたデンさんが何かに引っぱられるようにして姿を消した。


「何しやがんだテメェ!!」

「おめ、犯罪って言葉しってっか?」

「ああもう止めてくださいよデンさんもスーさんもぉおおお!!ギルベルトさんも一緒に止めてくださいよぉおお!!」

「いや、俺はちょっと…」

「えええー!?お二人ともやめっ…あれ?ノルさんその桶どうするて、えぇえええー!?」

カッコーン

「いでぇ!!何すんだっぺノル!!」

「死んでこい」

「あぁ!?」


塀の向こうの状況が手に取るように分かります。
ああもう本当に最悪だなあの上司ぃいいい!!!タオルで隠しておいてよかったよ、ほんと…
お風呂からでたら一発殴ってやろう、うん。



―――



「はぁー…いいお湯だった」

「あ…」

「あ。えっと、アイス君?」

「うん」


休憩所で一息つくと、浴衣姿のアイス君がやってきた。


「アイス君もお風呂上りなの?」

「うん…煩いから出てきた」

「あぁー…あのメンバーじゃ仕方ないね」

「うん。あと、うちの馬鹿が変な事してごめんなさい」


小さく頭を下げたアイス君。もしかしてさっきアイス君もあの場にいたのかな?
身内の失態を恥ずかしく思っているのか、どこか申し訳なさそうな表情で私を見た。


「大丈夫大丈夫、あの人の横暴さには慣れてるしね。だけど一発殴らせてもらわないと気がすまない」

「うん。それはいいと思う」

「だよね。話が分かるなぁアイス君は」

「そう…?」

「そうだよ!」

「そっか」


うっわー!!なんか可愛いなぁアイス君!
こんな可愛い弟が居たらー…って、こんなこと考えてるからギルに年下好き扱いされるんだよね…


「あ、コーヒー牛乳でも飲む?奢るよー」

「うん。ありがとう」

「やっぱ旅館のお風呂上りはこれだよねー」


牛乳瓶のコーヒー牛乳を自動販売機で買って二人で座って飲んだ。
横目でアイス君の方を見ると彼も私のほうを見ていたのか、目があってどちらともなく笑顔になった。


「あーいい湯だったっぺさー!!」

「あ!!来たな変態上司ぃいい!!」

「うおっ!?なんだっやんのか!?」

「あんたいつも私が大人しくしてると思ったら大間違いですよ…?」

「おうおうかかってこい!!相手になってやんべ!!」

「止めておいたほうがいいと思うぜ…」


次いでやってきたギルが少し離れた場所で小さく呟いた。


「死にさらせこんの糞上司ぃいいい!!」

「ガハハハ、ってグー!?ちょっグーは無し、ぐえぇえええ!!」


拳を握りデンさんの頬をおもいっきり、反対側の手で鳩尾めがけてパンチすると低い音を立てて床に倒れてしまった。


「上司だから手加減しますけど、本来ならこのままベランダから吊るしてますよ」

「この女はマジでやるぜ。おれなんて毎日のように吊るされてる」

「いってててて…。おめ自分の上司なぐったっぺ!?」

「何が上司だ。いい年して女湯覗きやがって。さっさと嫁さん作って身を固めて落ち着いたらどうなんだ変態上司」

「ながながいい女さいなぐてなぁ。おめさ嫁に来てくれんだったらいいけど?」

「誰が行くか。死ねよ」


あーすっりした!!
すがすがしい気分で振り返ると、いつの間にかそこに居たスーさんとティノ君に加えアイス君の三人が私を見ていた。本田さんばりの「グッジョブです」と言わんばかりに親指を前に出してくれた。
ありがとう皆。私の勇姿を見届けてくれて。
親指を突き返すと笑顔になる三人。


