今日はトニーさんのバイトしてるスーパーで大売出しがある。
なんと卵一パック52円お一人様3個限り…!!
その他にもじゃが芋やにんじん類の安売りもするようで…
これはもう、行くしかないでしょう…!!


「いいかギル!!試合開始は午後6時ジャストだ!!パート帰りや専業主婦で溢れかえっているこのスーパーで勝ち抜く為には3つの要素が必要となる!!一、スピード!!ニ、気合と根性!!三、図々しさだ!!分かったな!!」

「いや、わかんねーよ!!てか何だよそのキャラ!?」

「開始まであと3分!!!気合入れていくぞー!!」


一時閉鎖されたスーパーの入り口付近に今か今かと身構えているおばさん軍団と、恐ろしいものを見るかのように遠巻きに見ているおじさん達。


「ってゆーかお前けっこう稼ぎいいんだからこんな事しなくてもいいんじゃねーの?」

「どっかの誰かのビール消費率が高すぎるんだよ。切り詰めるとこは切り詰めていかないとね」

「俺のビールよかお前のデザート類の方が高くついてんだろ」

「そっか。じゃあ今日からビールは無しにしよーう!」

「前言撤回でお願いしまーす!!」


ともかく卵とじゃが芋はなんとしてでも手に入れなくては…!!
お店の奥から出てきたスーパーの店長に全員の視線が集まった


「それではこれよりチキチキ☆春の大安売り大会を始めまーす!!!よーい、スタートォオ!!!」


一斉に飛び出したおばちゃん軍団に負けじと目標目掛けて突っ走る
遥か後ろの方でギルの叫び声が聞こえた気がするけど…この際構っていられない
こうなったら一人でやるしかない…!!!


「あぁ〜名前ちゃんやーん!なになに、名前ちゃんも大安売りに「トニーさんどいてぇええええええ!!!!」 グフッ!!!」


おばちゃん軍団の群れに弾き飛ばされたトニーさん。
私はただ心の中で「無事でいてください」と願う事しか出来なかった。


「危険ですので押さないでくださーい!!!」
「ぎゃぁああアンタ私の籠に入れた物勝手に取ってんじゃないわよぉお!!」
「押さないでよぉおお!!卵が割れちゃったじゃないの!!」


まさにここは戦場だ…!!
女達の熱き戦いが今ここで繰り広げられている!!


「負けるかぁああ!!こっちだってヒモ養うのに精一杯なんだぞちくしょぉおお!!」

「こっちなんて旦那がリストラされてプーになったのよぉお!!」

「私なんて息子が引き篭もりで旦那まで一緒に引き篭もっちゃったんだからねぇええええ!!」

「そんな事知るかぁあああ!!!」


激しい戦いの中で5つの卵パックを籠に入れた私は人ごみを潜り抜けて次の戦場へと向かう。
次に向かったのはジャガイモ。
卵に比べて競争率が低いのでこっちはすんなりと手に入れることが出来た


「ハァ〜…疲れたぁ〜」

「お前…マジ凄すぎだろ…」

「ギル…あんた何してたの手伝いもしないで!!」

「俺にあんな場所に飛び込めっつーのかよ!?無理だ!!俺にはそんな勇気はねーぞあんなおばさん軍団に立ち向かうなんて!!!」

「ざけんなよダイブするなり滑り込むなりして入って来いよ」

「いや、無理無理。それに途中でこいつ拾ってそれどころじゃなかったんだよ」


床にうつぶせになって倒れているトニーさんを指差してギルは大きくため息をついた


「そうだった!トニーさん!!」

「あぁ…名前ちゃんか…。最後に自分の顔が見れて幸せや…で…」


消え入りそうな声でそう呟くトニーさんのわき腹をギルが思いっきり蹴り飛ばした。


「うげふっ!!なっ、何すんねんアホベルト!!!」

「誰がアホベルトだ!!めちゃくちゃ元気じゃねーかお前!」

「うっさいわぁ。一回こうゆうのやってみたかったんやからええやろ」


けろっとした顔で起き上がるトニーさん。
心配して損した…!!
よく考えてみればトニーさんはあのアーサーと張り合ってた程の人だもんね。これしきで逝ってしまうような軟弱な体はしていないはずだ。


「それにしても名前ちゃんかっこよかったなぁ。あのおばちゃん軍の中で生き延びれる上に戦利品まで奪えて…」

「まぁ女もやる時はやるって事にしておいて」

「名前ちゃんはええ奥さんになるなぁ。将来がめっちゃ楽しみやわ〜」

「何を楽しみにしてんだよテメェは」


ほんわかとした笑顔で私の乱れた髪を直してくれるトニーさんの指がくすぐったかった。
ほんと、癒される。


「トニーさん今日はもう仕事終わりなの?」

「そやでー。今からちょっくら子分とこ遊びに行くんや〜」

「子分?」

「俺の子分!ロヴィーノって言うんやけど生意気で我が侭やけどかわええとこもある奴やで」

「へぇ〜。だからトニーさんは親分なのか」

「そういう事!」

「一緒に晩御飯どうかと思ったんだけど残念だなぁー」

「えぇええ!?ああもうなんでいつもいつもタイミング悪いねん俺ぇええ!!この際ロヴィーノの約束は断って…あぁでもまた怒られるしなぁ…」

「まぁ暇なときにでも連絡して!いつでも歓迎してるから!よければそのロヴィーノ君も一緒に」

「ほんまに!?ほんまにええん!?めっちゃ嬉しいわ〜!…はっ!でもロヴィーノはあかん!あいつめっちゃ女タラシやから名前ちゃん口説くに決まっとるわ…!」

「そ、そうなんだ…」

「ええかー名前ちゃん!どっかで頭からくるんとした毛が生えた男にナンパされても絶対について行ったらあかんよ!!分かった!?」

「分かりましたー隊長ー」

「よーしええ返事や!」


撫でていた頭をこんどはわしゃわしゃにされた。
なにこれ、鳥の巣みたいになってるんですけど…


「それじゃあまたな〜!あとギル、さっきの蹴りの借りは今度返したるさかいなー」

「いらねーよそんなもん!取っとけ!」

「いやいや遠慮しなさんな!ほなまたな〜」


この二人って本当に仲いいんだろうか…
ともかく欲しいものは手に入れたしさっさと帰ろう。


「ギルー帰るよ」

「…」

「何突っ立ってんの」

「なんでもねーよバカ!」


いきなりギルの手の平が見えたかと思うとぐりぐりと頭を撫でられた。
まったくわけのわからん奴だなぁ…

その日の夕食は戦利品である卵をふんだんにつかったオムライスとポテトサラダを作った。
ほんとはとろーっと卵がとろけるオムライスが作りたかったんだけど、やっぱり難しいよなぁ…
ぐちゃぐちゃになったオムライスを見たギルの顔が引きつっていたけどあえて無視を決め込んだ。
「お前ってたまに突拍子も無い事するよな…」と呟くギルから缶ビールを奪い一気飲みをしてやると涙目になって「俺のビール…!!か、かんせつキ…!!」とぶつぶつ呟いていたが気にするまでも無いだろう。


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