「お前…上司殴ってクビにならねーのかよ!?」

「大丈夫。そんなちっさい男じゃないからデンさんは。ねーデンさん」

「俺は懐でけぇからな!!」

「ほら!」

「この会社大丈夫か…?」



―――



夜の宴会ではデンさんが粋のいい声で「おつかれー!!」の音頭で乾杯をし、机に並ぶ豪華な夕食に舌鼓を打った。


「んー!!刺身新鮮!!」

「ビールうまいぜー!!」

「うわぁああ!!ギルベルトさんよく飲まれますねー」

「タダ酒だしな!」

「家でも関係なく飲みあさってんだろーが」

「いいだろ今日ぐらい」

「ったく…。あ、スーさんお酒注ごうか?」

「ん。悪いなぃ」

「いえいえー」

「おい名前!!こっち来て俺の酌しやがれー!!」

「まだ食べてるんですから後にしてくださいよ!!ったくあの上司全然懲りてないな…」

「まぁまぁ。思いっきり殴らせていただいたんですから今日は多めにみましょうよ。ね?」

「うん。ティノ君のその言葉に免じて許す」

「それにしても名前さんかっこよかったですよねー!僕すっきりしましたよ!」

「ながながいい動きしでだな」

「うん。まぁ慣れてるから」

「慣れって…もう名前さん冗談はやめてくださいよー!」

「いや、冗談じゃねーぞ。こいつ家じゃ俺の事縛ってベランダからつr「ギルベルトくーん?」え、いや…何も」


向かい側の席に座っているティノ君の顔が青ざめている。


「そそそ、そういえば名前さんのおお蔭で例のサディクさんにやっていただいた家具の件、お客さん側にも出来がいいって褒められちゃいましたよ!!」

「へぇー良かったじゃん!!またお礼しに行かなきゃねぇ。でもあんなに急だったのによくそんなものが…。やっぱりすごいなぁサディクさん!!」

「ですよね!男気があると言いますか…なんだか憧れます!」

「だよねだよね!!私もサディクさんみたいな人いいなぁーと思うんだよね!今時居ないような男らしい人というか…」

「あれ、もしかして名前さんサディクさんの事好きなんですかー?」

「ちがっ!憧れてるだけ…ってスーさんんんんん!?箸!!箸折れちゃってるよぉおお!?」

「うひゃぁあああ!!どどど、どうしたんですかスーさん顔がこわっ…!!」

「………なんでもね」

「ああもう名前さんがサディクさんの事好きとか言うからスーさんがまた怒っちゃったじゃないですかー!!」

「私のせい!?ティノ君が言ったんでしょーが!!」

「なんだよ。お前も過保護か?ったく最近こんな奴ばっかだな」

「ギル、スーさん敵に回すと痛い目見るよ」

「…すまねぇ。箸とっかえてくる」


いつもより一層凄みを増した表情のスーさんはそう呟いて宴会場を後にした。
なんか前にもこんな事があったような…


「アハハー…相変わらずですよねぇ、スーさんも…」

「うん。まぁ友達思いのいい人なんだけどね」

「そうですね。僕だってこっちには友達が多く居るわけじゃないし気持ちは分かりますよ!それに毎日一緒に居る友人ですし大事にしたいって思いますものね」

「そうだね。私もそうだよ!ティノ君とスーさんは大切な友達だしね」

「はい!嬉しいなぁ〜!スーさんにも言ってあげましょうよ!きっと喜びますよ!」

「うん!そうだね!」


いいとも友達を持って私は幸せです。

その後、酔っ払ったデンさんに無理矢理酒を何杯も飲まされ頭がクラクラとした。
調子に乗ったデンさんが私に飲ませ続けるもんだから、ブチ切れたスーさんがデンさんに喧嘩を売って殴り合いのオンパレード。
ああもう、なんでうちの会社の人たちってこんなに血の気が濃いの…!!
ふらふらとする頭を必死に抑え、ティノ君と二人で喧嘩を止めようとしない二人を必死に抑えた。
このままじゃ本気で怪我をしかねない。


「う…きもちわるっ…」

「名前さん大丈夫ですかー!?」

「うん…でもちょっと飲みすぎたみたい…。デンさんの野郎〜」

「水、いっが?」

「うんー…」


そういえばギルはどうしたんだろ…
さっきから静かな気がするけど


「って、寝てるよこいつ…」


ビール瓶を抱えて幸せそうに眠っているギル。
ちくしょう、人が大変な目に合ってるって言うのに…!!


「ギルのあほー!!」

「ぐふっ!!な、なんだよいきなり!?つか上に乗るな馬鹿!!」

「ギルさん…飲みすぎて頭痛いです、はい」

「酔ってんじゃねーか…」

「デンさんしつこすぎんだよね…。あ、かえってUNOろうぜ」

「無理だろお前!さっさと部屋帰って寝ろ!!」

「やだよUNO無しの旅行なんて旅行じゃねぇ」

「帰ったらアーサーでも呼んでやってろ!!」


アーサーはやたらとカードゲームに強いからあんまりやりたくない。
またがっているギルの上から退き、ボーっとする頭を必死に抑える。
だけどだんだん瞼が重くなって、視界もぼやけてきた。

だめだめ…このあと皆でUNOするんだから…
でも頭痛いなぁー…
でも、UNOが…



「あれ、名前さん寝ちゃいました?」

「またかよ!!こいつ酔うとすぐ寝やがるぜ!!」

「そうみたいですね。部屋まで運んであげましょうか…起こすのも可哀想ですし」

「んだな」


 
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